2015年

4月

14日

特集:土地投資の極意 2015年4月14日号

 ◇東京は3要因で価格上昇 価値を生む土地、生まない土地


桐山友一/丸山仁見

(編集部)


 東京・文京区。東京メトロ本郷三丁目駅周辺で1月、オフィスビル1階のコンビニエンスストア店舗部分が台湾の投資家に売却された。価格は約5億円。1坪(約3・3平方メートル)当たりでは900万円を超える。ある不動産関係者は「1坪当たり400万円がせいぜいの相場」と驚く。

 ◇海外マネー続々


 このオフィスビルは昨年11月、国内の不動産会社が11億円で取得したばかり。不動産業界で「ゲタ履き」と呼ばれるビル1階の店舗部分だけで、全体の半分に近い値が付いたことになる。台湾の投資家が好んで買うのは、コンビニチェーンや外食大手の入るゲタ履きの店舗。不動産関係者は「テナントに大手が入ることで、物件への安心感があるのでは」とみる。

 東京都心の不動産価格が上昇している。国土交通省が3月発表した今年1月1日時点の公示地価では、東京23区平均の商業地は前年比3・4%上昇と2年連続の上昇。銀座のある中央区の7・2%上昇を筆頭に、千代田区や港区、新宿区、品川区、文京区では3%超の上昇を記録した。しかし、実際の不動産売買の現場では、価格はさらに大幅上昇している。その理由の一つが、外国人による旺盛な不動産投資だ。

 みずほ信託銀行のシンクタンク、都市未来総合研究所(東京)の「不動産売買実態調査」によれば、国内の不動産売買金額は2014年、5兆586億円と、07年以来7年ぶりとなる高水準。中でも、14年の外資系法人による国内不動産の取得額は、9818億円と過去最高を記録した。背景の大きな要因の一つが円安だ。

 11年の1ドル=80円を割り込んだ円高期に比べれば、現在は3割超もの円安が進行しており、外国人の間で国内の不動産への割安感が広がっている。中でも、台湾や香港などではすでに不動産市場が過熱気味で、同総研の平山重雄主席研究員は「相対的に高い利回りが得られる日本が投資先として注目を集めている」と指摘する。


 ◇相続増税で火がつく


 富裕層の相続税対策も、不動産価格上昇の一因だ。1月から相続税が増税され、基礎控除が「5000万円+1000万円×(法定相続人数)」から「3000万円+600万円×(法定相続人数)」へ大幅に引き下げられた。最高税率も課税遺産額6億円超で50%から55%へと引き上げられ、富裕層には増税感が強い。そのため、相続税評価額を圧縮できる賃貸マンション、アパートへの需要がここ数年、急速に高まっている。

 相続税対策として人気があるのは、東京都心に立地する数億円規模の賃貸マンションの購入だ。それは不動産の収益性を測る「還元利回り」と呼ばれる指標の低下(物件価格は上昇)にも表れている。投資用不動産仲介などを手がける東急リバブルの宮岡雄一・投資営業第一部長は「都内の賃貸マンションの一棟売り市場では、還元利回りが3%台の取引も出始めている。08年のリーマン・ショック前の不動産市況が良かった時でもせいぜい4%台の取引で、3%台は聞いたことがなかった。個人の争奪戦がかつてないほど激しくなっている」と驚く。

 ワンルームマンション市場も活況を呈している。相続税対策のほか、個人の資産形成や老後の年金代わりにと物件を求める人が後を絶たないのだ。投資用の中古ワンルームマンションを販売する日本財託(東京)では昨年、東京23区内の販売戸数が1171戸と過去最高。平均の販売価格は1432万円と前年比2・5%上昇だが、00年以降の築年数の浅い物件に限れば5・0%上昇と、23区平均の公示地価上昇率2・6%のほぼ2倍となった。利回りの低下も著しい。同社が販売した物件の実質利回り(賃料収入から管理費、修繕積立金などを引き、物件価格で割ったもの)は07年、平均で6・11%だったが、14年はすでに5・28%にまで低下した。日本財託の坂元寛和広報室長は「都内の中古ワンルームは供給が限られており、販売可能な物件の確保が難しくなっている」と明かす。


 ◇超低金利が後押し


 なぜ、利回りの低下が進むのか。それは日銀の異次元緩和による金利低下の影響が大きい。個人でも事業者でも不動産の購入資金は通常、多くを金融機関からの融資で調達する。この借入金利がリーマン・ショック前に比べても大幅に低下したため、投資利回りとの間に一定の差(イールドギャップ)が確保され、収益の源泉となっていた。ただ、このイールドギャップも縮小しているのが最近の傾向だ。日本財託の物件では、14年のイールドギャップは2・91%と07年の2・94%を下回った。

 総合不動産サービスのいちごグループホールディングスでは、これまで傘下のいちご地所が数億円規模の中小商業ビル取得を進めていた。しかし、「価格が上昇して競合も増え、東京・銀座では物件が取得しにくい」(長谷川拓磨・いちご地所社長)。そこで、取得対象のビルの金額を30億円程度にまで拡大。昨年は福岡市中心部で、わずか半年のうちに約69億円を投じて7物件を購入するなど、地方にも積極的に進出している。

