2015年

4月

14日

ワシントンDC 2015年4月14日号

 ◇ネタニヤフ首相の勇み足 悪化した米・イスラエルの今後


今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)


 イスラエルの総選挙に勝ったネタニヤフ首相は、米国との同盟関係を危機にさらすという大失敗を犯した可能性が高い。

 3月上旬に、47人の共和党上院議員がイラン指導部に核協議合意への懸念を記した書簡を送り付けたが、この頃まではネタニヤフ首相の共和党へのロビー活動を軸にした外交攻勢が目立ち、オバマ政権の対応が後手に回っている印象が強かった。

 露骨なロビー活動は、共和党のベイナー下院議長がオバマ大統領の頭越しにネタニヤフ首相を議会に招請するという異例の成果を生んだ。オバマ大統領に対する挑発的な演説は、多くの共和党議員が称賛した。これに続いた共和党上院議員達の書簡送付はさすがに外交政策への介入であり、共和党内からも批判が出た。だが、介入を許したオバマ大統領のリーダーシップの低下を嘆く声も少なくなかった。

 しかし今、現実に危機が迫りつつあるのはネタニヤフ首相の方である。イラン核協議の合意阻止にとどまらず、パレスチナ国家の否定まで踏み込んだからだ。

 ネタニヤフ首相の米国への激しい外交攻勢には、イスラエル総選挙での自身が率いる右派与党リクードの勝利と首相再選という目的もあった。イスラエル国民は高いインフレ率や住宅価格を抑えられないネタニヤフ首相と与党への不満を強め、リクードは投票日直前まで労働党主導の野党連合にリードを許していた。

 焦りを強めたネタニヤフ首相は、ついに選挙戦終盤で右派層の票固めに戦術を切り替え、突如「パレスチナ国家の実現を認めない」との立場を表明。このままではアラブ系イスラエル人が支持する左派政党に政権を奪われると訴えた。

 この発言をオバマ大統領は許さなかった。総選挙はリクードが右派層の支持を固めて勝ち、ネタニヤフ首相は「2国家共存による解決を望む」と発言を修正した。


 ◇修復に現実的な対応へ


 しかし、オバマ大統領はネタニヤフ首相との選挙後の電話会談で、パレスチナ国家を否定するという首相の新たな立場と発言を受けて、米国の選択肢を再検討すると警告した。過去、米国は国連安保理に提出されたパレスチナ国家樹立のための決議案に拒否権を行使し続けてきたが、今後は控える可能性を示唆したのである。ネタニヤフ首相の総選挙勝利は、米国との同盟関係の危機という非常に大きな代償を伴ったものになる可能性がある。

 そもそも、米国のユダヤ人は民主党員の割合が6割を占め、共和党員は3割弱に過ぎず、上下両院に40人いるユダヤ人議員のうち共和党所属は下院議員1人だけである。この中で展開された共和党へのロビー活動が異常だったのだ。多くの米国のユダヤ人を怒らせ、ユダヤ人の分断を招きかねないと憂慮する声が大きくなっていた。

 とはいえ、イスラエルはそのネタニヤフ首相を総選挙で信任したばかりだ。米国も17年1月までオバマ政権が続くから、一方の首脳の交代という関係の転機が当面ありえない。

 かといって、ここまで悪化した同盟関係をそのままにしておいてもよいとは、両首脳とも思っていないだろう。特にネタニヤフ首相は、共和党へのロビー活動の先に展望が開けないことは、この3カ月近くで痛感しているはずである。

 近く結果の出るイラン核協議の枠組み合意の成否を見て、ネタニヤフ首相は現実的な対応に切り替えざるを得ない。オバマ大統領も、その変化を見て怒りを解くと見られ、ネタニヤフ首相への警告を実行に移すことはないと思われる。