2015年

6月

23日

全文掲載 商社特集インタビュー 中村 邦晴 住友商事社長 2015年6月23日号

なかむら くにはる

1950年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、1974年住友商事入社。自動車部門を中心に歩み、経営企画部長、資源・化学品事業部門長を経て、2012年6月から現職。64歳。

◇非資源の稼ぐ力は着実についている


 2015年3月期、シェールオイルや鉄鉱石などの資源関連投資で、3103億円という巨額の減損を計上、16年ぶりとなる732億円の連結損失となった住友商事。投資に手堅いと定評があった住商に何があったのか。中村邦晴社長を直撃した。


--2015年3月期は、16年ぶりの赤字に転落した。

中村 大きな赤字を出し、最終赤字になったことについては、ステークホルダー(利害関係者)の期待に沿えなかったという点で、責任を感じている。しかし、これをバネにしたい。

 投資については、社内の手続きを踏みしっかり検討し、社外のコンサルタントの意見をもらったりして、決断をしたが、結果的としてこれだけの損失を出した。それには理由がある。次の投資に生かさないといけない。4月からの中期経営計画で、それをやりたい。


◇低価格では資源は買えなかった

 

-- 米シェールオイルの損失の原因は?


中村 隣の鉱区までは、オイルがかなり出ていることを確認していた。ところが、我々の(取得した)鉱区に入り、オイル層の地形は複雑に変化していて、採掘が難しいことまでは、事前調査ではわからなかった。

 パートナーの米デボン・エナジーは当初、我々の投資案件が大きなポーション(割合)を占めていたが、その後、別の案件を始めて、そちらのポーションが大きくなった。リグ(採掘機)の設置にしても、そちらを優先するようになった。そういうリスクを織り込めていなかった。デポンにとってもビジネスだから、掘り出すコストが安いところのほうが利益が大きいわけで、そちらに移る。そうしたところまでは想定していなかった。

 その前に米テキサスでシェールオイル開発をやったときには、ほぼ想定通りにできていた。もう一歩、二歩、深く考えることが足りなかったと反省はしている。


-- デボンとの契約は、住友商事にとって不利な不平等契約だった?中村 それはない。我々にも契約に対する拒否権もあった。決して不平等ではない。リスクがあるということを自分たちで事前に気づいて、それを押えることができなかった。そいう意味では、経験不足もあった。

-- 資源価格が戻れば、開発を再開するのか。

中村 今回は、生産しているものもあり、続ける。北の地域は売却。やるとなると、リース契約を更改しないといけなく、それには多額の資金がいる。そこまでやってやるのか、売却・撤退かを検討中。もう一度とは、いかないだろう。


-- ブラジル・ミネラソンウジミナス(ムーザ)の鉄鉱石の減損623億円の原因は何か。

中村 鉄鉱石の価格下落がこたえた。ここまで落ちるというストーリー、筋書きは我々にはなかった。将来価格についても、専門の調査会社に長期的な価格予想をとって、それをもとに、我々はこういう価格で推移するだろうという前提で、現在価値をはかって決める。港の開発などもあったので、やりはじめた当初、ウジミナスそのものに経営の混乱があり、そういったことも決定を遅らせる要因になった。ムーザの経営状態を読めなかった。


-- 高値づかみだった?

中村 結果として、もっと低い価格では、(権益を)買えない。マーケットを見る目がないと言われれば、それまでだが。では、(鉄鉱石価格は)何をベースにするのか。世の中に出ている長期的な予想も信用できない。鉄鉱石価格は、1㌧当たり20㌦と低いところから、上がって、下がってという状況だった。当時の中国の鉄鋼の(需要の)伸びを見て、どこまで落ちるかを予想するかだったが…。

 我々は、資源開発では後発商社。古い権益を持つ商社のように20㌦代の鉄鉱石の権益はない。もっと高くなってからの権益取得だ。そこから下がると、減損となる。一時200㌦を超えた。100㌦で買って、半分で買えるかというと、買えない。では資源はやらないのかとなる。この判断は難しい。長期的価格を、20~30年の長期のプロジェクト。そこまでの価格を、予想する。それを、どこにおくのかが一番難しい問題。

-- 資源に関して、資産の入れ替えをやるのか。

中村 資産の入れ替えはやるが、減損をやったので、簿価はずいぶん下がっている。今となれば、安い権益をもっているということになる。

 当社は資源に関して、「仕掛かり案件」がたくさんある。たとえば、鉄鉱石のムーザ。生産して利益を出している。ほかにもプロジェクトはまだある。マダカスカルのニッケルプロジェクトなどだ。


