2015年

8月

04日

特集:アベで動く株と政治 2015年8月4日特大号

◇バブル前相場の再来?

◇中曽根時代に酷似する安倍政権


平川昇二

(岡三証券チーフエクイティストラテジスト)


 「三本の矢」に象徴される経済政策「アベノミクス」を提唱し、日本経済・株価を回復に導いた安倍晋三政権。金融緩和や拡張的な財政政策、公的資金の運用見直しなどを次々に繰り出すが、その政策を過去の政権と比較してみると、実は中曽根康弘政権(1982年11月~87年11月)と驚くほど似ていることが分かる。また、原油価格の下落という外部環境の変化も当時と酷似し、偶然の要素も手伝って景気を下支えしている。

 日経平均株価の連騰ぶりまで酷似している。日経平均株価は今年5月、12日連続で上昇したが、88年2月の13日連続以来、27年ぶりの出来事だった。そして、中曽根政権下の86年3月にも12日連続上昇している(図1)。長期安定政権と景気刺激的な金融・財政政策は、株価にとって好影響を及ぼすことは間違いない。


◇日銀への強い圧力


 中曽根政権と安倍政権の類似点の第一は、金融緩和と膨大な流動性の創出である。高度成長時代からの転換期に成立した中曽根政権は、(1)70年代の2度のオイルショックに伴う景気の悪化、(2)オイルショック後の不況対策などによる財政赤字の急増、(3)対米貿易黒字の膨張──という課題を抱えていた。これらに対処するため、国鉄の分割民営化など「民間活力」の導入を推し進めるが、より大きなうねりとなって日本経済をのみ込んだのは外圧であった。

 その発端となったのは、85年9月のプラザ合意である。双子の赤字を抱える米国が、ドル高の是正を目的に為替面で世界的な協調政策として合意したが、その後に急速な円高が進行した。悪影響を恐れる政権の強い圧力を受け、日銀は86年1月~87年2月、5回にわたって公定歩合を引き下げ、その後も87年10月のブラックマンデー(ニューヨーク株式市場の暴落に端を発した世界同時株安)による株価下落や、88年の米利上げによる円高などに対応するため、公定歩合を89年5月まで当時としては過去最低の2・5%に維持し、バブルに至る株高を演出した。

 図2は公定歩合(2006年以降は「基準割引率および基準貸付利率」)とベースマネー(現金+中央銀行預け金)、マネーストック(市中に出回る通貨総量、M2)の伸び率である。80年代と現在では、銀行の信用創造機能(貸し出しによる通貨総量の変化)が異なるためにマネーストックの伸び率には差があるが、安倍政権下では日銀の異次元緩和によってベースマネー自体が大きく伸びており、流動性の拡大が株高、景気好転に貢献した構図は同じである。

 加えてアベノミクス同様、中曽根政権下でも積極的な財政政策を採用し、87年度には大型補正予算を計上したことで、補正後予算は前年度比8・2%も拡大した。また、当時の米国は為替安定、円高防止を訴える日本に対して内需拡大を要求し、中曽根首相はこれに同意。86年4月には金融自由化など経済構造改革を訴えた「前川リポート」が発表されている。アベノミクスの三本目の矢の成長戦略に該当するかもしれない。

 第二は、公的資金の運用見直しである。安倍政権は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など公的年金の基本ポートフォリオ(資産配分比率)を見直したが、中曽根政権下でも「より効率的な運用」を求めて公的年金、郵便貯金が自主運用を始めていた。図3は80年代以降の銀行(信託銀行含む)の3市場(東京、大阪、名古屋)での株式売買動向と、株式市場全体に占める保有比率を示しているが、87年以降の買い越し額の拡大は、信託銀行などを通した公的年金、郵便貯金が株式を買い始めた結果である。00年代以降は持ち合い解消のため売り越しとなっていたが、14年にはGPIFなどの買いもあり買い越しに転じている。

 第三は、原油安という外部環境の変化による企業の利益率向上だ。原油価格は昨年半ばまでの1バレル=約100ドルから、今年に入り一時、50ドルを割り込む水準に下落したが、中曽根政権下でも86年の逆オイルショックによって30ドル前後の高値から15ドル前後へ半値に下落した。このような局面では、原油の輸入価格が下落するため、交易条件(輸出物価÷輸入物価)と設備稼働率が同時に好転することとなる(図4)。

 中曽根政権下ではプラザ合意後の円高も加わって、原油安による原価低減効果がフルに寄与し、企業の収益性(売上高粗利益率)が大きく上昇した。安倍政権下では、いまだ80年代前半のような円安局面であるため、原油安による原価低減効果が十分に寄与していない。しかし今後、米国のドル高への不満や日本のインフレ率上昇などを契機に、円安から円高傾向に転換する可能性もある。その場合、中曽根政権下のように売上高粗利益率が好転し、株価の押し上げ要因となることが期待できる。


◇売上税と消費税


 こうしてみると、アベノミクスの三本の矢は、中曽根政権時の政策を周到に学んだうえで、それを忠実に再現しているようにも感じられる。中曽根政権は景気の拡大や株高による世論の支持を背景に、レーガン米大統領(当時)と信頼関係を築いて日米同盟の強化を進めた。その一方、金融引き締めの遅れが、その後のバブル経済の崩壊と長期にわたる停滞も招いた。そして、中曽根政権の退陣を決定的にしたのが、売上税の導入失敗である。

 安倍政権は今、安保法制の採決を巡って支持率急落に直面しており、支持率を回復させるためにも経済政策運営に力を注いでくるであろう。そして、安倍政権も17年4月に消費税の再引き上げ(8→10%)を控えており、その対応が政権の命運を握ることになるかもしれない。また、日銀が強力に推し進める異次元緩和も、景気の失速とバブルの懸念のはざまで、今後は一層難しい政策運営を迫られることになる。