2015年

8月

04日

緊急特集:東芝「不正会計」の呪縛 2015年8月4日特大号

Bloomberg
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◇無謀な「チャレンジ」

◇利益水増しを不可避にしたWH買収とリーマン・ショック

 

浜條元保、桐山友一、中川美帆、谷口健、丸山仁見

(編集部)


 創業140年の名門企業の歴代トップが不正な利益水増しを強行してまで、守ろうとしたものは、いったい何だったのか──。

 組織的な利益水増しの不正会計の責任をとって東芝は7月21日、田中久雄社長と佐々木則夫副会長、西田厚聡相談役の歴代3社長が同日付で辞任すると発表。東芝で発覚した会計不祥事は田中、佐々木両氏を含めた取締役8人と西田相談役の計9人が引責辞任に追い込まれるという異例の事態に発展した。

 第三者委員会の報告書によると、2009年3月期から14年4~12月に水増しした利益の合計は1518億円(税引き前ベース、東芝の自主調査分を含むと1562億円)に上る。不正に関与した疑いがあると4月に公表したインフラだけでなく、半導体やパソコン、テレビなど、主要分野のほぼすべてに及んだ。

 日本を代表する名門企業で、なぜ、長年にわたり不正会計が続いたのか。

◇分岐点だった09年3月期


「東芝の不正会計の原点は、2006年に買収した米原子力大手ウェスチングハウス(WH)にさかのぼる」──。複数の会計士や証券アナリストが、こう指摘する。

 54億ドル、買収時の為替レートで約6600億円という巨額の資金をつぎ込んだ東芝のWH買収は、半導体に続く新たな収益源として西田社長(当時)による乾坤一擲(けんこんいってき)の投資だった(その後株買い増しで投資総額は約7800億円)。

 しかし結果的に、これが高値づかみとなり、バランスシート(貸借対照表)に計上されたのれん代(買収価格-時価)4000億円が、その後の東芝の大きな重荷となる。

 この直後から東芝への逆風が強まる。

 07年8月、仏大手金融BNPパリバ傘下のファンドの解約凍結を発表。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)関連の金融商品の買い手がつかず、解約に対応するための現金化が困難になった「パリバ・ショック」が起きた。

 世界的なリスクオフの流れから円高が進み、東芝が保有するWHはじめ外貨建て資産の円換算価格が大きく減少して、自己資本をむしばむ。08年3月期、東芝の自己資本に含まれている外貨換算調整額(外貨建て資産の円換算調整額)の赤字などが1176億円に膨らみ、自己資本を860億円目減りさせた。

 東芝は、同期に銀座東芝ビル売却に伴う1300億円の特別利益がなければ、当期利益が半減し、自己資本はさらに減少していた可能性がある。ライバル日立製作所と比べて脆弱(ぜいじゃく)な財務体質にもかかわらず、巨額の投資を行ったつけを資産売却で補った。

 だが、売却できる資産は無尽蔵にはない。そして、翌08年9月のリーマン・ショックが東芝を襲った。

 この影響を受け東芝の09年3月期は3435億円の最終赤字に転落。さらに急激な円高に伴う外貨建て資産の含み損が急増し、外貨換算調整額の赤字額が2228億円に急増した。

 その結果、09年3月末の自己資本は1年前の08年3月期と比べて約6割も目減りし、4473億円まで減少。自己資本比率はわずか8%である。世界的に事業展開する大手製造業としては、極めて脆弱な財務基盤だ。

 ある会計士は「09年3月期が東芝にとって、大きな分岐点だった」と、次のように語る。

「本業悪化に伴う3435億円の巨額赤字の計上と、円高に伴うWHなど海外外貨建て資産額の赤字急拡大から自己資本急減を深刻に受け止め、この時、負の遺産を一掃すべきだった。つまり、WHの過大なのれん代の減損と将来収益見通しの下方修正に伴う繰り延べ税金資産の取り崩しだ」

 WHの減損については、11年3月の東日本大震災による内外の原発事業計画の見直し機運の高まりにもかかわらず、減損はいまだに実施されていない。


◇09年6月の増資


 また、将来一定の収益計上を前提に自己資本に算入できる繰り延べ税金資産(税効果資本)は、将来収益計画を保守的に見直すことで、取り崩さなければならない。東芝は、この見直しもせずに4000億円前後の巨額の繰り延べ税金資産の計上を強行した。要するに、架空の資本を計上し続けたということだ。その前提は高い収益目標の必達だった。

 仮に、09年3月期にWHののれん代の減損や繰り延べ税金資産の取り崩しを実施していれば、債務超過の可能性もあった。証券アナリストは「09年6月に公募増資2863億円、第三者割当増資328億円を強行したことから、09年3月期に過去の膿(うみ)を出し切る抜本的な財務の立て直しという選択肢は、東芝首脳陣の頭にはなかったのだろう。債務超過では増資は不可能だからだ」という。

