2015年

3月

17日

ワシントンDC 2015年3月17日号

 ◇新たな「国家安全保障戦略」 問われる米国の指導力


須内康史

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)


 過激派組織「イスラム国」(IS)との戦い、欧州でのテロの続発、ウクライナ危機など、昨今の国際情勢は不安定さを増している。これら一つ一つの事象に対し、米国の対応は常に注目され焦点となる。そうした中、オバマ大統領は2月6日、米国の包括的な外交・軍事政策の指針を示す「国家安全保障戦略」(NSS)を発表した。

 NSSは、国家安全保障法に基づき米国大統領が議会に提出するもので、オバマ政権では、今回が2010年5月以来2回目の提出となる。29ページに及ぶ今回のNSSは、「安全保障」「繁栄」「価値」「国際秩序」の各章で構成され、パートナー国と協働した持続可能な手法によるテロとの戦い、大量破壊兵器の拡散防止(北朝鮮やイランの核問題への取り組みなど)、アジア太平洋のリバランスの推進、中国との建設的な関係の発展と国際ルール順守要求、ウクライナ危機への対応を含めた欧州との同盟関係の強化、などを盛り込んでいる。また、気候変動対応やエネルギー問題、エボラ出血熱のような保健問題も安全保障上の問題と位置付けた。

 今回のNSSには、オバマ外交の特徴が見て取れる。序文の中で、現在の複雑化した世界においては短期間に解決することができない安全保障上の課題も多く、“戦略的忍耐”(strategic patience)が必要となると主張。そして、「賢い安全保障戦略は軍事力だけに頼るものではない」「米国の有するすべての強みを活用して包括的な対応を追求する」と述べている。軍事力行使のみを重視するのでなく、同盟友好国と連携し、経済制裁や米国が有する経済力、科学技術力なども駆使した多角的な外交アプローチを図るとするものだ。

 NSSが発表された同日、有力シンクタンクのブルッキングス研究所で講演したライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は、講演の中で「オバマ政権のアプローチは他の人々が主張するアプローチと異なる」と述べ、オバマ外交によりIS掃討の有志連合組成、ロシア制裁、気候変動対応、イラン核交渉などの成果が実現していることを強調した。


 ◇政権の元高官から批判も


 一方で、批判も多くみられる。上院軍事委員会メンバーの共和党のグラハム上院議員はNSSが発表された同日「オバマ・ドクトリンや“戦略的忍耐”が世界を混乱(chaos)に陥れている」と痛烈に批判。また、マイケル・フリン前国防情報局長官が2月に行われた下院公聴会の場で、NSSはISの脅威を十分に認識していないと発言し、政権の元高官からも批判的見解が示されている。

 新興国が台頭し、多様化が進む現在の国際社会において、安全保障上の課題や国際秩序も複雑さと不安定性を増している。とりわけテロやサイバー攻撃など、現代的な安全保障上の脅威に対処するには、国際的な情報共有や軍事・非軍事の双方を含めた幅広いアプローチが必要となるだろう。

 そして、その対処において、米国の指導力は極めて重要だ。キッシンジャー元国務長官は、1月に行われた上院公聴会に提示した声明の中で、世界の各地域で流動的になっている従来の秩序に対し、それに代わる新しい秩序・仕組みはいまだ不透明であるとし、そうした中で米国が関与しなければ混乱はより大きくなると指摘している。

 オバマ大統領は、今回のNSSの中で「米国の指導力」との表現を100回近く使用している。不安定さを増す現在において、米国の指導力がいかに発揮されていくか、世界は注目している。