2015年

8月

04日

ワシントンDC 2015年8月4日特大号

◇放言が人気を呼ぶトランプ氏

◇悩まされる共和党


今村 卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)


 来年の大統領選で8年ぶりの政権奪還を目指す共和党は、目下の指名争いに目を覆いたいだろう。レースの序盤戦を盛り上げる道化師に過ぎないと思っていた不動産王ドナルド・トランプ氏が、メキシコ移民への差別的発言を繰り返して物議を醸しつつ、党内支持率が首位になったのだ。

 過去2回の大統領選で中南米系移民の支持がオバマ大統領に集中し勝因の一つとなったため、共和党はその取り込みを目指している。指名争いも7月初めまでは、夫人がメキシコ人のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事と、両親がキューバ系移民のマルコ・ルビオ上院議員が競う、共和党にとって望ましい展開だった。

 だが、それから半月もしないうちに情勢は一変。6月下旬まで党内人気が停滞していたトランプ氏が、メキシコ移民への差別的発言を繰り返して有力メディアの注目を集め、「共和党の顔」のようになってしまったのだ。しかも差別を指摘されても、撤回、謝罪するどころか、開き直って放言に拍車が掛かった。共和党内では危機感が強まっている。

◇保守派の不満を代弁


 トランプ氏と業務上の関係があった大手メディアのNBCユニバーサルや百貨店のメーシーズ、全米プロゴルフ協会などは、イメージ悪化を恐れてトランプ氏との関係断絶を決めた。人種差別は許さないという意思表明が第一だが、その迅速な動きからは、人口が増えた中南米系移民の消費者としての影響力が強まっていることも読み取れる。

 対して、共和党の対応は非常に慎重で遅く、「中南米系移民を大事にしなければ」という意思の強さが見えない。党内では、プリーバス共和党全国委員長がトランプ氏に発言のトーンダウンを求めたぐらいで、発言撤回や出馬取りやめを要求する声は強まらない。

 それは、共和党の重要な支持基盤である保守層の間で、トランプ氏の歯に衣きぬ着せぬ発言に共感する人が少なくないからだ。党内での人気も高まり、7月半ば発表の複数の世論調査では、トランプ氏の支持率がついに首位になった。彼の支持には、党内の中南米系移民の支持を取り込もうとする努力や、ブッシュ氏とルビオ氏を軸とした指名争いに対する保守派の不満も含まれる。トランプ氏が「共和党内で本流と自覚しながら不満を強めている保守層の代弁者」を自負し、自信を込めて放言を繰り返している節もある。そのため党内でトランプ氏に放言を止めさせる機運が高まらないのだ。

 共和党がトランプ氏に発言撤回を強く求めれば、同氏が反発して第3党から出馬しかねないとの懸念もある。個人資産90億㌦を持つトランプ氏なら十分可能だ。そうなれば、同氏と保守派の支持を奪い合う共和党候補が、民主党候補との選挙戦で不利になる。

 一方で党内には「無理にトランプ氏を追い込まなくても、発言が過激になりすぎて支持が減る」「トランプ氏には組織力がないから、長い指名争いを乗り切れず自滅する」との見方も多い。

 だが、トランプ氏の放言が早く終わらなければ、中南米系移民の支持取り込みという共和党の課題達成は難しくなる。8月6日には共和党の最初の討論会が2部構成で行われ、トランプ氏は支持率上位10人が出席する第1部に選ばれる可能性が高い。この討論会でもトランプ氏が放言を続ければ、中南米系移民の共和党への不信が拡大し、最終的に共和党の候補がブッシュ氏やルビオ氏になっても、支持が広がらない恐れが強まる。共和党が頭を抱える状態はしばらく続きそうだ。