2015年

6月

23日

全文掲載 商社特集インタビュー 安永竜夫 三井物産社長 2015年6月23日号

やすなが たつお

1960年生まれ。83年東京大学工学部卒業、三井物産入社。東洋エンジニアリング出向、執行役員機械・輸送システム本部長などを経て、15年4月から現職。54歳。


◇2020年に1兆円商社を目指す

 

 2015年3月期に減益となった大手商社2位の三井物産。今期予想では伊藤忠商事の後塵を拝し、3位に転落する。この逆境で社長に就任したのが32人ごぼう抜き、54歳で社長になった安永竜夫氏。資源偏重と言われる三井物産の事業をどう立て直していくのか。

 

ーー 前期の決算について。

安永 なかなかしんどい。(減益という結果を)素直に認める。やはり我々の強みである資源エネルギーの分野に偏っていたので、商品市況が下落した局面ではこういう結果になってしまう。

 しかし中長期的には、地球人口が増えていく中で、生産調整も進んでくるし、原油価格もかなり戻ってきている。鉄鉱石の価格も中国政府の刺激策、それから実際問題、中国の製鉄所の在庫も減ってきて、少し戻してきている感じはする。ただ、鉄鉱石はかなり供給力に余裕があるので、しばらくはもみ合いが続いていくのでは、と感じている。


 いずれにしても現在の足元の価格は、下がり過ぎだと思っている。中長期的に、2020年頃には需給のバランスが逆転してくる。

 長い目で見れば戻って来る。資源の分野で我々は、市況の上下に一喜一憂せず、中長期的な視点でしっかりやるべきことはやっていく。

 一方で、やはり弱いところをどうやって強くするかというのが大事。それが正に私の(社長就任)1年目のやるべき仕事だと思っている。


ーー 資源の権益は売却しないのか。

安永 市況の下落局面というタイミングで色々と出物もあるだろうし、我々が今やっているパイプライン(開発中)の案件もあるので、資産の入れ替えをやるタイミングではあると思う。

 パイプライン案件として、いま正にモザンビークのモアティーズ炭鉱を開発している。これはしっかりとインフラ整備と合わせて、成長させていかなければならない。

 ガスについても、昨年、最終投資決断(FID)をして、すでに着工済みの米ルイジアナ州のキャメロンLNG(液化天然ガス)をしっかり立ち上げる。それから、いよいよモザンビークのエリア1鉱区のLNG開発を年度内にはFIDに持っていこうと今進めている。

 こういった新しい案件にはどんどんチャレンジしていく。モザンビークのLNGの生産能力は第1フェーズで今の予定で年産1200万トン。総事業費はEPC(プラントの設計・調達・建設)などの契約は締結していないが(編集部注:5月18日に契約を発表)、トータルで2兆円の規模になってくると思う。


ーー LNGの売り先は。 

安永 1200万トンのうち、800万トン強は日本とアジア各国から販売条件で基本合意(LOI)をいただいている。最終的に投資金額を決めて投資し、EPCも含めてコストを精査した上で、ガスの販売契約は、まだLOIの段階なので正式な売買契約の締結に向けていま交渉している段階だ。長期の採算をしっかり見定めて最終決断していくことになる。


ーー モザンビークはやはり安いガスが採れるのか。

安永 世界最大級のガス田で、非常に掘りやすい。モザンビークという国自身が資源をベースに国の発展、インフラ整備、人材の育成をやっていこうという段階にある。我々がサハリンや豪州、ブラジルでやってきたことと同じ開発を正にやっていこうとしている。インフラ整備とともに、農業や鉄道を利用した一般貨物の輸送などにも貢献していきたい。

◇国づくりこそ勝ちパターン


ーー モアティーズ炭鉱では鉄道や港湾開発も一緒にやる。 

安永 モアティーズ炭鉱の資源鉄道を利用して、これに一般貨物を乗せる計画がある。沿線は農業地帯でもある。農産物の輸出や肥料の輸入、あるいは隣国マラウィへの物資の供給もある。

 色々な意味でモザンビークは資源を起爆剤にして、国をつくっていくフェーズにある。こうした開発は三井物産が最も得意とする分野だ。こういう言わば勝ちパターンというか、強いというところは継続的にやっていくし、中長期的に20年、30年でやらなくてはならないプロジェクトだから、それが一時的な油価の下落でやめることはない。

