2015年

6月

23日

全文掲載 商社特集インタビュー 小林健 三菱商事社長 2015年6月23日号

こばやし けん

1949年生まれ。71年東京大学法学部卒業、三菱商事入社。船舶部に配属。船舶・交通・宇宙航空事業本部長、新産業金融事業グループCEOなどを経て、10年6月から現職。66歳

純利益トップで、堅実さが際立つ三菱商事。小林健社長に強さの秘密と資源、非資源投資の方針を聞いた。


◇資源は短期で判断しない


-- 2015年3月期の業績をどう見る。

小林 当初の予算、目標は達成したので、全体的にはよくできたと思う。ただ、15年3月期の後半から資源安になった。当社は資源と非資源の双方で事業を展開しているので、資源安で相当打たれて、減損を出した。この点は学習と反省をしないといけない。


 だが全体で言うと、「経営戦略2015」(13年5月発表)で目指したように、資源が不振の時は非資源でカバーするという方向は明確になっている。15年3月期は、資源のマイナス部分を非資源で補い、目標を達成した。会社全体の方向性は目論んだ通りにいっている。


-- 資源分野の減損は約900億円だ。

小林 資源価格が大幅に下がり、会計上、減損が必要となった。不採算部分は償却することが基本のため、後に残さないつもりで行った。

 他社もそうだが、減損したのは、資源バブルの頃に仕入れた案件が多い。投資すれば、誰でももうかる時代があった。そういう時に大量に投資して、そうじゃない時に何もしないのは……。資源ビジネスには継続的に取り組む。成果は10年、20年と長い目で見てやっていくことが大事だ。

 当社は、資源を全部売り払って、それ以外でやっていくタイプの会社ではない。資源と非資源でバランスのよいポートフォリオにする。計画としては、非資源を強くし、安定的に利益を生み出す体質にして、資源の回復を待つ。その意味では、計画通りにいっている。


-- 資源は短期で判断せずに10年、20年で見ると。

小林 そう。もっと大きく100年のレンジで見たら、資源は食料も含め、足りなくなることが目に見えている。資源の生産で、ものすごい技術革新があれば別だが、地球上で簡単に掘れる所はたいてい、手が着いている。新規の資源投資をこれ以上やろうとしたら、深い海底や、ツンドラの奥地などになって、よりコストがかかる。そのため今後の新規投資は、さらに見極めが大事だ。

 資源価格が低い時の資源投資は、新規投資よりも、既に投資した案件のコスト競争力を高めるための投資が主体になる。例えば、我々が世界で大きなシェアを持つ原料炭のシェア拡大のための投資だ。生産を拡大することで、コストを下げる。資源ビジネスは踊り場なので、こうした形で乗り切る。


-- 権益の売却など、資産の入れ替えはどうする。

小林 今は価格が低いので、権益の売却は難しい。幸い、価格が低い時に得た権益がずいぶんあるので、それらは着実にランニングで収益をあげていく。ただ、高く買ったものもあったので減損した。それが今の姿だ。純利益に占める資源と非資源の比率は、現在のおよそ3:7が良いところでは。


-- 16年3月期は、大きな減損を予定していないのか。

小林 していない。原油など資源の16年3月期の価格見通し、これは他社も大体一緒の数字を出していて、これらの価格が16年3月期も継続するという前提ならば。これらの価格がもう一段下がっても、大きな減損はないと思う。


◇非資源で3500億円稼ぎたい


-- 非資源分野はどうか。15年3月期は連結純利益が約3100億円で過去最高になった。

小林 減損処理したローソン株の戻し益を除いた約2500億円でも過去最高だ。「経営戦略2015」は、基礎利益(安定配当の基準となる連結純利益)を3500億円とし、配当もそれをベースにしているが、20年までに3500億円を非資源だけで稼げるようにしたい。資源相場に左右されず、基礎配当ができる体制にする。

 20年までの5年間で、あと1000億円積むとなると年200億円。非資源は5グループあるので、「1グループ当たり年40億円を稼いでくれ」と言っている。達成できる可能性は十分あると思う。


