2015年

7月

21日

経営者:編集長インタビュー 工藤英之 新生銀行社長 2015年7月21日号

 ◇他社と違う「ニッチ」な銀行

 新生銀行は、経営破綻した日本長期信用銀行を前身として、2000年に現在の行名に改称した。前任の当麻茂樹社長が今年3月に退任を発表、6月17日付で工藤英之氏が5代目社長に就いた。

── 新生銀行の特徴は。
工藤 似ているビジネスモデルの銀行がないのが当行です。グループ全体の従業員約5300人のうち、銀行本体は2000人ほどで、銀行業務をはじめとする多様な事業で収益を上げています。主な事業領域として、法人向けでは、企業が持つ事業を評価して融資する「プロジェクトファイナンス」や、不動産向けの融資に注力する一方、個人向けでは、投資信託の販売をはじめとする資産運用サービスや住宅ローン、「レイク」などのブランドを通じたコンシューマーファイナンス(消費者金融)を提供しています。

 2015年3月期決算は、連結当期純利益が678億円となり、当初予想を48億円ほど上回った。

── 業績を押し上げた主因は。
工藤 法人部門では、企業への投資や再生支援といった「プリンシパルトランザクションズ業務」が大きく伸長した分野です。昨今の株式市場や不動産市場の改善に後押しされました。例えば、上場前のベンチャー企業に株式を通じて投資する「プライベート・エクイティ投資」では、IPO(新規株式公開)直前の企業に対する投資案件がいくつかあります。また、企業が抱える債権の売買を通じて支援する「クレジットトレーディング」も高い収益性を誇る業務です。今期は、取引先の企業で、株式の公開や売却といった「エグジット」がいくつか成立しました。
 プロジェクトファイナンスもこれまでの取り組みが結実している分野です。再生可能エネルギーの固定価格買取制度により、「メガソーラー(大規模太陽光発電所)」に関連する融資需要が増えたことが背景にあります。融資は数十億円ほどが多く、メガバンクが積極的に手を出さない金額であるうえ、当社が手掛けてきた不動産ファイナンスと近い規模で、ノウハウを生かせる分野です。ただ、メガソーラーの市場は既にピークを迎えており、今後は、バイオマス(生物資源)や地熱、風力といった他のエネルギー関連需要も積極的に取り込んでいきたいと思います。

── 個人部門で好調な分野は。
工藤 コンシューマーファイナンスが、昨今の低金利下でも金利収入を確保している分野です。過払い金の問題もあり、市場の縮小が続いていましたが、この2年ほどで増加に転じてきました。特にレイクブランドは、この業界の大手として一定のシェアがあり、メガバンク傘下の競合先にも負けていません。16年3月期決算では、レイク、新生フィナンシャルの2ブランドで貸出残高が13%ほど増えると見込んでいます。
 レイクなど既存のブランドで期待できる顧客は限られるため、新たなブランドの立ち上げを検討しています。また、元々この事業が日本で伸びたのは高度成長期のころです。そこで、今後の成長が見込めるアジアでの展開も考えています。

 ◇香港で新銀行設立

── 今後どのように事業を拡大するのですか。
工藤 メガバンクのようにユニバーサル(全方位的)なサービスを展開するのではなく、ニッチな分野に注力します。今年は、個人の資産運用サービスを専門に扱う銀行として、「日本ウェルス銀行」を香港に設立しました。数百万円から数千万円ほどの資産を運用しようと考える日本人や現地の人を主な顧客層として、外国の債券や投資信託などの運用商品を扱い、きめ細かく提案していきます。海外では法人向けのサービスが中心のメガバンクと異なる事業です。
 もう一つ力を入れるのが、地銀と共同で行うビジネスです。不動産ファイナンスやプロジェクトファイナンスなどの案件を地銀に紹介し、融資に一緒に参加してもらいます。地銀が手掛けるコンシューマーファイナンスの保証業務もあります。

── 業界再編の見方は。
工藤 再編は今後さらに進むでしょうが、現時点で当行が関わるとは考えていません。可能性があるのは、個別の事業領域での提携でしょう。一方、海外では、ベトナム、インド、マレーシアの金融機関と業務提携しており、日本国内の企業に対して海外進出を支援しています。

── 金融とITを融合したサービスが「フィンテック」と呼ばれ、注目を集めています。
工藤 スマートフォンやインターネットを活用したサービスの拡充を検討しており、(フィンテック系企業の取り込みも)手段として考えています。当行の営業拠点は全国で35と少ないですが、インターネットによる事業拡大などの局面では、柔軟な対応を可能にする強みにもなります。
── 公的資金が約2000億円残っています。どう返済しますか。
工藤 収益力の向上、株主還元、公的資金返済のいずれにも偏ってはいけませんが、まずは返済の原資となる収益を稼ぐことが先決です。市場の評価を得るため、収益の質も重視します。来年度から始まる新たな中期経営計画の策定でも意識することです。さらに当局とも相談し、返済の方法やスケジュールを検討していきます。
(構成=藤沢 壮・編集部)


 ◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 旧第一勧業銀行で債券のトレーディング業務、米国留学を経て、本社の企画室に戻ったのが1998年。他社との業務提携が担当で、最後に担当した仕事が、みずほ銀行への経営統合でした。
Q 最近買ったもの
A 米オーディオメーカーのボーズのイヤホンを買いました。ノイズキャンセリング(騒音消去)機能付きです。
Q 休日の過ごし方
A じっとしているのが苦手で、担当業界だった流通の店舗などを見て回っています。「暗渠(あんきょ)巡り」のようなニッチな趣味もあります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ■人物略歴
 ◇くどう ひでゆき
大阪府出身。82年都立青山高校卒、87年東京大学法学部卒、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。2010年新生銀行常務執行役員、15年6月社長就任。51歳。