2015年

7月

28日

特集:中国・ギリシャ 終わらぬ危機 2015年7月28日号  

チプラス首相(Bloomberg)
チプラス首相(Bloomberg)

◇目先の対応で問題解決は先送り

強まるリスクオフに揺れる市場


市川 信幸

(EY総合研究所チーフエコノミスト)


 7月初め、中国の景気減速とギリシャ財政危機への警戒感が高まり、世界の株式市場が乱高下した。

 中国の代表的な株価指数である上海総合指数は、6月12日に直近のピーク(5166)を付けた後、3割超も下落。この間、直近のピークに比べ日経平均株価が5%超の下落、ニューヨーク市場のダウ工業株30種平均も3%超の下落となった。先行きの不確実性が高まるなか、投資家のリスクオフ(リスク回避)姿勢が強まり、世界の金融市場を揺るがした。

 その後、中国では、なりふり構わぬ株価下支え策が、とりあえず功を奏する形となり、7月中旬時点で株価は小康状態にある。ギリシャは7月13日に欧州連合(EU)との金融支援交渉再開につき条件付きで合意し、デフォルト(債務不履行)が回避され、ユーロ圏離脱はひとまず遠のいた。

 また、中国経済やギリシャ問題を見極めるため、米国の利上げは9月から12月にずれるとの見方が広がっている。後ずれは、新興国からの短期資本の流出や新興国の通貨安・株安が遠のいたことを意味する。

 中国・ギリシャ・米国という三つの不確実性が同時期に薄らいだため、国際金融市場を巡るリスクは、一旦、後退したように見える。

 だが、その先行きは、依然として不透明感が強い。国際金融市場で、極端なリスクオフの姿勢が再び強まれば、7月初めに起きた中国株下落、原油安、米国景気・株価の下押しの相互連関が復活する恐れがある。

中国の不安定さ顕在化


 中国とギリシャに共通するのは、目先の対策で、リスクの発現を先送りしたに過ぎないということだ。

 中国景気は想定以上に減速している。1~3月期に続き、4~6月期の実質成長率も前年同期比7・0%と、何とか政府の15年目標(プラス7・0%程度)を確保したに過ぎない。中国の株価急落は、資産価格の下落を通じて、個人消費に大きな悪影響を及ぼしたほか、企業の増資を難しくして、投資活動を抑制した。消費や投資の減少は、景気を一段と減速させ、株価のさらなる下落圧力として作用。周辺国から中国への輸出減少や、世界的な資源価格の下落をもたらした。

 中国政府は「株安が続けば社会が不安定になりかねない」と下支え策を矢継ぎ早に実施。証券大手21社に1200億元(約2兆4000億円)以上を株式市場に投入するよう要請するとか、株式の需給悪化を避けるためにIPO(新規株式公開)を制限するなど、異例の施策も含まれる。それでも十分な効果を発揮できなかったため、公安当局による空売りの取り締まりや、政府系金融機関による株式購入など、市場への介入をあからさまに強めた。これは「市場に決定的な役割を果たさせる」という習近平政権の原則に反するため、市場が嫌気しているのは間違いない。中国社会の不安定さを浮かび上がらせ、海外投資家の信用も失った。

 また、自社の株価下落を避けるため、上場企業の約6割が自社株の取引停止手続きをしており、こうした企業の取引が再開されると、株価が小康を保つことができない恐れもある。中国経済の減速が明らかになっていくなかで、株価の下支え策が通用するのかという疑問も残る。しかも国内では、鉄鋼など製造業の過剰生産を解消できていない。不動産価格も低迷している(30~33㌻参照)。世界第2位の経済大国のこの有り様は、世界経済に悪影響を及ぼすリスクを抱えたままだ。


ギリシャ危機は続く


 目先の対応でお茶を濁したのは、ギリシャも同じだ。EUとギリシャが金融支援交渉を再開するとの合意が7月13日に成立した。条件は、EUが示した財政改革法案をギリシャが15日までに議会で可決すること(緊縮案の法制化)であり、結局、16日未明に賛成多数で可決された。

 だが、今後も、①ギリシャの銀行に対する資金支援(緊急流動性支援〈ELA〉の増額)に関する合意や、②欧州中央銀行(ECB)保有国債の償還に必要な財源の確保(つなぎ融資の合意)などが喫緊の課題になっており、チプラス政権にとっては、時間との闘いが続く。

