2015年

4月

28日

ワシントンDC 2015年4月28日号

 ◇枠組み合意のイラン核協議 内外に立ちはだかる厳しい壁


秋山勇

(伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)


 4月2日、イランと米国、ロシアなど6カ国との間で辛抱強く続けられてきた核協議の最終的な解決に向けた枠組みが合意された。その骨子は、イランの核開発能力を10年以上にわたり制限し、この見返りに核疑惑に関わるイラン制裁を解除するというものだ。

 振り返ればイラン核疑惑の発端は2002年にさかのぼる。10年超の歳月と紆余(うよ)曲折を経て到達した枠組み合意により、6月末の最終包括合意に向けた条件が整った。これを受けてオバマ大統領は「歴史的な合意に至った」とする声明を発表した。しかし制裁解除を含む最終的合意までの道のりは険しく、外交レガシーに意気込むオバマ大統領の前に大きな壁が立ちはだかる。

 まずイスラエルは、「歴史的な過ち」「自国の存亡の危機」として合意を厳しく批判した。イランを警戒するサウジやエジプトは表向き平静を保つものの、イラン関係では一枚岩ではない湾岸諸国と同様、微妙な立場である。イラン及びその核と向かい合う中東諸国の米国へのいら立ちは並大抵ではなく、オバマ大統領はこれらの説得に躍起になっている。

 更に大きな障壁は米国民と共和党中心の議会である。日本では感覚的に理解しづらいが、米国のイランへの不信感や警戒感は極めて根深い。ギャラップによる国別意識調査では、過去20年あまり米国の回答者の8割近くがイランに対して好感を抱いていないことが示されている。

 またABCと『ワシントンポスト』が3月後半に実施した世論調査によると、イラン核協議そのものを支持する声は59%で、不支持の31%を大幅に上回っている。しかし、核協議がイラン核兵器開発を抑止するかとの問いに対しては「はい」が37%、「いいえ」が60%と、否定的な声が多い。他の民間世論調査でもほぼ同じ傾向が示されている。


 ◇「拡散防止から管理へ」


 枠組み合意を受けたメディア報道や一般の反応にも日米で違いがある。日本では中東和平やイラン市場再開への期待感が多いが、米国での全般的な反応は実に冷ややかだ。共和党が主導する議会の反発は当然ながら激しい。上院外交委員長のボブ・コーカー議員はイランとの合意事項を議会で見直しする法案をイースター休会明けに提出するとして、オバマ大統領との対決姿勢を示した。

 米国、イランにとって本件は内政問題の延長でもある。イラン政府も経済制裁を一刻も早く解除して国内の不満を払拭(ふっしょく)したいが、米国に屈したかのような交渉は許されない。枠組み合意の発表にしても、米国、イラン双方が国内反対派に配慮をした都合のよい説明を行っている。しかし交渉当事者たちは最終包括合意の文書を玉虫色の言葉だけで飾れないことを認識しているはずだ。

 一連の交渉は核拡散防止条約を取り巻く情勢の微妙な変化も映し出している。15年1月の米上院軍事委員会の公聴会でキッシンジャー元国務長官は「現在の協議はイランの核開発能力保有を認めた上で、それを制限することが論点だ。すなわち核の拡散防止から拡散管理へのシフトを意味している」と示唆に富む証言をした。枠組み合意の鍵も「ブレークアウト期間」、つまり仮にイランが合意に反して核兵器開発を開始しても、完成までに米国などが対抗策を打てるだけの十分なリードタイムの設定と、これを確認するための徹底した査察の実施だ。

 しかし今後の行方次第では、イラン核交渉が核開発能力の獲得に野心を持つ国を将来出現させる土壌にもなり、オバマ大統領が目指す「核なき世界」の実現を逆に困難なものにしかねない。