2015年

7月

14日

ワシントンDC 2015年7月14日号

 ◇10年で3倍に増えた学生ローン 住宅ローンに次ぐ米国民の借金


秋山勇

(前伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)


 2016年大統領選挙のキャンペーン活動が熱を帯びてきた。民主党の大本命ヒラリー・クリントン氏は大規模な聴衆を集めた演説会を開始。共和党は前評判の高いジェブ・ブッシュ氏が満を持しての正式な出馬宣言をしたが、既に十数人の候補者が名乗りを上げるという大混戦の模様だ。これから候補者たちは、メディアや有権者が注視するなか、政治・経済・外交・社会問題など、幅広い分野に関するおのおののビジョンを発信しつつ、約1年半に及ぶ選挙戦を展開させる。

 米国経済の立て直しと雇用増加を最大の争点として行われた前回12年の大統領選から3年が経過し、米国の経済の回復基調は明らかになった。この状況が続くと仮定して、次期大統領選の争点になると考えられるのは、不平等是正や中間層の生活向上、より具体的には昨今社会問題化している「学生ローン」問題だ。

 学生ローンは過去10年間で約3倍に膨らみ、住宅ローン(約8兆1700億㌦)に次いで2番目に大きな米国民の借金となった。現在、その残高は約1兆2000億㌦と、自動車ローン(約1兆㌦)やクレジットカードローン(約7000億㌦)よりも多い。学生ローンを借りている人は、今や約4000万人。年代別では30歳未満と30歳代がおのおの約3分の1を占める。

 学生ローン急増の最大の原因は、授業料を含む教育費がインフレ率以上のペースで急騰していることによる。政府の支援拡充も、このスピードに追いつかない。多くの若者がやりくりしながら高学歴を目指すのもうなずける。米国では、教育水準が明確に社会人の報酬水準に影響しており、14年の高卒者平均給与(週給、中央値)は668㌦、大卒(学士)者は1101㌦だ。失業率の差も歴然としており、高卒者は6・0%、大卒者は3・5%となっている。


 ◇選挙前から議論白熱


 懸念されるのは、学生ローンの残高急上昇とともに返済不能や遅延が増加している点だ。学生ローンの延滞率は10%を超え、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードよりも高い。また、ローン借入額の少ない人ほどデフォルト(債務不履行)が多いという奇妙な傾向があり、該当するのは主に大学中退者と見られる。比較的低所得層の若者が学生ローンを借りて大学に入ったが、勉強についていけずドロップアウト。在学期間が短いためローン借入額は少ないものの、当初目指した学歴アップによる収入増は実現せず、借金だけが残り返済もままならない。

 こうなれば、教育を足掛かりに貧困から脱出するどころか、さらなる貧困に逆戻りするという悪循環に陥る。学生ローンの返済負担が重すぎて、卒業後も家庭を持てず、住宅や車を購入できない人も多い。

 誰でも夢を実現するチャンスがある社会の仕組みは米国の価値観そのものだが、そこでカギとなるのは教育というツール。これを有効に機能させるのは国の重要課題だ。現時点の主な民主党の大統領候補者は「Debt-Free College」(無償の大学)という概念に言及し、若者や中・低所得層の票の取り込みを目指している。

 他方、共和党側はこの考えに否定的で、例えばブッシュ氏はローンがかさむ前の段階で対策を講じるべく、高等教育の費用抑制策を提唱するなど、選挙前哨戦の段階から議論

が白熱。高等教育と学生ローン問題は個人の懐に直結するので、多くの米国民にとって関心の高い分野であろう。世界の優秀な頭脳を引きつけ、イノベーションを担う米国の教育システムに関わる問題でもあり、今から目が離せない。