2015年

6月

30日

ASEAN経済共同体(AEC)期待と不安の発足:タイとインドネシア 「呉越同舟」の両大国=岩垂好彦

岩垂好彦(野村総合研究所グループマネージャー)


 ASEANに加盟する全10カ国が参加するASEAN経済共同体(AEC)は、総人口6億2500万人、名目国内総生産(GDP)2兆4000億ドルの巨大市場だ。年末の発足を控え、ASEANは一体的な生産拠点として、また市場としての期待が高まっている。日本企業はASEANで高い収益を上げている企業も少なくなく、重要性は増す。

 先進国の多い欧州連合(EU)は、加盟28カ国の人口は5億700万人にとどまるものの、名目GDPは17兆3600億ドルに上り、市場規模は桁違いだ。しかしまだ途上国が多いASEANは、人口も全体的に増加傾向で、2030年には7億人を突破する。産業も発展途上である。00年にわずか6000億ドルだった名目GDPは19年には3兆6000億ドルまで伸びると予想され、驚異的な成長が見込まれる。1人当たりGDPは3845ドルと成長余力が大きいのも魅力だ(数字は日本アセアンセンター。年次の注釈がない数字は13年)。

 しかし、そのような期待とは裏腹に、AECの行方は混沌(こんとん)としている。各国とも国内産業の保護や雇用の確保をしつつ、共同体としての一体的な成長も同時に目指さなければならない。

 ASEAN加盟国の産業は、多くの分野で同じようなレベルで競合しあっている。ASEAN域内が自由化されても、競争が激化するだけという見方もある。インドネシアの政府関係者から「投資を伴わない、単なる輸出強化の動きに対しては、国内産業のために保護主義的にならざるを得ない」と率直な声も聞こえてくる。

 さらに、AECの後には、ASEANに加えて日本、中国、インド、韓国など16カ国からなる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、またASEANからも4カ国が交渉に参加している環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が控えている。これらがすべて実現すると、ASEANを巡るヒト、モノ、カネの流れは大きく変わる可能性がある。

 人口規模がASEANの2倍もある中国やインドとの経済関係が深まる中で、ASEANは加盟国が一体となって、これらの大国に伍(ご)していく必要がある。その一方で、加盟国間での競争にも勝たなければならず、難しい問題に直面した各国の思惑が見え隠れする。


 ◇両大国それぞれの事情


 ASEANの成長のけん引役は、一つは製造業を中心に圧倒的な産業集積を有するタイ。もう一つは2億5000万人を超える人口を抱え、成長著しいインドネシアである。

 国境を接するASEANの後発加盟国を取り込み、輸出市場の拡大を図りたいタイに対し、人口、経済規模でともにASEANの4割と突出した存在になったインドネシアは警戒感を隠さない。昨年就任したジョコ大統領は、選挙期間中に「インドネシアをASEANの市場として使われたくない」と発言し、けん制した。中国、インドに囲まれ、世界市場で埋没しかねないという危機感から共闘せざるを得ない二つの大国だが、全面的に協力しあってASEANを引っ張っていこう、というだけの余力に満ちているわけではない。

 過去5年の間に、鉄鋼製品についてタイは7品目、インドネシアは5品目でアンチ・ダンピングの調査や、アンチ・ダンピング関税の課税措置を実施した。さらに、自国で定めた製品規格に適合していない製品を排除する「強制規格」を設定している。中国から大量の輸入があったためにとられた対抗措置ではあるが、同時にASEAN域内の貿易も阻害している。

 そのような保護主義的とも言える政策をとってはいるが、一方で産業の高付加価値化に向けた見通しは、ついているとは言い難い。両国とも一部の産業では明確な強みを持っているとしても、多くの分野ではまだ発展途上である。しかも、特に製造業については自国内の資本、技術だけで競争力を高めることは難しく、外国からの投資に依存せざるを得ない。このため、海外からの直接投資に対する優遇措置を強める動きがある。