2015年

6月

23日

全文掲載 商社特集インタビュー 岡藤正広 伊藤忠商事社長 2015年6月23日号

おかふじ まさひろ

1949年生まれ。74年東京大学経済学部卒業、伊藤忠商事入社。繊維カンパニープレジデントなどを経て、2010年4月から現職。65歳

計画通りなら2016年3月期に三井物産を抜いて、純利益で2位に浮上する伊藤忠商事。「非資源商社ナンバーワン」を掲げ、巨額投資で大胆に市場を切り開こうとする岡藤正広社長に勝算を聞いた。


◇財閥系2社に挑む

-- 非資源分野の連結純利益は、2015年3月期に3172億円となった。

岡藤 三菱商事を、ほんの鼻の差で抜いて1位になった。社長就任1年目の11年3月期の752億円から4倍超に増えたので、我々のやってきたことは正しかったと思う。

 この間、資源が高騰して、皆、資源権益の争奪戦を繰り広げた。当社も全く手を出さないわけにはいかず、体力の範囲内で投資した。もちろん他社と同じく痛手を負ったが軽微だった。

-- 15年3月期の資源の減損は約950億円。

岡藤 このうちシェール開発関連の減損対象は、米石油開発会社サムソンの事業だ。同社にはシェールブームの11年に約780億円を投じ、減損兆候を認識するたびに損失を計上してゼロになった。追加投資には応じなかったので、損失が限定された。


 資源ブームの時は、弱い商社が強い商社に勝つチャンスがあると思いがちだが、それは逆。強い商社が勝つ。だから当社はこの5年間、強みのある生活消費関連から幅を広げ、非資源分野に着実に投資してきた。それが実ってきている。

 特に機械カンパニーの純利益は、11年3月期の103億円が、15年3月期は546億円に伸びた。以前の伊藤忠の機械というと、5大商社の中で周回遅れのビリで、機械をやっていることすら認知されていないほどだった。それが今や三菱商事、住友商事に次ぐ業界3位。もちろんまだ足腰は盤石ではないが。

 住宅生活・情報カンパニーの純利益も、11年3月期の60億円から15年3月期は790億へと、ものすごく拡大した。以前は分かれていた保険、金融、物流、建設を一緒にしたのも良い影響をもたらした。

 一つ一つの細かい判断が良かった。間違った判断が積み重なると、会社の成長が失われる。例えばシェールブーム。当時は「これからシェールが中心になり、在来型の石油はダメになる」と言われていた。だからシェール開発を強化する。この判断は、長い目で見れば正しいかもしれないが、途中、今回のようにサウジアラビアが石油を増産すると打撃を受ける。会社の経営は、長期的に見て良くても、ちょっとダメになったら、すぐ撤退するなど、細かく判断していくべき。誤ると致命的なことになる。正しい戦術の積み重ねが大事だ。


◇もうかっていても売る


-- 資源は今後、どうするのか。

岡藤 資源ビジネスは商社の仕事の一つなので、継続しないといけない。ただ、従来と違い、リスクの大きな開発案件が増えている。地域によっては法律も未整備で大変だ。でも商社は、こういうリスクに果敢にチャレンジして、乗り越えて、ここまで成長した。だから否定はできないが、ますます高度なマネジメントが要求されるようになっている。特に資源はそうだ。三菱商事や三井物産のように経験を積んだ会社でなければ、難しいのでは。当社のような3位以下の商社、非財閥系の商社ではリスクが大きい。違うやり方をしないといけない。


-- 資産の入れ替えは?

岡藤 経営努力で、継続してやらないといけない。やるべきことは、まだまだある。日常生活でも定期的に掃除をしないと、すぐにホコリがたまる。

 クギ・ネジで米国最大のプライムソース社を5月11日に売却した。米国の景気が過熱気味で、これ以上伸びないという印象があったからだ。この会社は数十億円で買って、1000億円で売れた。利益貢献は非常に大きく、米国の当社の利益の半分ほどを稼いでいた。このような会社でも、そろそろピークアウトするという時には、思い切って売ることが大切だ。

