2015年

6月

09日

ワシントンDC 2015年6月9日 特大号

 ◇陸上インフラの質低い米国 整備基金が7月に底をつく恐れ


秋山勇

(伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)


「インフラストラクチャー・ウイーク2015」が5月11~15日、ワシントンDCで開催され、米国のバイデン副大統領やフォックス運輸長官、全米商工会議所が積極的に支援するなか、官民挙げての米インフラ改良策が提唱された。イベントを主導した全米土木学会の推定によると、米国の陸上インフラ不足や整備不良によって、全米の消費者や企業が支払う無駄な費用は、年1300億ドルを超える。インフラを立て直さなければ、米国の経済成長にブレーキがかかりかねない。

 最新の世界経済フォーラムの国別競争力ランキングにおいて米国は「インフラの質」部門で総合16位にとどまる。分野別に見ると航空旅客輸送量は1位だが、道路16位、鉄道15位、港湾12位、航空輸送インフラ9位で、鉄道と道路という陸上交通インフラの質が相対的に劣っている。

 筆者も米国での鉄道の乗り心地と、車の走行中に感じる道路の凹凸には閉口する。5月12日には、ワシントン発、ニューヨーク行きの全米鉄道旅客公社(アムトラック)の長距離旅客列車が脱線し、多数の死傷者を出す惨事が起きた。今年1月にワシントンの地下鉄(ワシントン首都圏交通局)駅構内で発生した火災事故も、整備不良が原因とされる。

 一方、車社会である米国のインフラの要は、1950年代から全国に建設された州間高速道路で、この維持・整備も喫緊の課題となっている。道路などの公共交通機関を整備する際の主な財源は「道路信託基金」で、この運用を規定する「陸上交通授権法」(MAP─21)が5月末に失効期限を迎えるのだ。仮に同法が失効すれば、7月には基金が底をつく。


 ◇課金方法を模索


 米国の道路財源制度は、道路利用者から徴収する税金が収入の基盤だ。これは主にガソリンやディーゼル燃料に課される自動車の燃料税であり、道路に損傷を与えやすい大型車両等の利用者にも別途、税金が課される。燃料税は発足時から徐々に引き上げられ、現在はガソリン1ガロン(約3.8リットル)当たり18.3セント。また、ディーゼル燃料1ガロン当たり24.3セントの連邦税が燃料代に上乗せされている。この金額は93年以来、不変にもかかわらず、道路信託基金の収支は01年以降、赤字続きだ。現在の年間赤字額は130億ドル程度になっており、25年には220億ドルに増えると議会予算局は試算する。

 赤字の原因は、①経済成長や人口増加に伴うインフラのキャパシティー不足を解消するための拡張費用増加、②インフラ老朽化加速による維持・修繕費用増加、③建設・維持費用の高騰、④利用者が支払う税金の安さ──などだ。また、自動車技術や燃費効率の向上、代替エネルギーの促進、人口動態の変化なども燃料税収が漸減した遠因とされる。ガソリン税を主体とする道路財源制度は限界にきており、抜本的な対策が必要になっている。

 現行の燃料税方式のまま増税すれば、自動車の利用者、特に車を通勤に利用する低所得者層やトラック輸送会社などを大きく圧迫する。「全ての道路を有料化する利用距離別の課金制度こそ、公平な受益者負担で効率的だ」との見方もあるが、新たな課金システムの導入は簡単ではない。

 道路整備の権限を連邦政府から州に移管し、官民パートナーシップや道路民営化を推進する案、政府主導によるインフラ投資銀行の設立案、さらにはオバマ米大統領が予算教書に盛り込んだ米国企業の国外利益に課税して道路財源に充てる案など、さまざまな提言はある。だが、利害の絡む関係者の主張は容易にかみ合わず、MAP─21失効に向けたカウントダウンが静かに進んでいる。