2015年

7月

14日

特集:今が買い!株・投信 2015年7月14日号


 ◇日経平均株価に上昇余地 投信残高は初の100兆円超え


秋本裕子

(編集部)


 6月末、世界中にギリシャ・ショックの衝撃が走った。

 ギリシャの債務不履行(デフォルト)懸念を受け、日経平均株価は6月29日、今年最大の下げ幅になる前週末終値比596円安の2万109円まで下落。中国でも上海総合指数が同3・34%下落し、27日に発表した中国人民銀行による利下げ効果を打ち消した。株安は地球を一回りして、ニューヨーク株式市場でもダウ工業株30種平均が大幅反落し、同350・33㌦安の1万7596㌦と約5カ月ぶり安値をつけた。

 ギリシャの債務交渉決裂の危機に、中国株急落が追い打ちをかけ、市場ではギリシャ発の世界同時株安に対する警戒感が広がった。


 ◇日本株にはなお先高感


 ただ、その中にあっても日本株は底堅い動きを見せている。

 世界の株式市場が軒並み大幅下落に見舞われた29日から一転、翌30日から7月2日にかけては東京市場で買い戻しの動きが広がり、日経平均は3日続伸。世界の株価下落ドミノを押しとどめた形になった。りそな銀行の黒瀬浩一チーフ・マーケット・ストラテジストは、「そもそもギリシャ問題は日本にはほとんど関係ないと市場が冷静に判断した結果だ」と分析する。

 日経平均はここ数カ月、順調に推移してきた。5月28日に一時2万655円をつけた後、6月18日には1万9990円まで調整したが、ギリシャ問題がいったん落ち着きを見せた後の6月22日には再び上昇を始め、同24日にかけて2万952円まで上昇、ITバブル時の2万833円をついに抜いた。

29日の急落後、すぐに上昇に向かうあたりに今の日本株の堅調さが見える。

 その背景に何があるのか。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘・投資情報部長は、「日銀の上場投信(ETF)買いに加え、外国人投資家、特に短期売買のヘッジファンドが日本株を選んでいる」と話す。

 確かに、6月第4週(6月22~26日)に外国人投資家は現物株を1456億円買い越した(日本取引所グループの投資部門別売買状況、東証・大証合計)。5月下旬の上昇の背景にも、外国人の大きな買いがあった。

 こうした買いを支える理由の一つは、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の改善だ。確かに、日本経済には先行きに明るい兆しが見え始めた。

 7月1日に公表された日銀の短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが15と前回(3月)調査比で3ポイント上昇し、3四半期ぶりに改善した。

 また、6月11日公表の法人企業景気予測調査では、大企業全産業の景況感は足元の4~6月のマイナス1・2から、7~9月期にプラス10・6、10~12月期に同8・9と、年後半にかけてV字回復を予想している。

 内需も好調だ。昨年の消費増税で落ち込んでいた百貨店、スーパー、コンビニの売上高も、4月から前年比プラスに転じた。インバウンド(訪日外国人)需要のほか、賃上げや賞与増も勘案すると、個人消費は回復傾向が見込まれる。


 ◇押し目買いのチャンス


 さらに、バリュエーション面で見た割安感も日本株が選ばれる理由の一つだ。

 藤戸氏によると、日経平均がITバブルの2000年4月に2万833円をつけた際、日経平均の予想PER(株価収益率)はピーク時に307倍にもなったが、今回は6月24日時点で16・5倍。株価はITバブル時レベルまで回復する一方、業績との見合いで割高感がある水準までは至っていない。「今後、業績が上方修正されれば、株価の上値余地が台頭する」(藤戸氏)と市場で期待される理由だ。

 引き続き尾を引くギリシャ債務問題や米国の利上げ、中国経済の動向などの材料をめぐり、今後も日経平均株価で数百円から1000円程度の調整局面はあるだろう。だが、それがまさに、これまで売り越してきた個人投資家にとっては、押し目買いのチャンスとも言える。

 実際、個人投資家による買い拡大の兆しも見え始めた。ネット証券最大手のSBI証券の藤本誠之シニアマーケットアナリストは、「当社の売買注文状況を見ると、29日の日経平均の下落後も個人の買い越しが続いている。特に流動性が高い金融や自動車などの大型株に買いが向かっている」と説明する。