 華僑は(価格が)高い時に売って、キャッシュを持っておき、(価格が)下がった時に買う。でも商社など日本の上場企業は、それができない。売ったら、すぐに他を買う。なぜかというと、売ってキャッシュを持っていても、収益が減ると、上場企業は株主に対して、耐えられないから。だからすぐに買う。何をしているのだか分からない。

 そうではなく、余裕のある時に売って、キャッシュに換えておくべき。そして、例えば米国の景気が下降気味になって、良い案件が出たら買う。それが本来の経営だ。


◇中国の成長性にかける


-- 伊藤忠とタイ最大財閥CP(チャロン・ポカパン)グループは、中国最大の国有複合企業CITIC(中国中信集団)の中核子会社に出資した。伊藤忠の出資額は約6000億円に上る。

岡藤 連結利益がある程度読めるので、思い切った。非財閥系の伊藤忠が、財閥系の三菱商事、三井物産に挑戦するための一つのきっかけだ。

 大きなチャレンジだが、チャンスでもある。なぜかというと、当社は「非資源商社ナンバーワン」を標榜している。しかも生活消費関連が強み。生活消費関連のビジネスをするなら、中国を無視してはやっていけない。

 先日、銀座の三越に行ったら、中国人客が多かった。日本に来ている外国人で1番お金を使うのは中国人。中国人は自国の商品を信頼していない。日本の商品に憧れているので、日本に来て爆買いしている。だから、中国で中国の人を相手にビジネスをすると考えるのは自然なことだ。

 では、パートナーをどうするか。それがCITICだ。CITICと組むことにより、中国市場で、どれだけプラスになるか。3年後、5年後に判断される。


-- CP、CITICとは、中国でインターネット通販事業などを展開する予定。

岡藤 CITICは国有企業だから、国有財産を伊藤忠やCPに売ったことになる。ならば、中国国民の生活が良くなるビジネスから始めようというのが、我々の共通の目的だ。そこで、まずは日本の良い商品を中国の国民に届けるビジネスをしようというので、ネット通販事業を立ち上げる。

 もう一つ具体化している共同事業は、中国アパレル大手、波司登(ボシデン)との連携。伊藤忠がアジアの商標権や販売権を持つブランドを、波司登が中国全土に保有する約1万店で展開することを検討している。これらは第1、第2弾。第3弾、4弾もある。


-- 中国リスクをどう見る。

岡藤 リスクのない場所はない。中国はすぐ隣でアラが見えやすいので、リスク、リスクと言われている面がある。企業は、地球上のどこかで商売しないといけない。ではどこか。インドかアフリカか。中国は近いから、リスクがあっても、何かあった時に対応しやすい。僕はリスクよりも成長性を中国に感じて、やるという経営判断をした。可能性にかけた。


-- 出資額約6000億円という集中リスクもあるのでは。

岡藤 6000億円がゼロになるのなら集中リスクだが、そうではない。むしろ6000億円をいろいろな中国企業にバラバラに投資するよりも、まとまっているからマネジメントしやすい。しかも国営企業だ。

 CITICへの投資は、博打(ばくち)ではない。お金をキャッシュで持つか、優良資産という株で持つかの違いだけ。個人でも一緒。キャッシュで持っていても増えないが、株で持っていたら、今年だけで2割近く増えた。それに資源の投資などは、毀損する可能性があるが、これは株。しかもゼロになる株ではない。CITICのPBR(株価純資産倍率)は1倍を割っている。5年後の株価は2倍にはなる。取り込み利益は3年後に700億円だ。

 加えて、CITICの資産価値が上がる。最悪の場合、売ったらいい。国有企業で上場しているので、買いたい所はいくらでもある。今すぐに売りはしないが。このほか、CITICと組んで商売できるメリットもある。

 出資を発表した当初は、中国リスクのほか、CITICがどんな会社か分からないというわけで、マーケットが非常にネガティブに反応した。だが、徐々に理解されるようになってきている。


◇資源ブーム後の戦略がある


-- 18年3月期に純利益4000億円達成を目指している。

岡藤 目標を持つことは大事。各商社は資源ブームの後始末で、次の具体的な戦略が見えてこない。我々はその点、CITIC、CPと組むという新しい戦略の軸ができている。これは大きい。

