2015年

5月

12日

ワシントンDC 2015年5月5・12日合併号

 ◇領土問題で強まる中国脅威論 米国主導の包囲網を求める声


及川 正也

(毎日新聞北米総局長)


 米国で中国に対する脅威論が強まっている。南シナ海での岩礁埋め立てなど力による現状変更がいよいよ危険水域へと達し、米国の危機感も高まるばかりだ。政権2期目の目玉外交として中国との関係強化を狙ったオバマ大統領だったが、見通しの甘さを露呈。米国内では強い関与政策を求める声が出ている。

 米国の懸念を明確に示したのが、就任直後に来日したカーター米国防長官だ。4月8日に安倍晋三首相や中谷元防衛相らと会談し、領土問題に関して中国の力による現状変更に強い懸念を示した。防衛相との会談後の記者会見では、南シナ海の「軍事化」に「断固反対する」と強調してみせた。

 中国の強硬姿勢は、フィリピンなど関係国の発表や衛星など上空から撮影した写真などで明らかだ。南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島では、軍事滑走路の建設をするなど複数の岩礁で埋め立ての動きを活発化させている。こうした動きを

放置すれば、中国の軍事拠点化につながりかねない。

 これらの動きに国防総省などは早くから警戒を強めていたが、2013年1月に2期目をスタートさせたオバマ政権は中国重視外交を突出させた。6月にカリフォルニア州の保養地サニーランドに習近平国家主席を招待し、中国側の意向に沿って米中の「新たな大国関係」を一時模索した。


 ◇防空識別圏で認識改め


これに対し、沖縄県・尖閣諸島領有で不当な介入を受ける日本政府は米国の中国接近に警戒を強め、東京やワシントンで何度も注意喚起。対中脅威論に立ったブッシュ前政権の共和党有力者や専門家たちもオバマ政権の対中政策を「軽率だ」(マイケル・グリーン元国家安全保障会議アジア上級部長)などと警告してきた。

 日米外交関係者によると、そんなオバマ政権が「認識を改めた」(関係者)のは、13年11月に中国が一方的に東シナ海に「防空識別圏(ADIZ)」を設定したことだった。防空域を示すことは、同時に尖閣諸島の領有も絡んだ問題に発展し、米国は改めて中国の海洋進出が深刻な問題だと認識するに至ったという。

 米国からみると、一般的に民主党は「親中」、共和党は「反中」といわれる。国務長官在任中は日本重視を掲げ、4月12日に16年大統領選民主党予備選に出馬表明したヒラリー・クリントン氏も08年大統領選出馬時は米中関係を「最も重要な2国間関係」と指摘し、日米両国で物議を醸した経緯がある。

 2月26日の上院軍事委員会公聴会で、マケイン委員長(共和党)が埋め立ての進む岩礁の衛星写真を示し「中国による拡張は劇的な変化だ」と危機感をあらわにすると、クラッパー国家情報長官は「法外な主張を中国は強引に追求している」と指摘。懸念の高まりが周辺国の連携強化につながることに期待を表した。

 カーター長官は来日で、日米防衛協力指針(ガイドライン)改定を「アジア地域と世界の平和と安定を保障する」と歓迎した。日本の集団的自衛権行使容認に対する米国の要請は台湾海峡危機、北朝鮮ミサイル危機、テロ攻撃など時代によって想定される状況に変化があった。いま米国が最も恐れるのは南シナ海での軍事衝突だ。

 それを食い止めるには、保守派からは「対抗措置」として東南アジア諸国連合(ASEAN)任せにせず、米国主導の地域的・国際的な包囲網を構築すべきとの意見が強く、米ヘリテージ財団のウォルター・ローマン・アジア研究センター長はそのうえで「米国は領土問題で明確な態度を示すべきだ」と主張している。