 コストは当然ながら状況に合わせて最適化する作業はやっていく。過去、サハリンの立ち上げの時であれ、(稼ぎ頭となった)西豪州のノース・ ウエスト・シェルフLNGの意思決定をする時であれ、油価は激しく下がっていた。市況循環的な動きの中で、多少のスケジュールの調整はあるが、中長期的に見れば、やはり環境にやさしい天然ガスの需要は日本のみならずアジアでも今後大きく増えてくる。これはしっかりやる。こればかりだと資源偏重といわれるが、我々のブレッド&バター(主食)としてしっかりやっていく。


--非資源への取り組みは。

安永 むしろ強調したいのは、非資源の柱をいくつ作っていくかということ。昨年で言えば、インフラ分野で電力もいよいよ持ち分出力で10ギガワット(1ギガワット=100万キロワット)の手前まで来たし、電力については我々自身が自ら開発、運営できる案件を作っていく力が付いてきた。特に北中米を中心に自分たちで案件を作って、仕上げて、その中で必要に応じてリサイクル(資産の入れ替え)をやっていく安定期に達してきた。

 今までは発電容量を伸ばしていくフェーズにあったが、これからはむしろリサイクルしながら進める。プロジェクトというのは立ち上げると、そこで資産の価値が出る。操業を開始したところで出資分を一部放出するなり、売却するなりして、また新しいものを作り上げて、売っていくという定常的なサイクルに入ってきたと思う。

 持ち分出力で9・6ギガワットというのは、1990年代にインドネシアで当社が自ら開発に乗り出したパイトン発電所を始めたころから考えると隔世の感がある。日本のIPP(独立系発電事業者)プレーヤーとしては最大級の1社になる。


ーー 発電インフラ以外はどうか。

安永 もう一つ力を入れているのがモビリティー(交通・輸送分野)。昨年、米国のトラック・リース事業、ペンスキー・トラック・リーシングに参画した。当社はペンスキーとは15年間、北米で乗用車ディーラー事業を展開していた関係にある。ペンスキー・トラック・リーシングは全米で約3000の営業拠点と約700カ所のメンテナンス拠点を持ち、約22万台のトラックやトレーラーを保有している。これだけの規模で展開しているのは全米で2社しかいない。

 我々はそこに参画するとともに、自分たちが北米で展開していた自動車部品の物流サービス事業の「トランスフレイト社」を統合した。

 伸びしろはトラック輸送事業そのものの拡大。アメリカの3億人の人口、そしてエネルギーコストがシェール革命によって非常に競争力があることもあり、産業が相当アメリカに回帰している。

 今や世界経済のけん引役はアメリカ。そういう中で伸びていくインランド(内国)の輸送事業にしっかり刺さり込むということ。我々はトヨタ自動車をはじめ北米に進出している日系企業に対し、サード・パーティ・ロジスティクス(第三者による物流サービスの提供)をやってきた。

 いわゆるコンボイといった大きなトレーラーは排ガス規制の問題、燃費の問題もあり、更新が求められるし、どうやって壊れないように長持ちさせ、最も効率的なメンテナンスをするかが事業の収益性のカギを握る。その点で全米にネットワークを持っているところが勝ち組になる。そこに入ったことで、このプラットフォームを生かして、我々が全米で展開している物流サービス事業と統合することで、ペンスキーの顧客基盤と、アメリカに進出している日系顧客基盤を足し合わせればコストも下がるし、双方のサービスを複合的に提供することができる。トヨタ自動車のメキシコ進出でも、ぜひこのプラットフォームを生かして、競争力のあるサービスを提供したい。

 投資総額は約900億円。ペンスキー・トラック・リーシングは米GEが保有する資産を一部売却するタイミングで我々が入った。GEキャピタルは金融ビジネスの中で自分たちの製品に直結しないものは売っていく方向にある。その流れの中で私自身がペンスキーの会長であるロジャー・ペンスキー、GEのジェフリー・イメルト会長、GEキャピタルのキース・シェリンCEOと話をして、結果的にペンスキー50%、GEキャピタル30%、三井物産20%という形で、いまPMI(合併後の統合作業)を行っている。コスト削減の効果も出てきているし、新しい顧客基盤を獲得できるというので、現場は相当盛り上がってきている。


