2015年

5月

26日

ワシントンDC 2015年5月26日号特大号

 ◇黒人死亡で暴動、背景に格差 16年大統領選に影響も

 

今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 ワシントンから車で約1時間の場所にある米東部メリーランド州ボルティモアで4月

27日、暴動が発生。同州のホーガン知事は非常事態を宣言して州兵の動員令を出し、ボルティモア市長は28日から6日間にわたり市内全域に夜間外出禁止令を出した。暴動のきっかけは、4月中旬に黒人男性が市警察に拘束された後、死亡した事件。5月1日には州検察当局が男性の死亡を殺人として立件し、関与した警察官6人を訴追した。

 暴動の背景は大きく二つある。一つはボルティモア市での警察による黒人男性への過剰な実力行使の歴史。もう一つは同市での白人と黒人の極端な経済格差だ。

 ボルティモア市の黒人住民の間には、警察の過剰な実力行使や拘束時の手荒な扱いへの不信が根強い。昨年9月の地元紙は、市警察が2011年以降、警官に不当な実力行使を受けた住民100人以上に損害賠償として計570万㌦を支払ったと報じた。しかも最近は、警察の黒人男性に対する過剰な実力行使が全米の社会問題になっている。ミズーリ州ファーガソンで昨年8月、丸腰の黒人青年が警官に射殺された事件が発端だ。その後もニューヨークなど3都市で同様の事件が発生した。

 ボルティモアの経済格差は、全米平均よりはるかに深刻だ。白人市民の世帯年収の中央値は約6万㌦だが、黒人は3万㌦強、死亡した黒人男性の地元サンドタウン地区はわず

か2万4000㌦。4人世帯で年間所得が2万4000㌦未満という貧困世帯の比率は、白人の8%に対し黒人24%、同地区は32%だ。

サンドタウン地区では、08~12年に過半数の住民が失業し、12年時点で住宅の3分の1が空き家という。住民の平均寿命は、近隣の裕福な地域より20年短いとの調査もある。高

等学校修了率は65%で、同市の白人より20%も低い。警察への強い不信と生活への不満が膨らんでいたこの地区で、今回の事件が発生した衝撃はあまりに大きかったと言える。


 ◇TPA法案に暗雲


 オバマ大統領は、暴動の翌28日の日米首脳会談における安倍晋三首相との共同記者会見で、警察だけでなく地域社会も国も内省する必要があると語り、国を挙げて教育や雇用機会の改善を進める必要性を訴えた。

 だがボルティモア市の住民の多くは、これに失望した可能性が高い。民主党の支配が続く同市は、サンドタウン地区に1億3000万㌦を投じて家賃支援など地域振興策を講じてきたが、貧困撲滅も格差縮小も進んでいない。オバマ大統領の説く社会改革は当然で、問題は実効性のある具体策を見いだせないことなのだ。

その意味では、ボルティモアの暴動が16年の大統領選に大きな影響を及ぼす可能性がある。直撃を受けるのは、民主党から出馬を検討中のオマリー前メリーランド州知事。ボルティモア市長も務めたオマリー氏は、格差縮小や雇用創出の成果を上げられなかった責任を問われてしまう。クリントン前国務長官ら他の民主党候補も新たな方策を打ち出せなければ、支持の押し上げは難しくなる。

 暴動は、政権に通商権限を一任する大統領貿易促進権限(TPA)法案の成立を目指すオバマ政権にも衝撃だろう。暴動の背景の経済格差は、過去にボルティモアの雇用を支えた鉄鋼など製造業が撤退し、その後を埋められないことが一因である。同様の都市は米国内に多く、各地では民主党議員と労組が自由貿易をやり玉に挙げて反対している。暴動を受けてこの傾向に拍車が掛かる可能性は高い。TPA法案に反対する同党議員の説得に乗り出していたオバマ政権にとっては正念場である。