-- 新規投資はどうする。15年3月期は鮭マス養殖に約1500億円を投じて、ノルウェーの上場水産会社セルマックを買収したが。

小林 油・ガス・金属だけでなく、食料も資源と言える。食料資源にも手を打たないといけない。

 食料資源のうち、炭水化物資源については、グレイン(穀物)、小麦、大豆、トウモロコシで、それぞれに手を打った。全体的に、世界中から、成長するアジアに流れを持っていく。そういうバリューチェーンをつくる。これは炭水化物資源で、ある程度できた。

 タンパク資源については、(ターゲットとする)分野を決めた。人数に限りがあるので。動物性タンパク質では、豚肉の事業は手がけているが、牛肉など全般的に行うのは、なかなか難しい。動物性タンパク質で言うと、当社は昔から水産物に強い。

 そうした経緯もあり、タンパク資源として水産物に力を入れることにした。そのバリューチェーンをつくろうと、主にノルウェー政府が所有するセルマックを買収した。セルマックは、ノルウェー、カナダ、チリで養殖をしている。私は先週(5月25日の週)、ノルウェーへ行き、首相に会った。当社がセルマックを買って、きちんとやっていくと言い、非常に共感を得た。

 なぜ鮭マス養殖に力を入れるかというと、ナチュラルキャッチ(天然魚の捕獲)だけでは頭打ちで、需要を賄えず、養殖で補う必要があるから。鮭マス養殖をするには、水温や地形、潮流などの条件があって、地域が限定されるので、条件に適した養殖場を持つ会社をM&A(企業の合併・買収)でテイクオーバーする(引き継ぐ)のが早い。ノルウェーは国情が安定していて、セルマックは鮭養殖で世界的に高いシェアを持っているので、買った。ここで養殖した鮭マスをアジアに供給する形になると思う。


-- 今後の新規投資はどうか。

小林 16年3月期でいうと、基本的に新規投資は継続する。投資なくして成長はない。資源・非資源問わず。時期によって、バランスは異なるが。16年3月期は、資源価格が上がれば、もちろんチャンスがあると思うが、なかなか良いチャンスはないだろう。そのため、資源に目を向けるものの、基本的には非資源により大きな投資をしていく。


◇ローソンから鉱山まで


-- フリーキャッシュフローは、15年3月期に過去最高水準となった。なぜ高いのか。

小林 「中期経営計画2012」(10~12年度)の初期から、投資はするが、なるべく入れ替えでやっていく方針を出している。人間の供給力には限界がある。もちろんセルマックのようにM&Aするというのもあるが、基本的には当社の社員が方々(ほうぼう)に散って、事業投資先で経営する。

 すると何もかも手がけるわけにはいかないので、20年を見据え、競争力のある強い「コア」の部分に投資して伸ばすことにした。そうでない「ノンコア」の部分は売却するなど、入れ替えを進める。人間もしかりだ。原則として、投資を考える時は、それに見合う入れ替えを用意しろと言っている。これを全社でまとめ、投資のプライオリティ(優先順位)を決めることになっている。

 こういうことは、トップダウンで言わないとダメ。皆が入れ替えに精を出してくれた。当社は方向性が決まると、ちゃんとやってくれる。目論んだよりも、入れ替えが増えちゃって。株も売った。やればできる。入れ替えが進んだことなどで、フリーキャッシュフローは過去最高水準になった。

 総合商社は変わった。昔は「ラーメンからミサイルまで」を扱うトレーディングが主体だったが、今は「ローソンから石炭鉱山までの事業投資が主体。そのため社員が事業投資先に出て行って、経営することが増えている。となると、あれもこれもできない。