◇米シェールは川下展開


--北米のシェールガス開発はどうか

安永 シェールガス関連でいうと、他社さんは苦労しているが、我々は比較的競争力のある井戸元資産をペンシルベニア州とテキサス州に持っている。ルイジアナ州のキャメロンLNGを立ち上げた以外にも、ガスの下流の事業に相当今、投資している。

 ガスを原料とした化学品、ガスを運ぶパイプライン、ガス火力発電、すでに運営しているものもあるし、建設中のものもある。これらが立ち上がると、ガスを燃料、原料とする事業を持つことによって、ガスの価格の変動にさらされないナチュラル・ヘッジ(市況変動を相殺する仕組み)ができる事業が下流に出てくるので、トータルで見ると強靭なバリューチェーンが北米で完成する。

 キャメロンLNGは2018年の商業生産開始を予定している。そのフェーズに合わせて化学事業も順次立ち上げる。今年はメタノール事業が立ち上げる予定だ。そういった意味でシェール開発は点ではなく、面でアメリカにおけるシェール革命を、我々が縦につながる事業としてつかまえていくことができると思っている。エネルギーを一つの核としつつ、我々がやろうとしている下流、非資源の分野に生かしていける。


ーー 総額1000億円を投じ、米テキサスで展開している塩化ビニール原料を生産する電解事業の現状はどうか。

安永 電解事業はすでに立ち上がっている。ただ少し苦労している。原料のガスは競争力があるのだが、ガスから作るエチレンの需要が米メキシコ湾岸で急増したためにエチレン価格が急騰したことと、製品のEDC(塩化ビニール原料)のマーケットが振るわなかったことが事業不振の原因だ。市況が悪い時に立ち上がった。だが今、原料エチレンの値段が落ち着いてきているし、販売するEDCの値段も反発しつつあるので、数字的にはかなり改善している。


ーー シェールガスでは住商が巨額の減損をしているが、三井物産も昨年、一昨年、米イーグルフォードで合計約645億円の減損がある。

安永 今のIFRS(国際会計基準)というのは、将来獲得する資金を現在価値にして、それによって資産のバリューを常に時価で洗い直していく。その時に自分たちの簿価と比較して、将来の価値が下がっているとそれが減損テストに基づいて減損として出る。

 油価が70ドルから50ドルになれば収入は下がる。フューチャー・バリュー(将来価値)は下がって、減損する。しかし油価が上がるとまた将来価値が上がってまた減損の戻し益が出る。

 我々のガス、原油の生産コストは、今の市況でも十分に利益が出る。将来の価値が油価によって上下することによる減損はIFRS上、取り込まざるを得ないが、キャッシュフロー(現金収支)として見た時どうか、というと我々に必要なものは増産している。

 当期純利益は3065億円まで落ちて減益となったが、現実として昨年(前期)の基礎営業キャッシュフローは6600億円で史上最高の数字だ。


◇キャッシュをつくる力が基準


--基礎営業キャッシュフローを重視しているのか。

安永 我々は当期利益という、IFRSのルールによって、上下しやすいものよりも、自分たちの実力値はキャッシュを創出する力をもっと強くしようと動いてきている。この中期経営計画からEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を我々のアーニングパワー(稼ぐ力)のベースとして見る。

 現実問題、我々が他社を買収しようとする時に企業の価値を見るとき、何を見るかというと、当期利益でなくEBITDAを見る。キャッシュをどれだけ作っていけるか、将来キャッシュをこれだけ生むから、そこに対していくら投資するかを決める。企業価値を決めているのは当期純利益よりキャッシュをつくる力。我々自身も価値を見立てるとき、そこを見る。だから我々の力もEBITDAで示そうとしている。


ーー 一般には純利益の減益が話題になっている。

安永 純利益が下がっているというのは、将来のキャッシュを創出する力が落ちている証左ではある。それは真摯に受け止めて、それを増やすにはどうしたらいいかを考えなければならないが、EBITDAと基礎営業キャッシュフローを見た時にはそんなに数字は落ちていない。