 また、7月5日の国民投票で「緊縮策の受け入れ反対」の意思を示した国民の理解を得ていくためにも、チプラス政権は、EU側から明らかな債務負担軽減策を勝ち取る必要がある。チプラス政権は債務の元本削減を実現したいところだが、EU条約で財政補填(ほてん)はできないので、返済期間の延長や利払い負担の軽減といった対応をとる可能性が高い。このような時間との闘いを制しつつ、元本削減に期待する国民を、それ以外の負担軽減策で納得させることは、非常に難しい。

 さらに、今回の金融支援再開に当たって、ギリシャは事実上、EUなど債権団の監視下に置かれるだろう。ギリシャは過去2回にわたって国際的な金融支援を受けており、その見返りとして経済・財政の改革実行を公約してきた。にもかかわらず、その公約を順守できず財政再建に失敗したため、今後は、国有財産の売却や公務員の削減といった施策を本当に実行するか、債権団が監視することになる。緊縮策の下では、経済成長の展望を見いだせないのが現実で、ギリシャが債権団の監視に耐えられるかは大いに疑問であり、今後のリスクとして要注意だろう。

 EUに亀裂が走るリスクもある。今回のギリシャ対策を議論する過程で、ドイツと他のEU加盟国との考え方の違いが鮮明になった。南欧諸国に無理な緊縮を迫るEUへの反発も強まっている。反EUを掲げる政党は各国で勢力を拡大している。


原油安も重しに


 中国とギリシャの情勢は、米利上げ環境の変化を招きかねない。金融市場では、「米国の年内利上げ開始をおおむね織り込んでいるため、年内に利上げが始まっても、新興国から新たに短期資本が流出することはない」という見方がある。しかし、利上げ開始後の金利上昇ペースに関して、米国の政策当局者の想定(おおむね年1%ずつ)は、市場の平均的な想定よりも、やや急のようだ。そのため、実際に利上げのペースが市場の想定よりも速いことが判明した場合、新興国から新たに短期資本が流出し、新興国通貨の減価や株安が生じることも考えられる。

 もう一つ見逃せないのは、リーマン・ショック後の金融緩和局面で、新興国の多くが債券発行などを通じて、多額のドル建て債務を抱え込んでしまったことだ。米国の利上げ開始に伴って、ドル高やドル建て金利の上昇が起きると、新興国の債務負担が高まり、債務危機に陥る恐れがある。ただ、中国やギリシャを巡る不透明感が強いため、利上げ開始を9月ではなく、12月まで後ずれさせるのではないかとの見方が強まっており、そういう意味では、リスクは一旦、遠のいたと言えるかもしれない。なお、利上げ開始時期について米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は、7月15日の議会証言で、再度「年内が適切」との判断を示す一方で、「国際情勢に配慮する必要がある」とも強調した。不透明な世界経済の先行きを見極めるため、結果として、利上げ開始を12月まで待つことになる公算が高いと言えそうだ。

 一方で、利上げに伴う不確実性に代わり、このところ一段と注意を要するようになった「米国発の世界的リスク」がある。中国の景気減速を反映して、原油価格が再び下落傾向に転じたことだ。原油安は米国において、エネルギー産業の投資減少をもたらすほか、エネルギー関連銘柄の比重の大きさから、株価指数の下落につながりやすい。こうした形で米国の景気が悪化し株価が下落すると、それが世界の景気や株価、原油価格の重しになってしまうという悪循環に陥ることが懸念される。


世界のリスクが連関


 このように国際金融市場は、中国・ギリシャ、そして米国という三つの不確実性に伴い、リスクが顕在化しやすい不安定な状態にある。いずれ極端なリスクオフの姿勢が再び強まる可能性もあり、その場合、中国株下落、原油安、米国景気・株価の下押しといった相互連関が復活することも十分に考えられる。問題の本質は、そうしたリスクが相互に連関して、増幅し合う場合には、世界経済への悪影響がどんどん累積されていってしまうということだ。

 再び世界的なリスクオフの姿勢が強まれば、安全資産としての円や日本国債に対する需要が高まり、円高および円建て長期金利の低下といった動きにつながりやすい。加えて、原油価格の一段の下落などを背景に、米国の景気や株価の軟化が鮮明になった場合、米国の利上げが遠のくとの見方から、円が対ドルでより明確に反発する可能性もあり、この点にも注意が必要だ。