2015年

6月

16日

経営者:編集長インタビュー 稲葉善治 ファナック社長 2015年6月16日特大号

※インタビュー全文を当ホームページに掲載します。

 

 ◇製造業の自動化・ロボット化に一筋

 

 2015年3月期はスマートフォン(スマホ)の金属ケース加工用の小型工作機械「ロボドリル」がけん引し、売上高が前年度比61.8%増の7298億円、当期純利益が同87.1%増の2076億円と最高益を実現した。世界シェア5割を占める数値制御(NC)装置や産業用ロボットも好調だ。

── 「スマホ特需」の次についてどんな戦略を持っていますか。

稲葉 特に考えていません。というのも、当社は、日本で初めてNC装置を開発して以来60年間、健全で永続性のある企業を目指して製造業の自動化・ロボット化に一貫して取り組んできました。健全性や永続性を確保するためには勝ち続けなければなりません。勝ち続けるためには企業体質を強化する必要があります。

 そのためには、自分たちが勝てるマーケットでしか勝負しない。ヒューマンロボット分野に進出しないのも我々が勝負する分野ではないためです。経営資源が限られる中で規模を大きくすることに重点を置き過ぎると資源が分散し、結果的に企業として弱くなる恐れがあるのです。

── 製造業とインターネットの融合を目指すドイツの「インダストリー4.0」が注目されています。

稲葉 かつて先進国の製造業に共通の課題を解決するため、日本の提案で1995年に始められた国際共同研究「IMSプロジェクト」には、ドイツも加わっていました。その中心人物の一人、アーヘン工科大学のフリッツ・クロッケ教授が来日しましたので「インダストリー4.0はIMSプロジェクトのIT版ですね」と聞きますと、「まさにその通りだ」と答えていました。むしろ日本が先行する分野だと認識しています。


 ◇社員の半数を開発担当に


── NC装置など強さの源泉は。

稲葉 「当たり前のことを当たり前にやる」ことを徹底しています。当社の場合は製造業の自動化・ロボット化に集中することです。

 我々もエンジニアですから好奇心が旺盛で、あれもこれもやってみたい気持ちが強い。そうした気持ちをいかに抑え込むかが重要です。

── ベースは研究開発ですか。

稲葉 当社の基盤です。今は社員の約3分の1が研究開発を担当していますが、この割合をまずは半分まで引き上げたいと考えています。

── 日本には技術力のある裾野産業も少なくありません。

稲葉 センサーや軸受け、減速機といった部品から、マグネットやグリス(潤滑剤)、素形材まで、基礎的な技術は世界最高レベルです。当社はこうした技術に支えられています。

── 来年4月竣工に向けて栃木県壬生町に新工場を設置します。

稲葉 マーケットに対する供給責任を果たすためです。山梨県忍野村の本社地区のNC装置の生産能力は現在、月産2万5000台ですが、拡張の余地がありません。今後は中国がさらに伸び、インドもそれと同程度か、それ以上の巨大市場になる。南アフリカなどアフリカの製造業も今後成長すると見込んでいます。

── なぜ国内なのですか。

稲葉 産業基盤が充実しているのに加え、当社の製品は一般の消費者を対象としていませんから、「地産地消」にこだわる必要がないためです。また生産拠点を分散してしまいますと、かえってコスト面で不利になると考えています。今ある国内32工場が当社の生産拠点の全てです。

── 為替リスクについては。

稲葉 ドル・円レートは1ドル=120円前後が理想です。ユーロ・円レートは1ユーロ=130~140円。この水準で安定してほしい。


 ◇ROEにはこだわらない


── 日本では最近、株主資本利益率(ROE)が注目されています。

稲葉 ROEには必ずしもこだわっていません。今期はスマホ特需もあって16%に向上しましたが、あくまで健全性や永続性を目指した結果の数字だと思っています。

── 配当性向を30%から60%に引き上げ、配当と自社株買い合わせた株主総還元性向を今後5年で平均最大80%にする方針を決めました。

稲葉 手元の内部留保約1兆円は、健全性や永続性を確保するため最悪のケースを想定した場合の準備資金の位置づけです。現時点ではこれ以上積み増す必要はないと考えています。一方で、将来の投資に向け一定の資金を確保しておく必要もあります。株主還元性向を最大80%に設定したのはこの二つのバランスを考えたためです。80%なら残りの20%で年約400億円の投資が可能です。

── 米投資ファンドのサード・ポイントの要望もありますか。

稲葉 もともと内部留保がこの水準まで積み上がってきましたので、対応する必要があると考えていました。ただ、確認のために保有株式上位20位までの全株主に意見を聞いたところ、増配は歓迎で、自社株買いはタイミングを見て実施すべきだという声が大多数でした。

── 4月に「シェアホルダー・リレーション部」を設置しました。

稲葉 機関投資家とはまだ話し合いを始めたばかりですが、好意的に受け止めてもらっています。

── 社員に伝えていることは。

稲葉 仕事面では「指示待ち人間」になるなと言っています。当社も社会の歯車の一つですが、受動的な歯車ではなく、自分で考えて動けるような能動的な歯車になってほしい。

(Interview 金山隆一・本誌編集長、構成=池田正史・編集部)

 

 ◇横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 「ロボショット」と呼ぶ射出成形機の開発に専念していました。今なら、労働基準監督署から怒られてしまうくらい、土日もなく仕事に取り組んでいました。

Q 最近買ったもの

A 取り立てて思いつくようなものはありません。

Q 休日の過ごし方

A 平日は山梨県忍野村の本社に単身赴任していますから、土日は自宅に戻って家族と一緒に過ごします。体を動かすこと(スポーツ)はあまりしませんが、家事など何でもかんでもいろいろなことをやるほうです。

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 ■人物略歴

 ◇いなば よしはる

1948年生まれ。茨城県出身。73年東京工業大学工学部機械工学科卒、いすゞ自動車入社。83年同社を退職し、ファナック入社。92年常務、95年専務、2001年副社長などを経て03年から現職。66歳。