2015年

8月

04日

特集:アベで動く株と政治 2015年8月4日特大号

◇政治と株の戦後史

◇河本、竹下、小坂…「政治銘柄」今は昔に


杉村富生

(経済評論家)


 バブル経済崩壊前には政治家が売買に介入し、株価を動かしたり、選挙など政局の節目に値動きがある「政治銘柄」があった。選挙が近くなると「思惑」で市場が動き、株価が上がった。

 政治銘柄といえばまず思い浮かぶのが、自民党の有力政治家、故・河本敏夫氏がオーナーだった海運会社「三光汽船」だ。三木派に属していた河本氏は、三光汽船の巨大な資金力で派閥を支える実力者だった。三木内閣の通産相時代には、自社株の操作疑惑で野党の追及を受けたこともある。1985年、三光汽船の会社更生法適用申請を受け、特命担当相を辞任。最小派閥でもあり、以後、政局の主導権を握る機会は遠のく。

 かつて、政治銘柄の代表格とされたのが、青木建設株だった。故・竹下登元首相との親密な関係から、同社は一時期「竹下銘柄」とささやかれたこともあった。

 大蔵官僚出身の同社の故・青木宏悦元社長は、竹下氏の官房副長官時代に官房長官秘書官を務めた。閣僚資産公開で竹下氏は、青木建設株1万6000余株の所有を明らかにしていた。

 このほか、運輸相や経済企画庁長官などを歴任した元衆院議員の故・小坂徳三郎氏が社長や会長などを務めた信越化学工業、近年では、生活の党共同代表の小沢一郎氏との関係が深かった建設会社「福田組」も政治銘柄といえる。

 85年3月には、故・田中角栄元首相が入院したことで、青木建設のほか、田中派内で竹下氏が結成したグループ「創政会」に関連が深いといわれた三井金属、住友金属鉱山が急騰したこともあった。しかし今、政治銘柄はすっかりタブーになった。例えば麻生太郎副総理兼財務相の「麻生グループ」関連のコンクリート施工会社「麻生フオームクリート」は、麻生氏の動向によって市場心理で株価の値動きがあるものの、本人や周辺が政治資金づくりのために仕掛けているわけではない。

 政治資金規正法が厳しくなり、マスコミを中心に世論の「政治とカネ」に対する嫌悪感が強いことが、政治銘柄が消えた要因になっているだろう。「失われた25年」で株価が低迷し、利益を出せなかったことも大きい。


◇利益供与で有罪


 バブル崩壊前の政治と株の関係を一言で表現すると、戦後の総決算相場だ。50年7月12日に日経平均株価は85円の安値をつけた。そこから89年12月29日の3万8915円まで、458倍。戦後焼け野原の中から、復興し、高度成長に入り、日本の成長を反映する相場が展開された。

 この間は、株式投資にのめり込む政治家も多かった。上げ相場で簡単に稼げたため、政治資金の「出所」になっていた。

 日本の株式市場の透明性が高まったのは、バブルが崩壊し、自民党衆院議員だった故・新井将敬氏らに不正な利益を供与したとして、日興証券の元役員が証券取引法違反(利益追加・損失補填(ほてん))や商法違反(利益供与)で有罪判決を受けた利益供与事件の後だ。

 安倍晋三政権は久しぶりに登場した本格政権だ。首相が1年で交代しては、長期的な視点は持てない。89年のリクルート選挙以来、度々起きた衆参ねじれはようやく解消され、円高も是正された。

 アベノミクスによる日本経済の再生は、ここから加速していくと思う。そういう意味では、アベノミクスの成長戦略で挙げられた分野は「政治銘柄」といえるかもしれない。