 しかも、従来はB to B(企業を顧客にするビジネス)だけだったが、今はB to C(消費者を顧客にするビジネス)に参入している。コンビニでは、単に店舗で物を売るのではなく、宅配や銀行振り込みも扱うようになった。そのうち介護もやるのではないか。このように生活に組み込まれていっている。当社からすると、従来は担当者が2~3人で組んで、例えばローソンなどに原料を供給して、薄い利幅でやっていた。それを経営するとなると、リスクも大きいし、そこで働いている人たち、グループ社員とも言える人たちの生活もかかっている。失敗したから、すぐに閉じるとか売るとかできない。社会的な責任もある。

 フリーキャッシュフローが増えたことはもちろん良いことだが、その増えたフリーキャッシュフローをどういうプライオリティで配分していくか。それが経営の課題だ。


-- これほどキャッシュ創出力が高いと、新規投資と株主還元の両方ができるのでは?

小林 経営では、「成長性」、D/Eレシオや格付けに表れる「財務の健全性」、ROE(株主資本利益率)に表れる「資本の効率性」の三つを追い求める。言わば、3次元連立方程式を解くようなものだ。

 いつも、全部の解がスパッと出るわけではない。経済は生き物だから。我々も成功したり失敗したりしている。経営では、この三つを、どういうプライオリティで、時代の環境に当てはめてやっていくかが大事。これは社員だけでなく、株主など社外のステークホルダー(利害関係者)にも納得してもらいながら、経営していく。

 資源・非資源は同居させる。非資源で基礎利益を稼ぎ、資源は優良案件を選んで投資していく。資源価格が回復すれば、その分だけオンザトップ(上乗せ)で利益が出るようにする。そうすれば、三つの方程式がうまく回る。


◇しばらくは我慢の時期


-- 純利益1兆円を目指す?

小林 今は資源価格が非常に低い。資源・非資源の両方を抱えて運営していくならば、しばらくは我慢の時期だ。そういう説明をステークホルダーにもしていかないといけない。もちろんROEが10%を超え、D/E(デット・エクイティ)レシオ(株主資本に対する負債の割合)が1倍を割り、収益が6000億円上がれば言うことはない。しかし環境はどうか。リーマン・ショック前の資源バブルの頃とは違う。リーマン・ショックで一度、世界経済が気絶し、やっと立ち直って、立ち直るときに資源安が来て、そこで悩んで、資本政策を考えている。

 ただ、日本の国にとって、資源安は良いことではないかと思う。当社にとっては辛いが。日本には食料も資源もない。幸い成長期に土台ができているので、この環境は悪くない。僕が「トリプルメリット」と呼んでいる「円安」「資源安」「ゼロ金利」。この三つが同時に来たのは、僕が入社して以来、初めてだ。入社した頃は1㌦=360円固定だった。当時の当社には為替予約課があって、バカじゃないかと思った。1㌦=369円になると日銀が介入して360円にしてくれたのだから、必要ない。それが円高になり、今は円安になった。

 ゼロ金利でいうと、僕は30歳過ぎに家を買った。金利8・9%、20年で住宅ローンを組んだので、(販売価格の)3倍くらい払うのだが、経済全体が成長していたので、それでも借りた方がいいと。今は(販売価格の)1・2倍くらい払えば、20年でペイアウトできるので、社員に「家を買え」と言っている。


-- 資源安とは言え、三菱商事は純利益トップでキャッシュ創出力も高い。強さの秘訣を何だと考える。

小林 商社は人であり、クオリティーが大切。一番大きいのはモチベーションだ。自分の仕事が会社や社会に役立っている、貢献しているという自負を持つ人のモチベーションは高い。こういう気持ちを多く持つクオリティーの高い社員を多く育てたいし、そう思える会社であることが大事だ。ROEが低くて、苦労してはいるのだが。

 商事会社には、人間とお金しかない。それをいかにうまく回すかだ。海外にも事業投資先にも人を回し、経験を積ませている。育て方は、そこそこちゃんとできていると思う。

 資源価格が去年の初めくらいのレベルに上がれば、純利益は大幅に増え、ROEも上昇するのだが、世の中、そううまくいかない。そういう時期だと、自分のモチベーションが大事だ。(聞き手・構成=中川美帆)