 日本株は円安・ドル高基調などを背景に先高期待が強く、市場にも「年末にかけて、日本株の上昇余地はまだ大きい」との見方が多い。それだけに、「短期の株価調整はむしろ絶好の買い場と見られ、下がったら買いたいと考える個人投資家をひきつけている」(藤本氏)という。今後、個人投資家の動きから目が離せない。


 ◇投信セミナーは盛況


 こうした日本株の上昇で、投資信託も「かつてない」(市場関係者)ほどの盛り上がりを見せている。

 6月25日夜、東京都内で開かれた三井住友アセットマネジメントの投信セミナー。聴衆はほぼ満席の約150人でほとんどが20~40歳代の投資初心者だ。同社は「初心者の投資への関心の高まりを感じている。50~70歳代の投資経験者だけでなく、投資家の間口を広げたい」と話す。

 投資信託協会によると、12年12月から始まったアベノミクス相場以降、投資信託の残高は64兆円(12年12月末)から102兆円(15年5月末)へと38兆円増加。個人金融資産に占める投信の割合は、12年12月の4%から6%近くへ上昇した。

 今年4月には、野村アセットマネジメントが組成した「日本企業価値向上ファンド(限定追加型)」が単一ファンドの当初設定額としては約2年ぶりに1000億円以上の資金を集めた。日経平均が2万円台で推移する中、これからどの金融商品を買うべきかを迷う個人資金の受け皿として、新規設定の日本株投信が選ばれた側面もありそうだ。

 一方で、投信残高の増加には、日銀による上場投信(ETF)の買い入れや株高・円安による運用益などが大きく寄与しているのも確かだ。

「投資家の買い余力はまだ大きく、個人資金が十分に入っているとは言えない」(日興アセットマネジメントの汐見拓哉・投信営業企画部長)との見方もある。裏を返せば、「今後の流入余地がまだ大きい」ということだ。

 実は、一般的に日経平均株価と日本株投信の資金流出入は逆相関の関係がある。日興アセットマネジメントによると、同社が設定・運用する日本株投信、特にインデックスファンドでは、「日経平均株価の上昇局面ではファンドを解約し、下落局面で買う」という傾向が明白だという。

 なぜか。日興アセットマネジメントの汐見氏は「日本人は、過去の日本株の下落経験やデフレマインドにより、今後の上昇を信じ切れていないのではないか。そのため、少し上がれば利益確定売りをする傾向にある」と分析する。

 ただ、今年度に入り、その傾向に変化の兆しも見られるという。株式投信(ETF除く)の純流出入額(〈設定額-解約額〉-分配金)は、13年に1兆6324億円の売り越し(解約超)、14年に741億円の売り越しで、解約による流出と分配金支払い額の合計が設定額を上回っていたが、今年は5月までの5カ月間で1兆4406億円の買い越し(流入超)になっている。

 同社の試算によると、投資家の投信保有期間は短期化傾向にあり、昨年は2・2年ほど。今年は少し長期化の兆しも見られるという。業界では今後の個人資金流入とその後の長期保有への期待が高まっている。


 ◇個人資金は投資に向かうか


 最近の各種調査を見ると、個人のリスク資産への投資意欲は少しずつ高まりつつあるようだ。

 日銀が6月29日に公表した資金循環統計によると、個人が持つ株式の残高は3月末で100・2兆円と、07年6月末(109兆7344億円)以来7年9カ月ぶりに100兆円を超えた。アベノミクス相場前の12年9月末と比べると45兆円強の増加だ。個人はこの間株式を売り越してはいるものの、株価上昇で保有残高が膨らんだ。

 投信もNISA(少額投資非課税制度)の導入などで、95・5兆円と4四半期連続で過去最高を更新。その結果、家計が持つ株式と投資信託の合計は195・7兆円と過去最高になった。

 とはいえ、日本では個人金融資産約1707・5兆円のうち、最も多いのは現金・預金(51・7%)、次が年金・保険(26%)で、株式・出資金は10・8%、投信は5・6%にすぎない(15年3月末)。一方、米国は株式・出資金が33・4%を占め、年金・保険が32・5%、投資信託が13・1%、現金・預金13・4%と続く(14年12月末時点、日銀資料)。

 今後の日本株の上昇や投信残高拡大のカギを握るのは、個人資金だ。例えば、個人資産に占める投信割合が10%になるために必要な資金はあと70兆円程度であり、「決して無理な金額ではない」(日興アセットマネジメントの汐見氏)。

 日本でも今後、個人が金融資産をさらにリスク資産に振り向ける動きが広がるのか。今年が転換点になる可能性もある。