2015年

6月

09日

特集:中国株バブルが来た! 爆騰する上海総合指数 2015年6月9日特大号

 ◇上海市場は2.3倍に急騰 金融緩和で長期上昇へ


富岡 浩司 (アジア株アナリスト)


 中国株が7年ぶりの大相場を迎えている。2014年7月から始まった株価の急騰では、15年5月中旬までに上海総合指数が2.3倍になった。この点だけを見ると、もはや「バブル」としか言いようがないように見える。

 しかし、中国国内の投資家は強気論者がほとんどを占める。もちろん短期に急騰したことには、どこかの時点で調整局面があると思っている人も多いが、中長期的には上値余地が大きいと考えている。

 ◇海外と比べまだ「割安」


 ここで中国の株式市場を長期的な視点で振り返ってみよう。上海総合指数は07年10月16日に過去最高値6124ポイントを付けた後、下落に転じた。09年8月4日にいったん戻り高値3478ポイントを付けたが、14年7月に今回の大相場が始まるまで約7年間にわたり低迷期を過ごした。

 戻り高値の3478ポイントから、直近4月28日に付けた年初来高値4572ポイントまでの上昇率は32%に過ぎない。海外ではその間、米国ダウ平均が約100%、日経平均株価も同じく約100%上昇している。上海総合指数は14年7月の2000ポイントから約10カ月で一気に4578ポイントまで約130%も上昇したが、4000ポイント辺りまでは7年間の埋め合わせ、すなわちバリュエーション(価値評価)修正だったことになる。4000ポイントを上回った部分でようやく「過熱気味」の水準に入ったと見るべきである。

 14年7月時点の中国株式市場は主要市場の中で、世界で最も割安とされていた。上海総合指数の予想PER(株価収益率)は7~8倍程度で、香港市場に比べて2030%程度割安に放置されていた。それでも中国の投資家は、株式に手を出そうとしなかった。当時は信託商品や理財商品という年利10%を超えるような高利回り商品(シャドーバンキング)が全盛で、地方政府や大手銀行などが事実上元本保証を行っていたからだ。

 また、住宅は買っておけばいずれは必ず上がる、という不動産神話も健在だった。その一方で、景気悪化を背景に地方政府や不動産企業、一部の金融機関の経営が疑問視され始め、上場企業の決算の信用性が揺らいでもいた。株式市場より割の良い投資対象がいくらでもあった。


 ◇習主席への信任も寄与


 状況が変わったのは、習近平国家主席に対する信任が高まってからだ。中国の最高権力者はこれまで改革をお題目のように唱えていたが、実現を本当に信じた中国人はそう多くはなかったはずだ。ところが、習主席は地方財政の改革を推進すると同時に、シャドーバンキングの取り締まりも強化、住宅市場のバブル化も完全に回避した(むしろ薬が効きすぎて、現在では景気悪化の重荷となっている)。

 相場の反転時期が、彼が権力を完全掌握したのとほぼ時期を同じくしたのも偶然ではない。14年7月末に石油閥の大物である周永康氏が、規律違反で立件されたと報道され、失脚が確定した。「元本保証の高利回り商品などない」と、従来の投資資金の流入先が絞られた。投資家は同時に、「習主席改革が進められることで中国がより高度でハイテク産業の発展にまい進し、企業収益が高くなるはず」と確信したと見られる。これで投資資金が株式市場にようやく流れ込み始めた。相場の第1段階はこのように始まった。

 相場が第2段階に入ったのは、中国人民銀行(中央銀行)が利下げに踏み切った14年11月21日から。人民銀行はそれまで一部金融機関を対象に資金供給を行う短期流動性ファシリティー(SLF)や再貸し出しなどを実施してきたが、ここで完全な緩和スタンスに転換した。その後、追加利下げを2回、預金準備率(金融機関が中央銀行に預けなければならない預金の比率)の引き下げを2回と、合計5回の緩和措置を実施。直近の利下げは5月10日発表だったから、6カ月で5回、月間1回弱の速いペースで金融緩和を進めている(表)。

 第3段階は、3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)がエポックとなる。李克強首相は開催日の政府活動報告で、「中国経済の下振れ圧力は更に強まり、矛盾も目立つ。今後直面する問題は昨年より大きい」と率直に認めた。その上で7.0%前後の経済成長は可能だと公約した。全人代は毎年開催され、その度に首相が施政演説を行い、抱負を語る。今回だけ市場で熱狂的に受け入れられたのは、やはり「彼ならやってくれる」という習主席に対する信任の高さが背景にあったからだ。

