2015年

8月

04日

特集:「庶民」にも相続税 2015年8月4日特大号

◇課税対象者は倍増

◇一戸建ては郊外も


酒井雅浩

(編集部)


 2013年に行われた税制改正で、相続税は今年から「二重」に課税強化された。まず、最高税率の引き上げ。改正前は相続財産が3億円を超えると、一律50%が最高だった税率が、今年から「6億円超は55%」に引き上げられた。富裕層には影響が大きい。一方、課税対象者が増える原因となるのは、税金がかからない「基礎控除額」の縮小だ。

 相続税は、亡くなった人の土地、家屋、預貯金、株などすべての資産から、借金などの債務と葬儀費用を引いた金額のうち、基礎控除額を超えた分に課税される。これまで相続税がかかる人は「お金持ち」というイメージが強かったのは、基礎控除額が大きかったからだ。

◇基礎控除減と路線価上昇


 改正前の基礎控除額は、「5000万円+1000万円×法定相続人数」だった。それが1月から「3000万円+600万円×法定相続人数」となり、4割も少なくなった(表)。例えば子2人が相続する場合であれば、改正前は7000万円まで相続税がかからなかったのに、改正で4200万円超から課税対象となる(図)。

 このため、「預貯金は少ないし、自宅の地価も高くないので相続税はかからない」と思っていた人も、今年から相続税の対象になる、というケースが多く発生しそうだ。特に都心から少し離れた住宅地に住んでいる場合に要注意。相続税がかかる、かからないの境目になりがちだからだ。

 加えて、相続税の算定基準となる路線価が、都心で上昇傾向にあり、課税対象が広がっている。

 国税庁が7月1日に公表した今年の路線価は、全国約33万地点の標準宅地の平均変動率が前年比0・4%下落し、7年連続の下落となった。一方、東京(前年比2・1%上昇)、神奈川(同0・6%上昇)、埼玉(同0・1%上昇)、千葉(同0・3%上昇)の首都圏と、大阪(同0・5%上昇)、愛知(同1・0%上昇)は上昇した。背景には、景気の回復や、円安の影響を受けた外国人投資家による不動産取得の増加などがある。

 相続案件の取り扱い実績で国内最大手の税理士法人レガシィ(東京・千代田区)は、07年7月~13年5月に扱った相続税申告案件から作成したモデルケース(94ページ)を基に、今年の相続税を試算した。

 自宅用の「居住用宅地」の場合、親との同居を条件に評価額を最大8割減とすることができる「小規模宅地の特例」と、1億6000万円か配偶者の法定相続分(遺産の2分の1)相当額のいずれか大きい金額までは税金がかからない「配偶者控除」の適用がない場合、路線価が12万5000~29万5000円の地点で、新たに相続税がかかる見込みとなった。


◇人ごとではない


 94~97ページでは、今年の路線価からレガシィが試算した新たに相続税の課税対象になる代表的な駅を示した。都心だけでなく、郊外にまで範囲が広がっている。例えば、JR立川駅(東京都立川市)近くの住宅地ではこれまではかからなかったのに、今年から297万円の「増税」となる。人口動態調査で13年の人口減少が全国の市町村で最多となった神奈川県横須賀市では、JR横須賀駅周辺で路線価が前年比3・6%下落したにもかかわらず、今年から新たに20万円の課税となる。首都圏以外も同様で、弁天町駅(大阪市港区)、大曽根(おおぞね)駅(名古屋市東区)、姪浜(めいのはま)駅(福岡市西区)など、都心から比較的離れた駅でも課税されることになる。

 国税庁によると、全国で亡くなった人のうち、相続税の対象者はわずか4・3%(2013年)だった。レガシィによると、2010年に東京都内で相続税を納めたのは9・0%だったが、改正後は18・9%と倍以上になるとみられる。小規模宅地の特例や、配偶者控除を適用すると相続税はかからないものの、税務署への申告は必要なケースも31・4%となり、10年の16・5%から大きく増える。東京では税務申告が必要な割合は50・3%と半数を超える。多くの人にとって相続税はもはや人ごとではない。