 3年間のキャッシュインを予想した時に、1・7兆円の基礎営業キャッシュフローが見込めているし、リサイクル(資産の入れ替え)によって9000億円は取れる。前期は3400億円のアセットリサイクルがあった。中計3年間で見れば、2兆6000億円のキャッシュインがある。新規投資では1・5兆円をすでに開発している案件の拡張などすでにコミットした案件がある。そのバランス(差額)の1・1兆円が新規の成長投資と株主還元に向かうというプランだ。

 そういう前提であれば、我々が中長期的に自分たちの事業を説明し、自分たちの成長投資を考えることと同様に、株主還元についても継続性と安定性を重視してやっていく。前期も60円配当についても、当期純利益は2400億円に下がるが、同様の考えで64円で株主総会に諮らせてもらった。


ーー 配当政策は評価されたようだが。

安永 (今期の純利益予想の)2400億円という数字には社内的に危機感を持っている。他社が同じようなことをやって稼いでいるのに、我々はこれだけか、というところでは、インフラ、モビリティー、あるいは化学品を含む下流、消費者に近いBtoCの部分でしっかりした収益基盤を持たなければならないと思う。


ーー 当期純利益は予想の2400億円から3000億円くらいに上振れしないか。

安永 原油や鉄鉱石の価格は下がり過ぎの状況で、いま緩やかに戻ってきている。これも金融緩和がいつまで続くかなど、いろいろな要因に影響される。まず我々は今、見えている世界の中で上振れ要因はあると思うが、この中でしっかりやっていく。

 資金計画としては1・1兆円が(キャッシュインとキャッシュアウトの)バランス。そういう意味では新規の成長投資に、自分たちの作るお金で回せる余力は、他社よりも多いと思っている。

 それを、どの案件に、どのように入れていくかということで、まさに非資源強化の中で、CD(コーポレート・ディベロップメント)本部を立ち上げて、「業態変革をするための伝道師だ」というつもりで、案件の開拓や良質化をやる。CD本部に課しているのは、総体的に弱い分野で、どういう新しい収益基盤を作っていくか、獲得していくかというところに集中してやってもらおうと思っている。


-- 資源、非資源の比率は。

安永 今年は5対5。将来的には、6対4ぐらいが一番。いま資源は下がりすぎだと思うし、非資源の方はもっと頑張って成長をさせていかなければならないと思っている。純利益2400億円という数字は当然ながら満足しているわけではない。数字をもっと強靭にするためにどうしたらいいか、その一つがシェールガスというチェーンの中で市況に左右されない収益力をつくるということを考えている。


ーー 08年のリーマン・ショック後の投資で失敗したものはあるか。そこから得られた共通の教訓は?

安永 リーマン・ショック後で総括するには早いと思う。90年代に手がけたインドネシアの輸出専用製油所(EXOR)やパイトン発電所、あるいはロシアのサハリンLNGも立ち上げは相当に大変だった。しかし、プロジェクトを完遂させて、キャッシュを生み出す事業に仕立てて、初めて価値が生まれる。パイトン発電所なども途中で投げ出していたらゼロバリュー(無価値)だった。しっかり仕上げたからこそ、いまIPPの持ち分出力で10ギガワットに至る道筋もできている。そこはあまり短期的に総括するのはよくないのではないかと気がする。

 一方で、プロジェクトを立ち上げることをゼロから自分たちでやる、というのがないと商社の実力はついてこないと思う。パイトン発電所が実力になったのは、自分たちがドライバーズシートに座って、自分たちで契約のすべてを構築し、EPC(プラントの建設契約)をハンズオンでマネージしたという経験が生きている。プラントに限らず、エネルギーも金属も化学品も、自分たちが当事者として案件を仕切る能力、切り盛りする能力をつくっていかなければならないという思いは強い。

 したがって、マイノリティーの出資で満足しているのではなくて、より重要なシェアを取る。場合によっては過半を取り、オペレーターシップ(事業全体の運営)にこだわるということを考えていきたい。


ーー 世界最大の豪州の金属リサイクル企業、シムズメタルに900億円を投資したが、今、事業は厳しい状態にある。撤退などは考えているか。

安永 マネジメントも変わって新体制で実力をもう一度見定めようというのが今のステージ。流れとしては都市資源、地上資源はリサイクルするという方向に世の中が流れている。リサイクルにおいて強みを発揮するビジネスは必要だと思っている。その中で、新経営体制の中でシムズが実力をしっかり示してもらえれば、我々にとって強みが加わる。