 全人代の開催期間中に、人民銀行の周小川総裁が「金融緩和を通じた株高は悪いことではない」と明言したことも、上昇に弾みをつけた。市場では当時から「過熱観測」が浮上していたが、中銀総裁からお墨付きを与えられた格好となったからだ。

 また、6月9日にMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)による新興国指数の構成比率入れ替えの発表が予定されている。今回初めて中国A株がMSCI指数の構成市場として採用されるとの観測が台頭している。MSCIを基準に投資先を決めるファンドは多く、いったん採用されれば膨大な資金が海外から流れ込むと中国国内の投資家が期待している。

 こうした事情で、上海総合指数は高値街道をまい進してきた。今回の相場上昇はそのほか、「官製メディア」が投資家を明らかに「あおった」ことも特徴的だ。『人民日報』紙は14年7月25日に「外資系企業がA株に強気」、同月29日には「A株は最悪期を脱した、悲観から楽観に」との記事を相次いで掲載した。人民日報は今年4月21日にも「A株市場は4000ポイントが強気相場のスタート地点」との論説を発表している。


 ◇年内目標は5000ポイント


 現在の中国株市場をバリュエーション的に見ればどうなるか。

 上海総合指数の15年予想PERは4500ポイント水準で約23倍(15年EPS〈1株当たり利益〉成長を保守的にゼロ%と想定)。過去10年の平均である22倍を若干上回っているに過ぎない。実は14年末時点での中国国内の有力証券会社は、15年目標を4000~4200ポイント程度とするところが多かった。ただ、既に目標水準が突破されたため、証券各社は市場が強気相場に転じたとして、上海総合指数の年末目標を4800~5000ポイント程度に引き上げるところが相次いでいる。

 5000ポイントに上昇しても予想PERは26倍。米国ダウの16倍、日経平均の20倍よりは割高だが、バブルと言うほどではない。一方、上海と深セン市場の時価総額合計の対GDP比は90 %と、米国の140%に比べればまだ相当低い水準にある。なお、07年に最高値をつけた時の上海総合指数の予想PERは71倍、対GDP比率は129%に達した。

 16年は新たな5カ年計画の初年度になり、中国景気は底入れ反転に転じると見られる。そうなれば、16年には過去最高値6124ポイントを更新するはずだと国内投資家は見ているようだ。

 株価を持続的に押し上げるのは、金融緩和の継続と各種改革政策となる。背景には中国経済の不振がある。今年第1四半期の実質GDP成長率は7.0%増と、辛うじて政府目標を確保したものの、名目ベースでは5.8%成長にとどまった。つまり、デフレだったことを意味する。4月の主要指標も軒並み3月の水準から減速している。

 特に不動産向け投資の落ち込みは鮮明だ。1~4月の不動産開発投資の伸び率は前年比6.0%増となり、14年の10.5%増から急激に落ち込んだ。これまで中国経済を牽引してきた輸出も厳しく、3月は前年同月比14.6%減、4月は6.2%減となっている。米国や日本など先進国景気に期待外れといえる減速感が強まるなか、輸出回復にも期待できない。その結果、中国の景気底入れは15年第4四半期になり、政府目標の7%成長の達成は不可能だとの見方が大勢を占めつつある。

 それだけに、金融緩和は景気の底入れが確認されるまで継続されることになろう。景気の底が15年第4四半期ならば、16年第1~2四半期まで継続されるはずだ。中国の貸出基準金利は5月の利下げ後で5.1%。中国の4月の消費者物価指数は1.5%増に過ぎず、利下げ余地はまだある。預金準備率に至っては4月の引き下げ後は18.5%となっているが、06 年は8%台であり、11年6月に21.5%まで引き上げられた経緯がある。引き下げ余地は金利よりもはるかに大きい。預金準備率が1%引き下げられれば、市場に約1.3兆元の資金が供給されるため、株式の押し上げ効果は相当大きい。

 景気悪化を背景に「中国版グレートローテーション(債券から株式への資金移動)」と称される動きも進む。金利が低下する中、シャドーバンキングや不動産、定期預金などから膨大な資金が株式市場に流入している。例えば4月の統計では信託商品の募集額は前年同月を割り込んだ。不動産市場もようやく底入れの兆しが見え始めた状況に過ぎず、投資対象の主役の地位を取り戻すのは将来的にもほぼ不可能になった。

