2015年

4月

14日

経営者:編集長インタビュー 十倉雅和 住友化学社長 2015年4月14日号

◇「常に新しいチャレンジ」で迎える100周年


── サウジアラビアの合弁会社「ペトロ・ラービグ」による世界最大級の石油精製・石油化学コンビナートが、2009年4月の稼働からようやく安定操業に向かいました。

十倉 現在の第1期分の生産能力はエチレン換算で年130万トンと、住友化学のシンガポールのコンビナートを大きく上回る規模です。高い運転技術などが要求され、現地では大停電も数回発生しました。日本から技術者を100人以上送り込むなどハード、ソフト両面で対策を取った結果、14年を通して高稼働を維持できました。ずいぶん時間がかかりましたが、これからは大丈夫です。16年の稼働を予定する第2期計画にも取り組んでおり、高付加価値の品目も作れるようになります。

── その一方、千葉工場のエチレンプラントを今年5月に生産停止するなど、バルクケミカル(大量生産する汎用化学品)について国内拠点の再編を進めています。

十倉 売上高(14年3月期約2兆2400億円)のうちバルクケミカルが半分近く(約1兆700億円)を占めます。バルクケミカルはコストが重要ですが、巨大資本の中国や中東の産油国が勝負を挑んできています。加えて、米国のシェールガス増産により、日本が原料とするナフサに比べ、安価なエタンが大量に供給されるようになりました。日本の石油化学は相当しんどい現状ですが、日本は高付加価値品や新しい生産技術を生み出すマザー工場とし、ラービグではコストで競争する汎用品を大量生産します。シンガポールは高付加価値品の生産割合が7割程度を占め、東南アジアの顧客向けに販売していきます。こうした役割分担でグローバルに生き抜く戦略です。


 住友化学は今年開業100周年を迎える。別子銅山(愛媛県新居浜市)の銅精錬から生じた有害な排出ガスを原料とする肥料製造所が1915年10月に営業開始。その後、医薬、農薬、石油化学などへ事業領域を広げ、総合化学メーカーへと成長した。80年代にはアルミニウム製錬からの撤退などがあったが、十倉社長は「常に新しいことへのチャレンジ」「社会に役立てたこと」を100年間存続できた理由に挙げる。


 ◇自動車、電子分野に注力


── 自動車関連に力を入れていますね。

十倉 エアバッグ用の樹脂やリチウムイオンバッテリーの部材、ディーゼル車のすすを取るフィルターなどさまざまな製品を作っています。自動車産業は裾野が広く、日本が強い分野です。また、今後は環境・エネルギー面などでクルマの概念を超える取り組みがさらに起きてくるでしょう。化学産業が大きく貢献できる分野であり、全社の経営資源を投入して耕していきます。

── スマートフォンなどの液晶ディスプレー向け偏光フィルムも作っていますが、非常に変化の激しい分野です。

十倉 情報電子分野では新しい技術が1~2年、ともすれば四半期単位で出てきます。しかし、逆に言えばチャンスなんですよ。一度敗れたとしても、すぐに挑戦できるからです。今では、ディスプレーを折りたためるスマホの開発なども進んでいます。新しい事業のネタはいくつでもあり、しっかりと研究開発投資をしていれば十分にやっていけます。

── 中国メーカーの安価なスマホが登場し、価格競争も激しいのでは。

十倉 偏光フィルムはスマホの玄関であり、いかに安いスマホでもきれいな画面が必要とされます。スマホ向けの偏光フィルムでは、現在も当社と日東電工の2社がシェアを二分しています。情報電子では価格が毎年下がっていきますが、この分野では必ず新しい材料や技術が生まれるので、そこで利益を稼ぐことができるのです。

── 子会社の大日本住友製薬の戦略は。

十倉 中堅規模の会社なので、強みを伸ばして生き残りを図るつもりです。その一つは中枢神経系で、米国で統合失調症や双極性障害に効く抗精神病薬「ラツーダ」の販売・開発拠点を作ろうと、09年に米セプラコール(現サノビオン・ファーマシューティカルズ)を買収しました。二つ目は実用化すれば世界初のがん幹細胞に作用する標的薬の開発です。米国では臨床試験のフェーズ3(最終段階)を迎え、とても楽しみにしています。三つ目は目の網膜の再生医療で、この分野ではおそらく日本の最先端でしょう。ユニークな分野に効率よく研究資源を割り振っていきます。

── コメの生産にも取り組んでいると知り、びっくりしました。

十倉 農薬のほか肥料やビニールハウスのフィルム、灌漑(かんがい)用資材、種子など、農業分野で幅広い製品を取り扱っており、日本の農業の成長産業化に大きなビジネスチャンスを感じています。大豆など大規模農業で米国やブラジルに勝てるとは思いませんが、施設園芸で成功したオランダの例もあります。

 コメについては遺伝子マーカーを解析することで、それぞれの地域に合った多収で美味なコメを作れないかと考えました。昨年秋に初めて収穫しましたが、社内の品評会でも好評でした。製造業は生産性を上げるさまざまなノウハウも持っています。革新的な生産性の高い農業システムを構築することで日本の農業の役に立ちたいと思っています。

(Interviewer 横田恵美・本誌前編集長、構成=桐山友一・編集部)


 ◇横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 前半は大阪工場の生産企画課で、現場の人や技術者と深く交流できました。後半は本社で経営企画の仕事をやらせてもらい、会社の組織や制度の変革に取り組みました。

Q 最近買ったもの

A 2歳の孫娘に積み木を買いました。積み上げては崩して遊び、結構楽しめました。

Q 休日の過ごし方

A 半分近くはゴルフですが、漫画を読むのが大好きです。『進撃の巨人』などは退職後の楽しみにと、読まずに取ってあります。

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 ■人物略歴

 ◇とくら・まさかず

 兵庫県出身。1974年東京大学経済学部卒後、住友化学工業(現・住友化学)入社。執行役員事業化推進室部長、代表取締役常務執行役員、同専務執行役員などを経て、2011年4月から現職。64歳。