◇ブラジルは集中リスクではない


ーー 商社の集中リスクがいま問題になっている。ブラジルのエクスポージャー(投資・融資・保証の総額)が他商社に比べて突出して多く、約8000億円あるが。

安永 国ごとのカントリー・エクスポージャーはある程度コントロールする必要があると考えている。当社のトータルのアセットサイズと、相対的なブラジルにおける強みを考えると、過度な集中ではないと判断している。ではこれ以上積み上げるかというと、少し慎重に考えざるを得ない。特に政治的にブラジルは少し不安定さが出ているので、そういう意味では要注意と考えているが、我々のブラジルにおける資産というのは、(鉄鉱石世界最大手の)ヴァーレをはじめとして基本的には輸出型のドル獲得の事業。あるいはそれにつながっている事業なので、相対的にはブラジルのボラティリティー(価格変動率)にあまりさらされていない。むしろ、ヴァーレの株価は中国経済にさらされていると言った方がいい。単純にブラジルをエクスポージャーとしてカウントすべきかというと違うかもしれない。


ーー ブラジルのエクスポージャーはこれ以上増やさないが、今の中でできるマネージしていくということか。

安永 例えば、三井ガスを通じてブラジルでガス事業をやっている。こういう下振れの少ないインフラ事業の場合には、ガスの販売量、供給エリアを増やしていけば、コスト競争力がさらに上がっていく。そういうところでは昨年も供給地域を増やしていくための投資はしている。


ーー ブラジルの鉄鉱石事業はどうか。ヴァーレは経営不振と言われているが。

安永 ヴァーレ自身は製造コストを見直して、設備投資も今の市況に合わせて最適化をしている最中なので、大きな心配はしていない。もともと競争力はある。


ーー 三井物産の鉄鉱石のシェアは世界5位か。

安永 持ち分トン数でいうと世界4位ではないか。海上輸送量でいうと世界5位。鉄鉱石3メジャーと等距離で対応している。この連休に豪州に出張で行ってきたが、社長として最初の出張だった。豪州はブラジルよりも最大の投資先。LNGもあるし、鉄鉱石、石炭、電力資産もあれば木材チップに食料、化学品では塩を作っている。


-- 豪州もやはり重要な投資先か

安永 新米社長だが、アボット首相にお会いすることができた。この60年、とくに西豪州ピルバラ地域の鉄鉱石の開発に三井物産が投資したことが、西豪州の発展の基礎になっていると、「三井物産は豪州にとってアブソリュートリー・パーフェクト・コーポレート・シチズンだ」というありがたい言葉をいただいた。これはあちこちで言っている。

 日本人だけでなく、豪州人で我々の事業に参画しているスタッフに対してそれだけプライドを持って仕事をしてくれと言った。

 投資だけでなく、豪州と日本の間のいろいろな交流にも寄与してきている。今まで奨学金プログラムで330人ほど豪州の学生を日本で受け入れている。そういう交流や、資源だけに限らず、いろいろな広がりを持った事業に我々は投資し続けている。それに見合うリターンもしっかりいただいている。政府から見ても優等外資と認めていただいていることだと思う。


ーー 案件の投資を決断する時はかなり精査するのか。

安永 今、1兆1000億円の投資枠があるとは言っても候補は相当ロングリスト化されている。もともと個別案件審議会、ポートフォリオ管理委員会、経営会議、取締役会と4段階で安全性を精査して、その中でいいものをやっていく。しかし、スピード感がどうしてもなくなってしまう。特にBtoCの世界、伸びているアジアでは、華僑系の企業グループと付き合うには、経営判断のスピードが合わないということもあって、もう少し精査にかけるプロセスは変えずに、どうやったら前倒しで案件を進められるか、プロセスの見直し、簡素化ということを今考えている。

 ただ、基本的には相当時間をかけて案件の精査はやっている。それでも失敗はあるでしょう。当初思っていた環境から想定が変わる場合があるので、想定から変わった時にどうやってそれを自分たちがコントロールするか、よりよい方向に事業を持っていくことができるように事業を変えていくかと考えた時、自分たちがコントロールできる部分が大きい案件でないと、人任せにすると環境変化に対して弱いと思う。