 具体例を挙げれば、14年の投信会社の運用資産総額は前年比53%増の7.9兆元。相当部分が株式市場に流入したことは間違いない。保険会社も運用資産の株式投資比率を13年の10.2%から14年第4四半期には11.2%に引き上げている。保険会社は14年だけで約2500億元の新規資金を株式市場に投入したが、07年には最大27%まで株式投資を拡大したこともあり(現在の規定は上限30%)、引き上げ余地は相当大きい。

 中国版のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)期待も浮上した。中国の養老保険基金(年金基金に相当)は14年末時点で総資産残高が3兆元を突破した。ただ、投資対象が国債と銀行定期預金に限られるため、ここ数年の運用利回りは消費者物価指数を下回る水準に落ち込んでいる。実質的にマイナス利回りとなっているわけだ。

 当局は改善を目指して運用対象拡大を検討中とされ、新規定は早ければ今年後半に打ち出されるとの観測が5月下旬に急浮上した。新規定は企業年金(残高7000億元)のものを援用すると伝えられる。企業年金は最大30%を株式関連(投信など含む)に投資できるため、養老保険基金が将来的に最大1兆元もの資金を株式市場に投入できるようになるとの思惑も市場で広がっている。

 GDP押し上げには直結しないが、個別の産業に関する政策は目白押しだ。基本的に、これから進める多方面での「改革」が株式市場のテーマとなる。近隣諸国との友好関係を深める海陸シルクロード構想(一帯一路)は、インフラ投資関連産業の需要創出効果がある。世界的に話題となっているアジアインフラ投資銀行(AIIB)も同じ流れだ。

 インフラ建設では鉄道投資額が昨年実績の8000億元から今年は9000億元を下らないと見込まれる。また、航空事業にも注力、航空機開発に加えて、25年までにプライベート・ジェット向け空港2500カ所を新設する計画だ。国有企業改革では既に、中国トップの鉄道車両メーカーである中国南車と2位の中国北車が合併を決めた。市場では更に、石油大手のペトロチャイナとシノペック、通信大手3社の2社体制移行の可能性もささやかれている。

 更に言えば、軍事関連も市場の焦点となる。習政権になってから、中国は軍事能力の拡大を隠さなくなった。国家予算は毎年2ケタ増と公表されるが、実際にはそれを上回るとされており、関連銘柄は大きな恩恵を受けることが確実視される。


◇リスクは“豚インフレ”


 一方で、リスクも当然存在する。

 一つは、株価上昇ペースが速すぎること。最近の売買高は約1兆数千億人民元(二十数兆円)という高水準で、長期的に持続可能とは考えにくい。さすがに官製メディアも5月に入ってからは、「中長期的には強気相場と見るが、投資にはリスクがある」と黄信号を点滅させ始めた。市場が投機に傾いて短期的な急騰急落で終わった07年や09年の相場再燃を避けたいと政府当局は考えているはずで、そろそろ規制強化に踏み切るとのうわさが絶えない。

 二つ目は、インフレ再燃だ。4月の消費者物価指数は1.5%上昇まで低下したが、原油価格が底入れ反転したため、中国国内のインフレ率も次第に上昇し始める可能性が高い。

 国内で心配されるのが豚肉価格。中国では過去、豚肉価格の上昇が悪性インフレを発生させてきた歴史がある。中国ではここ数年、景気悪化や、官僚や共産党幹部への「倹約令」を背景に豚肉価格が下がり続けてきた。その結果、11年末には4億8000万頭に達した豚の飼育数が足元では3億8000万頭に近づくほど急減している。いずれは豚肉価格が上昇に転じるのは必至。原油価格と豚肉価格が内外で上昇に転じれば、中国のインフレが上昇して金融緩和を継続できなくなる。株高の大前提が崩れてしまうわけだ。

 

 三つ目に、目先のリスクとして6月9日にMSCI新興国指数にA株が採用されない可能性がある。本土株式市場は海外大手機関投資家からみればまだ使い勝手が悪く、実際に採用されるかは不透明。また、採用されたところで初年度(16年5月から1年間)に流入する資金総額は500億ドル程度にとどまるとみられる。現在の中国株市場からすれば影響度は小さく、いかなる結果が出ようと、中国国内の投資家の失望を招く可能性があろう。

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中国株バブルが来た! 

配信日20157 3 

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