2015年

3月

31日

特集:水素と電池 2015年3月31日号

 ◇クルマの次を探し始めた水素 車載と大型化で進化する電池


谷口 健(編集部)/花谷美枝(編集部)


 水素社会の実現に向けて、日本各地でプロジェクトが進んでいる。

 目玉は、2020年東京五輪の選手村ができる東京・晴海(中央区)で計画されている「水素タウン」。クルマの燃料だけでなく消費電力まで水素でまかなう都市整備が計画されている。東京都は、中長期的にCO2フリーで調達可能な水素を積極的に利用し、低炭素社会の構築を牽引(けんいん)していく方針だ。

 山口県周南市は、同市に本社を置く化学メーカーのトクヤマと東ソーのコンビナートで、カセイソーダを作る際に発生する水素を有効活用しようという構想を進めている。「燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池などのエネルギーとしての水素の活用方法が広がれば、市全体の活性化につながる」(周南市経済産業部)と期待は大きい。

 福岡市では、下水処理の過程で出る汚泥を発酵させて出るバイオガスから、水素を取り出す施設が3月中に完成する。FCVに水素を供給するのが主な目的で、昨年12月のトヨタ自動車のFCV「MIRAI(ミライ)」の発売が、この計画を前倒しした。ミライの開発責任者である田中義和チーフエンジニアは昨年その施設を訪れ、「燃料電池車という水素の需要が生まれたことによって(水素製造の方法も)変わりつつある」ことを実感したという。

 水素発電という新しい動きもある。経済産業省は現在、水素発電に関する私的な企業勉強会を行っている。経産省は燃料電池車以外に水素の用途を増やせれば、水素の製造や輸送、貯蔵技術の進化に貢献し、それが水素価格の下落など好循環につながると考えている。

 勉強会に参加するのは、水素発電の実証をしている川崎重工業や千代田化工建設、17年に産業用燃料電池市場への参入を目指す三菱日立パワーシステムズ。そして、東京電力や関西電力、中部電力、電源開発(Jパワー)などの電力会社も参加し、3月末にも結論を出す。

 まずは火力発電に水素を混ぜる混焼発電から始める予定だが、将来的には水素100%の専焼発電を目指す。

 そもそも水素は電気と同じく、自然界には存在しない2次エネルギー。だが、地球上の水や炭化水素の中に無尽蔵に存在する。水素として抽出して燃やせば発電に使え、燃料電池を通せば熱と電気を作れ、クルマやロケットの燃料にもなり、ガスに混ぜれば一般ガスとしても利用できる。しかも水素は、石油や天然ガスから改質する方法だけでなく、水分の多い低品質の褐炭からの改質、太陽光や風力など再生可能エネルギーで作った電気から作ることもできる。

 再生可能エネルギーの余剰電力を生かして、水分解から水素を作ってためる取り組みを「パワー・トゥー・ガス」と呼ぶ。脱原発を進めるドイツではこの取り組みがいち早く進んでいる。

 水素社会の実現に向けては、政府や自治体によるFCVや水素ステーションへの強力な後押しがある。FCVでは国は1台当たりの購入に202万円を補助、水素ステーションは約半分を負担する。この後押しを受けて、日本各地で水素ステーションの開所ラッシュが始まっている。

 一方で、市場は、普及の足がかりをつかんだ燃料電池車や水素ステーションの次を見据え始めている。

 そのなかには、水素発電や再エネからの水素蓄電だけでなく、燃料電池フォークリフトや燃料電池バスもある。

 燃料電池フォークリフトは豊田自動織機が北九州市で実証してきたが、2月にそれを拡大し、関西国際空港での導入も始まった。

 燃料電池バスに関しては、1月からミライの燃料電池スタック2台分を積んだ日野自動車の燃料電池バスが愛知県豊田市内で走り始めた。東京都も16年度を目標に都バスで先導的に導入し、20年までに100台以上の導入を目指している。


 ◇電池のミライ


 水素と並び市場が熱い視線を送っているのが蓄電池。20年には世界で20兆円に拡大すると期待されているからだ。蓄電池も車載用が今後の主戦場となり、経済産業省では20兆円市場の4割、約8兆円を車載用蓄電池が占めると予想する。

 車載用蓄電池の市場では、トヨタはパナソニックと、日産自動車はNECと、ホンダと三菱自動車はジーエス・ユアサコーポレーションと、それぞれ合弁会社を設立し、車載用蓄電池の生産体制を構築している。

 車載向け電池市場は電気自動車(EV)の登場に合わせて、10年ごろに各社が巨額を投じて生産設備を整えたが、稼働率が低いまま採算ラインを割り込んできた。

 だが、EVに加えて、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)にもリチウムイオン電池が搭載されるようになり、市場が拡大しつつある。

 すでに米テスラ・モーターズに蓄電池を供給するパナソニックの電池事業や、GSユアサとホンダの合弁会社など、業績が拡大する例も出てきた。

 FCVミライを発売したトヨタも、15年度にFCV商品化予定のホンダも、EVを開発ラインアップに加えている。

 先進国で燃費規制、排ガス規制の強化が進むなか、石油燃料の消費を抑制する動きが加速しており、「自動車メーカーは半ば無理をしてでもHVやEV、FCVを売ることになる」(楽天証券経済研究所の今中能夫アナリスト)時代を迎えている。

 EV市場では米アップル参入の可能性も取りざたされている。アップルは、EVベンチャーの米テスラ・モーターズとの買収交渉を2月にしていたことも明らかになった。

 EVはガソリン車に比べて部品点数が少なく、生産の外部委託も容易なことから参入障壁が低いといわれている。今後、自動車分野でのサービス開発を進めるIT(情報技術)企業や新興国メーカーの参入が続く可能性も指摘されており、競争が厳しくなる可能性もある。

 その電気自動車に載る電池では、日本が強みを持つ。特に、電池の主要4部材といわれている正極、負極、電解液、セパレーター(分離材)では、日本の企業が圧倒的なシェアを持つ。素材メーカーの代表格である旭化成は2月、米ポリポアのセパレーター事業を買収し、セパレーターの世界シェアを5割近くまで拡大したといわれている。


 ◇全固体と空気電池


 日本企業はリチウムイオン電池に代わる次世代電池の開発でも底力を見せている。安全性が高い「全固体電池」、軽量で充電容量を増やせる「リチウム空気電池」などの研究が進む。

 日立造船は昨年12月、リチウムイオン電池の5倍のエネルギー容量が期待できる亜鉛空気電池の技術を開発したと報道され、同社の株がストップ高になった。次世代電池はEVの航続距離をガソリン車に近づけることができると期待されており、実現すれば蓄電池の市場をさらに広げることになる。リチウムイオン電池の改良でも各社はしのぎを削っており、「電池は性能の向上、用途の多様化のいずれもまだまだ伸びしろがある」(富士経済の鷹羽毅氏)という。

「FCVはばかげている」──。

 米テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の発言が話題になるなど、FCVとEVは次世代車の主役の座を争っているかに見える。だが、EVは電池の改良によって航続距離が大幅に伸びる可能性を秘めている。一方のFCVは、インフラが整えば、ガソリン車並み航続距離で、排出ガスを減らせる。

 天然資源のない日本が化石燃料への依存を減らし、次世代のエネルギーのあり方を考えていく上で、水素と蓄電池は鍵になる。日本の高い技術力を生かせる産業でもある。

 

 

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週刊エコノミストebooks

水素と電池 世界はこれでリードだ!

配信日2015年4月24日

定価200円(税込) 

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