-- この中期計画(14~16年度)では2020年にEBITDAで1兆円超えを掲げている。

安永 我々としては2020年を一つのターゲットにしている。1兆円はそれくらい稼げるようになりたい。投機純利益にこだわると難しい。キャッシュを創出する力として、EBITDAを見た時に、昨年が7800億円だから、今年は資源価格が下がってそれを量で補ってやるが、7800億円よりは下振れすると思う。


-- 大手商社は純利益に走って、純利益で100億円積みませる案件に投資して結果的に減損する繰り返し。EBITDAで1兆円を目指す意図もその回避を意識しているのか。

安永 15~20%のシェアでエクイティピック(持ち分益の取り込み)だけを狙うのでは意味がない。他社もそれだけでなく、そういうのもあるけど、それを使って種芋として事業をどうやるかを考えていると思うが、我々はもっとその先を行って、本当にキャッシュ創出力を大きくするための事業であり、事業に対する刺さりこみ方は何かを考えていかなければならない。 自分たちで事業をきちんと切り盛りできる分野は何かを探してくる。 原油の世界でオペレーターシップを張るのは容易ではないと思っているが、子会社のMOECO(三井石油開発)という事業体があって、そこのジオロジスト(地質学者)とエンジニアがいる中で、自分たちがどこまで事業の運転手として切り盛りできるのか。これを常に考えてほしいということは言っている。


ーー サハリンLNG、豪州の鉄鉱石で稼ぎ頭のローブリバーなどに匹敵する事業がインフラなど非資源の分野で10年、20年後にできるのがいいことではないか。

安永 そうだ。発電所一個一個は難しいが、IPPをバランスよく地域と燃料の種類によって資産として持って、それを固定化するのではなくて、逆に売り買いをしていく、というモデルが作れると一つの柱になると思う。モビリティの分野については鉄道事業とトラックリースに相応の投資をしている。それらをしっかり収益化するし、収益化できているところは、もっと強靭な収益基盤にするというの当座の目標になる。

 石油化学の川下や、BtoCでやれるものを徹底的に、検討、開発中の案件でいいものをよりよくしてやろうとしている。


ーー 食や農についてはどうか。

安永 ブラジルで投資した農業生産・穀物物流事業のマルチグレイン社をしっかりと立て直すというのが今期の一つの目標。過去、天候不順や大豆市況の低迷などがあったが、ようやく、組織体制も整ってきた。今年はかなり改善すると思っている。

 マルチグレイン以外の食料の分野でも、我々がもっと大きく張れる部分がないのかは探している。だからと言って高値づかみをしてはいけない。案件精査のプロセスにしっかり時間をかけて、コーポレート・ディベロップ本部の役割の一つとして、当社に規模感のある、収益基盤のないところでどういう案件をゲーム・チェンジャーとしての投資先を見つけ出すか、これはCD本部と食料・食品事業本部のミッションだ。


-- マルチグレイン社は何が難しかったのか。

安永 農業というのは、なかなかしんどく、灌漑とロジスティックス、倉庫、輸送手段というものをしっかりと我々が自分で確保していないとタイムリーな格好でマーケットに物を出せない。そこでVLIという(ヴァーレ子会社の)一般貨物輸送事業に入った。その一つの理由はブラジルの中の輸送手段の獲得。これがボトルネックなのでマルチグレインのカーゴだけを運ぶわけではないが、それをやることによって、内陸輸送の利便性を高めていくという面では相乗効果があると思っている。


ーー 貨物輸送では日銭も入る。

安永 そうですね。あと港湾。ブラジルは港湾のキャパシティが足りないので、鉄道の内陸輸送と港湾のキャパシティを押さえるのが今まさにやっていること。港湾拡張のプロジェクトも同時並行してやっていく。コンセッション(事業運営権)ももらっている。

 この様にやることはたくさんある。中計を見ればわかるが、いまパイプラインに入っているバルーンの案件の数と規模は結構しっかりしたものを持っている。これが立ち上がってくる17~18年くらいから相当強靭な収益力が付いて、そのフェーズが一つ上がるくらいだと思っている。(聞き手・構成=金山隆一・本誌編集長)