-- しかし、ニッケル価格も下落している。

中村 下落しているが、底を打って戻している。いろんな見方があるが、来年ぐらいから需給関係が逆転するだろうと。今、辛抱のしどころ。


◇資源メジャーの中小つぶし


-- ここ5年ほどの投資は、失敗の連続だった。

中村 米国タイヤ事業は、ずいぶん前に買った案件。3000万~4000万㌦の利益が出ていた。2008年9月のリーマン・ショックあたりからおかしくなり、今回減損(219億円)した。過去3~4年のものがきたというわけではない。(事業の)拡張をした時期もある。タイヤについては、自動車販売が年間1600万台から1100万台まで落ちたのは大きい。ターゲットは車齢の5~7年の中古車オーナーがメインの顧客。新車販売がどんと落ちたが、新車販売が元に戻れば、また需要は見込める。

 ただ、米国でタイヤ販売を手がけるTBCは、卸とフランチャイズ(FC)店はいいが、直営店が悪い。なぜか。1年半前から改革をはじめている。システムを変えるとか。不採算の店舗の入れ替えや売却などもしていく。集客をどうするかなどを検討している。改革は、計画より遅れているのは事実だ。


-- そもそもなぜ、資源分野で一気に減損が発生したのか。

中村 価格が上がって、落ちてきたところで、また戻るであろうというところで買った。上がりのところで、買ったりした。将来価格の見方が、もう少しこれぐらいのレベルで推移するだろうと。それが、その通りになっていない。


-- 住商は投資には慎重だったはず。なぜ高値買いをしたのか。

中村 順張りというか、タイミング。いつの投資が適格かが、わからない。それが経験といえば、そうだが。マーケットの状況と我々の価格推移の見通しの違いや、資源を取り出すコストの問題などいろいろな事情があった。

 鉱山ごとの生産コストがある。資源価格が下がってくると、コストが高い鉱山から閉まっていく。これが競争力。供給が減ることで、価格は戻ってくるだろうという予想で権益を買っていた。

 資源メジャーは、コストの高いところにいても、さらに開発・生産をする。生産を増やすことで、コスト下げるのだ。そういうことをしてくる。

 我々は、大きな開発・生産をしていない。資源メジャーのようなコストを下げるということはできない。資源メジャーは、増産して小さいところを潰しにきている。そうして小さいところが閉山していくと、資源価格が戻り、メジャーは大きな利益を出せる。


-- 新規投資は控えるか。

中村 新規投資は、資源関係はしばらく見合わせえる。当社には、前述したように投資して回収に至ってない「仕掛かり案件」がたくさん残っているからだ。マダカスカルで進めている、ニッケル開発事業「アンバトビー・プロジェクト」やムーザの鉄鉱石などだ。アンバトビーは、計画が2年以上も遅れている。

 ただし、資源分野を現在の15%から中長期的に20%にするという目標は捨てたわけではない。


-- 今後のリスク管理は? 何重にも審査をして、その結果、投資案件がなくなってもいいというぐらい慎重にいくといった説明をしている。

中村 それぐらい慎重になっていい。「これを逃すともう(いい案件は)ないというプレッシャー、恐怖感がなかったか、反省している。中国の「爆買い」がすごかった。プレッシャーというか。当時の中国に資源をすべて押さえられる。いい案件が買えない。相対でやれるいい案件なら、これを逃すとないと、もう我々が買える案件がなくなってしまう。そういう恐怖感に、動かされたのではなかったかと反省している。

 (検討に)時間がかかりすぎるということで、十分に検討せずに、結論を出すということはできない。当時でも十分に検討したが、それでも今回のような大きな損失を出してしまった。今回のようなことがないように、投資委員会や経営会議、取締役会などで多層的に検討を重ねる。重複が多いとの指摘もあるが、それぐらい慎重にやっていく。それでできないということは、自分たちの力不足ということだ。


◇非資源の稼ぎ力


-- 非資源はどうか。

中村 稼ぐ力である基礎収益、つまり一過性ではない通常の収益力を私が社長になってから強く、大きくしようと言ってきた。一過性の損失が出ても、それが終われば、力強く復活できる。それには通常の収益が出ていることが大事だ。

 基礎収益は非資源で12年3月期に1800億円、資源で715億円、合計2515億円だった。15年3月期は資源の大幅な減損があり、資源の基礎収益は525億円の損失となったが、非資源は2365億円まで積み上げた。非資源の収益力を伸ばすのは、ずっとやっていく。


-- これからどの分野で稼ぐか。

中村 今期からの中期計画3年を展望したとき、資源は厳しいだろう。原油はじめ資源価格の低迷はまだ続く。しかし、ガソリン価格の値下がりは、世界的な自動車販売には追い風だ。中国は落ちたとはいえ、年間2300万~2500万台。米国は1650万台まで回復してきている。アジアも中間層の増加で、自動車販売はまだ伸びるだろう。すると、裾野の広い自動車分野は伸びていく。

