2015年

6月

09日

経営者:編集長インタビュー 今村 九治 今村証券社長 2015年6月9日特大号

 ◇若手を育成し、対面営業の新規開拓で成長


 北陸最大の証券会社が昨年12月にジャスダック市場に上場した。創業は戦前。東京、大阪、名古屋以外を本拠地とする証券会社では初の上場。インターネット証券が全盛のなかで今も対面営業による新規顧客開拓に力を入れている。

── 昨年末に上場し、今年3月には北陸新幹線が金沢まで開通した。

今村 開通に合わせて上場したわけではなく7~8年前から準備し、たまたま昨年末の上場となった。

 私は直接金融の証券会社と間接金融の銀行は車の両輪で、お互いがけん制し合うことで資本主義、金融市場の健全な発展が促されると考えている。資金調達や知名度向上のためではなく、上場すればオーナー企業の経営の独善を排することができる、公共財としての証券会社になれるという理念で上場を目指した。

── 上場に向けた苦労は。

今村 自然体だった。ジャスダック上場の基準は経常利益1億円以上。2014年3月期の経常利益は15.7億円。私は父が45歳の時の長男で、大学卒業後に山一証券に入社して1年で今村証券に移った。当時、証券界がコンピューターを導入し始めており、経理に配属された私は1971年からコンピューター化に取り組んだ。その結果、地方の証券会社では自前のシステムを持つ希有な会社となり、東証のオンラインとつなげることができた。東証の会員権も03年に取得しており、銀行の傘下に入ることもなく独自に上場できた。

── 創業は戦前で歴史がある。

今村 大正10(21)年に祖父が設立した米穀取引の今村商店が始まり。昭和19(44)年に父が証券会社にくら替えした。戦前の米穀取引は富裕層が投機で行っていた。今村証券のDNAは投機好きな個人のお客様が主だ。今も経営の基本は若手を育てて個人の新規顧客を開拓すること。

── 若手はどう育成している。

今村 入社1年目から外回りの新規開拓を始めさせる。いまは超低金利。銀行に勧められて預金から投信を購入している顧客がいれば、すかさず「どんな投信ですか。いまの利回りはこれくらいですね」とたたみかけ、お客様に興味を持ってもらう。新人が1000万円ものお金を預かるのは簡単ではないし、すでに他社の顧客の場合が多いが、これをやらないと証券業のなんたるかは分からない。

 しかし、1年目で月10件の新規顧客を取れる新人もいる。営業マンは100人。一昨年の新規顧客獲得数は3600人。この数字には上場を担当した幹事証券も驚いていた。

── 新規獲得の秘訣は。

今村 入社1年目で新規開拓を経験させることが大事。相手がどんなタイプの人でもカメレオンのように対応を変えよと教えている。成功した事例は全ての営業マンで共有している。NISA(少額投資非課税制度)も追い風になっている。

── ネット取引への対応は。

今村 99年の株式売買委託手数料完全自由化を前にアイルートというネット取引のシステムを自前で作った。いまは顧客から質問があれば営業マンが答え、取引はネットと両方のいいところを使っている。

── 収益の源泉は個人顧客か。

今村 収益源は多角化しないといけない。収益源の手数料収入のうち、前期は株式の委託手数料が13億7200万円、債券が10億4000万円、投信が6億300万円。投信の伸びが著しかったが、債券の大半はEB債(他社株転換債)だ。

── EB債といえば一時、社会的にも問題になった金融商品だが。

今村 EB債は年6~7%と高利回りだが、償還時の株価が購入時より下がっていれば株に転換される。そのリスクを説明せず、株価が下がり続けているのに募集を続けたり、償還時期に意図的に株価を下げようと操作した外資系証券もあり、01年前後に社会問題になった。しかし我々は販売中の値下がりリスクを回避するなど商品設計に工夫を凝らし、EB債を継続的に販売。それがリーマン・ショック時でも黒字を維持できた要因にもなった。確かに償還時に株価が下落しているリスクはあるが、それを説明した上で納得ずくで買ってもらっている。99年から販売しているがクレームは一切ない。ネットには負けない

── 今後の攻めの展開は。

今村 当社の店舗には、中2階がある。常連のお客様が来て、昼飯を食べる人もいれば、1階の営業マンに声を掛けることもできる。常連が気軽に来店できる中2階と、初めて来る人も入りやすい1階の店舗という設計にした。北陸の9店のうち8店がこの形態。今後さらに県庁所在地の富山市など、2店以上の出店を考えている。富山県は日本で最も貯蓄率が高い。16年からは20歳未満を対象としたジュニアNISA制度も始まる。就職時に振込口座を作る銀行と違い、証券は口座開設のきっかけがなかったが、NISAは富裕層の子や孫、若い世代に接触するチャンスだ。

── 人材面での戦略は。

今村 新卒を自前で育てるのが基本。昨年は16人、今年も13人の新卒を採用した。調査にも力を入れ、北陸3県に本社がある上場62社全てを自分の足で調査してリポートを出している。これがよく当たる。この調査力、多様な商品、新規開拓の三つを基本にネット証券と互角に戦う。

── 中期の計画は。

今村 向こう5年の合計で新規の顧客を1万5000人まで増やしたい。預かり資産も現在の2200億円から5年後には倍にしたい。

(Interview 金山隆一・本誌編集長)


 ◇横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 経理担当としてコンピューターを導入し、証券会社として成長できると夢を追いかけていた。

Q 最近買ったもの

A トマ・ピケティ著『21世紀の資本』。バルザックの小説でこういう文章があった、と文学書から入っていく語り口が面白い。株価も文学的な見方から予測できるのではないかと考えている。

Q 休日の過ごし方

A 晴れていたら4~5時間かけて庭掃除。雨なら読書か、妻とアイパッドの対戦型ゲームをしています。

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 ■人物略歴

 ◇いまむら くじ

1944年4月10日金沢生まれ。63年金沢大学附属高校卒、67年慶応義塾大学経済学部卒、同年山一証券入社、68年4月今村証券入社、11月取締役。84年11月代表取締役に就任、現在に至る。71歳。