 ただ、気になるのは実需の動向だ。都市未来総合研究所によれば、東京23区の大規模オフィスビル(200坪以上)の平均成約賃料のトレンドは、13年末にかけて1坪当たり2万円近くまで上昇したものの、現在は1万7000円前後と弱含みで推移する。同研究所の平山氏は「高額な賃料を負担できるほど、テナント企業の収益性は改善を伴っていない」と見る。ワンルームマンションの家賃も同様だ。日本財託では昨年、販売物件の平均家賃が月額7万7305円と前年比1・2%下落した。

 今後も物件価格の上昇が続くとすれば、短期転売目的で収益性を度外視した「バブル」の可能性が高まる。ある不動産会社の売買仲介担当者は「個人の不動産登記簿謄本を見ていると、購入後1~2年しかたっていないのに、売却を希望する人が増えてきた」と明かす。


 ◇売れない土地を相続する悲痛


「タダでもいいので、誰かに土地を引き取ってほしいのですが……」

 東京都東久留米市のパート従業員、松林佳奈子さん(44)の顔が曇る。12年に父が亡くなり、父の実家のあった長崎県佐世保市小島町の土地約350平方メートルを相続した。同市中心部から車で約10分の住宅地で、実家はすでに取り壊されて更地の状態。松林さんは売却先を探そうと地元の不動産業者に査定を依頼したが、なぜか前向きな返事がもらえない。不動産に詳しい友人に相談すると、「担保としての価値はない」と厳しい答えが返ってきた。

 現地は傾斜地で、車の入れる道路がない。加えて、相続前にすでに更地にされていたことが逆効果だった。車の入れない土地に費用をかけてまで住宅は新築しにくい。倉庫などとして活用もできない。近所の人から「建物が残っていれば、リフォームすることもできたのに」と言われたことが耳に残る。とはいえ、空き家のままにしておくことも、倒壊などの危険性を考えれば難しかっただろう。松林さんは「相続した時は知識もなく、土地が処分できないなんて思ってもいなかった」と振り返る。

 売れない土地だが、コストはかかる。固定資産税評価額は378万円で、毎年の固定資産税・都市計画税は約4万5000円。除草を近所の人にお願いし、その謝礼が年3万円。これから先も負担が続くことを思うと気が晴れない。松林さんは地元情報を交換するコミュニティーサイトに、土地を無償で譲りたいと告知を出した。連絡をくれた人のうち、3人が実際に現地を見に行ったが、成約できた人はいない。松林さんは「子どもへの将来の相続を考えると、不安で仕方がない」と語る。

 東京都心の不動産が高値で取引される一方、地方ではタダでも引き取り手が見つからない不動産が増えている。いわば、コストだけがかかる“負”の資産となっているのだ。武蔵野不動産相談室(東京)の不動産コンサルタント、畑中学代表の元にも最近、「タダで土地を譲りたい」という相談が増えた。昨年だけでも茨城県内など5件を数え、いずれも活用が難しい土地ばかり。しかし、不動産仲介会社は土地の売却額に応じて手数料が決まるため、売れそうにない土地の仲介には消極的だ。

 そこで、畑中氏がアドバイスするのは、フェイスブックなど交流サイトの活用だ。交流サイトでできるだけ多くの人に情報を共有してもらえば、それだけ引き取り手が見つかる可能性も高まる。畑中氏は「活用できない不動産でも自分が所有している限り、税金や維持費が次の世代までかかってしまう。できるだけ早い処分が必要だ」と指摘する。


 ◇「タダでも買えない」


 大阪府東大阪市の不動産投資家、脇田雄太さん(37)は、長崎市内のアパートや一戸建て計9物件を格安で取得。100万円程度をかけ、リフォームしたうえで賃貸する。中には、タダや5000円で購入した一戸建てもある。リフォーム費用も現地の業者と直接交渉し、コストを安く抑えることで初期投資の回収期間を短くする。このビジネスが成り立つ理由は、長崎市という地域の特性にある。

 平地が少なく坂の多い長崎市。格安の物件はいずれも、接続する道路が階段のみなど条件は厳しい。脇田さんが購入の条件とするのは、中心部へのアクセスの良さと、古くても建物が残っていることだ。長崎市は住める場所に人口が密集し、中心部にさえ近ければ若年層など借り手が付く。ただ、更地に新築するのでは、初期投資がかかりすぎ、回収が難しくなる。脇田さんは「いくら物件の価格が安くても、借り手が付きそうになければ買うことはできない。他の都市では難しく、長崎市だから成立する」と強調する。

 将来の人口減少を見据え、地方や郊外の不動産売却に動く地主もいる。東京都青梅市の地主の男性(50)は13年、父の死去に伴って約4万平方メートルもの土地を相続した。多くは山林だが宅地や農地もあり、路線価で評価すると約15億円。賃貸マンションなどとして活用していた土地だが、相続後は少しずつ売却を始めた。代わりに購入するのは、東京23区内や名古屋市など大都市中心部にある賃貸店舗やマンションだ。

 地主の多くは土地に代々の愛着を持ち、値下がりすることはないと信じてきた。土地の適正な価値は判断が難しく、「売却時にだまされたくない」という心理も働く。しかし、男性は「これからさらに地域の高齢化が進む一方、宅地の開発は止まらない。地主は土地を持ってはいても、活用の専門家ではない。値下がりする前に、売るなら今だと確信を持っている」と危機感をあらわにする。

 値上がりを続ける土地もあれば、価値を生まずに負担だけが生じる土地もある。これからの土地所有には、その価値を見極める「投資」の観点が欠かせない。