 ただし欧米、中国、アジアと地域ごとに需要は異なる。欧米、特に米国は環境問題への対応が必要だ。燃費性能の向上や二酸化炭素抑制の観点からハイブリッド車、軽量化が求められる。軽量化であれば、アルミ需要が盛り上がるからアルミビジネスを拡大する。

 中国は、生産がベースで、部品産業が中心になるだろう。アジアは販売が主体で、自動車ファイナンス(金融)がビジネスチャンスだ。地域ごとに、発展段階が違う。


-- ほかに有望な分野はどこか。

中村 もう一つ世界的に電力や交通、物流、通信などインフラ事業も有望だ。欧米は、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの普及につながるインフラ整備が期待できる。アジア・中東は、火力やガス発電だ。インフラも地域ごとで、ビジネスが違う。

 また、単にハードを売る込むだけでなく、ミャンマーの鉄道事業のように保守などを含めたパッケージでやっていく。電力の保守はIPP(独立発電事業)。こうした地域ごとに異なるニーズへの対応やパッケージで売り込むインフラ事業を展開するために、「部門間連携をとってくれ」と言っている。

 たとえば、欧米自動車事業で有望視されるアルミは金属部門の担当だが、部品は自動車部門が扱っている。こうした部門を超えて、連携をとって対応しなければ、需要に応えていけない。非在来型エネルギー事業のワーキンググループも米国で立ち上げた。


-- 部門間連携をとろうという改革は、以前からあったが、なかなか実現しないのはなぜか。

中村 東京だけでは、部門間連携はとれない。動かない。十何階にもフロアーが分かれて、仕事をやっていると動かない。しかし、海外なら一つの机に駐在員全員が集まり、金属、自動車など部門を超えて、情報の共有ができる。だから、海外や地域から(東京を)変えてほしいといっている。


-- 2018年3月期の純利益目標3000億円以上は達成できるか。

中村 少ないかな。もっといけると思うけど……。環境インフラ部隊は、先が読める。国内でも太陽光や風力、バイオマス(生物資源)で、確実に収益は上がってくる。電力の小売りの自由化は、(子会社の)サミットエナジー。これをケーブルテレビのジュピターテレコム(JCOM)のネットワークなどを使って売ろうと。次はガスの自由化。JCOMの505万戸のネットワークなどを使って、まさに部門間連携でやる。

 海外でも風力、IPPなどの利益が望めるだろう。自動車はメキシコでマツダと合弁工場を立ち上げ、フル生産をはじめる。ミャンマーの通信事業も伸びていて、収益が期待できる。いろいろ入れると、純利益3000億円くらいはいけるだろう。

 いま、アンバトビーは約100億円の赤字だが、100%生産で赤字幅は縮小する。タイヤビジネスも赤字だが、それを少なくしていく。黒字に変えていく。ニッケル価格のこれ以上の下げがない限り、アンバトビーの減損はもうないだろう。


-- 資本政策についてはどうか。ROE(株主資本利益率)10%を目標にしている。

中村 まずやるべきは、リスクアセット(資産)とリスクバッファーをバランスさせること。つまり、最大損失に対する備えとして余りある資本を用意するということだ。それともう一つは、3年間の配当後キャッシュフロー(CF)を黒字にすること。この二つを財務政策を3年間でやる。これが一番の課題だ。これをベースに投資。投資ありきではない。CFが予想通りにならないと、投資を抑える。

 今回の損失を出した反省として、案件に対するリスクウエートが低すぎたということがある。リスクウエートを厳しくして、従来より1200億円リスクアセットを追加。その結果、リスクアセットに対するリスクバッファーが1800億円の不足状態となり、アンバランスになっている。これを3年でバランスさせる。それには投資を抑えて、利益を増やす。


-- 大きな損失を出したことで、変えるチャンスではないか。

中村 中期経営計画を説明しても、アナリストからはわかりにくいとよく言われる。しかし、ビジネスは生き物。ここで(事業を)やめて、もう一回やればいいというが、一度やめたら、続かない。続けているから、次がある。ポーフォトリオ(投資の中身)はどうかと検討を重ねて、ここから3年は、こういう産業分野でやっていくと説明している。3年間で1兆2000億円を投資するが、枠にはめてしまうのがいいかどうか。

 ただし、1兆2000億円の投資ありきではない。既存ビジネスでミニマムでやるところもある。全社でコントロールしている。その結果、収益を上げていく。それが総合商社だ。

(聞き手・構成=濱條元保・編集部)