 資産規模は、三井物産が当社の約1・5倍、三菱商事が約2倍と大きく違うが、まずは三井物産、次は三菱商事に挑戦する。順位が固定化していては、業界が活性化しない。


-- 16年3月期は、計画通りなら純利益で2位に浮上する。

岡藤 まだ2位と確定していないので、社員には油断するなと言っている。まずは予算を達成する。油価が上がるなどすれば、三井物産が上に行くかもしれない。それはそれで良い。逆に当社が予算を達成できず、負けるかもしれない。それはくやしい。純利益3300億円の計画を、どれだけ上ブレさせるかに集中する1年だ。「気持ちを引き締めよ」「その代わり、2位になったら余分に褒美を出す」と社員に言っている。

-- どれくらい上ブレしそう?

岡藤 分からないが、純利益3300億円の計画は、かなりコンサバ(保守的)に見ている。前提となる為替見通しも1㌦=115円で、他商社より円高じゃないかな。石炭、石油、鉄鉱石の値段も、他商社よりコンサバに見ている。既に今の実勢価格は、これを上回っている。だから、よほどのことがない限り達成できると思うが。伊藤忠は過去5年間、全部予算を達成している。これは見てほしい。


-- 株主還元については、どう考えているのか。

岡藤 これから1番大きなテーマになる。あまり大盤振る舞いすると後悔し、株主を裏切ることになる。経営者は自分が経営する時だけでなく、将来のことも考える。配当を減らすわけにはいかないから、よく考えてやらないと。でも中長期的に株主還元を増やすことは大事だ。

 ROE(株主資本利益率)は13%だから、他商社より高いのではないか。他商社は利益に比べ自己資本が大きいから、低くなるのだろう。だからと言って自社株買いをするのは、一時的には良いのだろうが、本来の目的から外れているのでは。分子を稼げないから、分母を少なくして、ROEを高めるというのはおかしい。本来の日本の株主はそうじゃなく、成長を長期的に見守って応援する。(資金を)成長に回し、成長することで株主還元するのが、本来の企業の姿だと思う。


-- 世界に良い投資先がないということでは。

岡藤 そう。だからこそ、CITIC、CPと組むことで、新しい可能性が開けた。組まなかったら、次はなかった。

 とは言え、一筋縄でいく相手ではない。CPは交渉相手をしょっちゅう変えるなどしてくるが、それらをうまく乗り切るのが交渉術。なんでも引き受けたら、えらいことになる。


◇果敢にチャレンジするのが商社


-- リーマン・ショック後で、成功した投資と失敗した投資はどれ?

岡藤 「失敗」と言うと、担当した人がかわいそう。「失敗」ではなく、「あまりうまくいってない」と言って。これからがある。1~2年目にダメでも、4年目に良くなった投資は、いくらでもある。ただ、どうやってもダメな投資もある。それを見極め、失敗をマネジメントし、乗り越えていくことが大切だ。

 サムソンに投資したのは、シェールブームの頃。皆が「シェール」と言っていた。当社のOBもシェールの記事が載った新聞の切り抜きを持って来て、「伊藤忠はやらないのか」と言ってきた。このシェールブームの中で、伊藤忠だけが頑なに「シェールは一切やらない」という選択肢はなかった。

「シェールに投資していなければよかった」とも言われるが、本当にそうなのか。たまたまサウジアラビアが減産しなかった。こんなの、誰が読めるか。経済学者でも分からない。だったら、やっぱり、やっておかないと。

 新しいビジネスを一切しなくなったら、縮小均衡する。従来の商売は、どんどんなくなっていくのだから、商社は新しい投資にチャレンジしないといけない。その投資は、2勝1敗ということもあるだろう。その中で、ちょっとでもプラスがあれば、成長につながる。マイナスだけを見て「失敗した」と言うべきではない。最終的に、どれだけ予算を達成して、右肩上がりになるかで判断したらいい。

 ただ、やはり当たれば、資源の方が(リターンは)大きい。怖いのは、会社全体がそういうマインドになってしまうこと。すごく大きい投資をしていると、小さい数字がバカらしくなる。大きくないと、相手にされないと思ってしまう。生活消費関連のビジネスは、そういった難しさもある。(聞き手・構成=中川美帆)