 06年のWH買収という過大な投資とその後ののれん代の負担、そしてリーマン・ショックと「3・11」という未曾有の危機が東芝を襲った。いずれも将来収益の根本から見直しが不可欠だった大事件である。しかし、そんな大事件を無視した強気の収益計画を前提とした繰り延べ税金資産を東芝は抱え込んだまま不正会計に突き進んでいった。脆弱な財務基盤にもかかわらず、身の丈を超えた巨額の投資と高い収益計画を前提としていた東芝歴代トップには、09年3月期以降の無謀な「チャレンジ」による利益水増しは必然だったといえる。

◇分岐点だった09年3月期


「東芝の不正会計の原点は、2006年に買収した米原子力大手ウェスチングハウス(WH)にさかのぼる」──。複数の会計士や証券アナリストが、こう指摘する。

 54億ドル、買収時の為替レートで約6600億円という巨額の資金をつぎ込んだ東芝のWH買収は、半導体に続く新たな収益源として西田社長(当時)による乾坤一擲(けんこんいってき)の投資だった(その後株買い増しで投資総額は約7800億円)。

 しかし結果的に、これが高値づかみとなり、バランスシート(貸借対照表)に計上されたのれん代(買収価格-時価)4000億円が、その後の東芝の大きな重荷となる。

 この直後から東芝への逆風が強まる。

 07年8月、仏大手金融BNPパリバ傘下のファンドの解約凍結を発表。サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)関連の金融商品の買い手がつかず、解約に対応するための現金化が困難になった「パリバ・ショック」が起きた。

 世界的なリスクオフの流れから円高が進み、東芝が保有するWHはじめ外貨建て資産の円換算価格が大きく減少して、自己資本をむしばむ。08年3月期、東芝の自己資本に含まれている外貨換算調整額(外貨建て資産の円換算調整額)の赤字などが1176億円に膨らみ、自己資本を860億円目減りさせた。

 東芝は、同期に銀座東芝ビル売却に伴う1300億円の特別利益がなければ、当期利益が半減し、自己資本はさらに減少していた可能性がある。ライバル日立製作所と比べて脆弱(ぜいじゃく)な財務体質にもかかわらず、巨額の投資を行ったつけを資産売却で補った。

 だが、売却できる資産は無尽蔵にはない。そして、翌08年9月のリーマン・ショックが東芝を襲った。

 この影響を受け東芝の09年3月期は3435億円の最終赤字に転落。さらに急激な円高に伴う外貨建て資産の含み損が急増し、外貨換算調整額の赤字額が2228億円に急増した。

 その結果、09年3月末の自己資本は1年前の08年3月期と比べて約6割も目減りし、4473億円まで減少。自己資本比率はわずか8%である。世界的に事業展開する大手製造業としては、極めて脆弱な財務基盤だ。

 ある会計士は「09年3月期が東芝にとって、大きな分岐点だった」と、次のように語る。

「本業悪化に伴う3435億円の巨額赤字の計上と、円高に伴うWHなど海外外貨建て資産額の赤字急拡大から自己資本急減を深刻に受け止め、この時、負の遺産を一掃すべきだった。つまり、WHの過大なのれん代の減損と将来収益見通しの下方修正に伴う繰り延べ税金資産の取り崩しだ」

 WHの減損については、11年3月の東日本大震災による内外の原発事業計画の見直し機運の高まりにもかかわらず、減損はいまだに実施されていない。


◇09年6月の増資


 また、将来一定の収益計上を前提に自己資本に算入できる繰り延べ税金資産(税効果資本)は、将来収益計画を保守的に見直すことで、取り崩さなければならない。東芝は、この見直しもせずに4000億円前後の巨額の繰り延べ税金資産の計上を強行した。要するに、架空の資本を計上し続けたということだ。その前提は高い収益目標の必達だった。

 仮に、09年3月期にWHののれん代の減損や繰り延べ税金資産の取り崩しを実施していれば、債務超過の可能性もあった。証券アナリストは「09年6月に公募増資2863億円、第三者割当増資328億円を強行したことから、09年3月期に過去の膿(うみ)を出し切る抜本的な財務の立て直しという選択肢は、東芝首脳陣の頭にはなかったのだろう。債務超過では増資は不可能だからだ」という。

 06年のWH買収という過大な投資とその後ののれん代の負担、そしてリーマン・ショックと「3・11」という未曾有の危機が東芝を襲った。いずれも将来収益の根本から見直しが不可欠だった大事件である。しかし、そんな大事件を無視した強気の収益計画を前提とした繰り延べ税金資産を東芝は抱え込んだまま不正会計に突き進んでいった。脆弱な財務基盤にもかかわらず、身の丈を超えた巨額の投資と高い収益計画を前提としていた東芝歴代トップには、09年3月期以降の無謀な「チャレンジ」による利益水増しは必然だったといえる。


◇全社的に利益1518億円水増し 名門企業歴代3トップ引責辞任


 不正の背景にあったのは、なりふり構わない「利益至上主義」だ。第三者委員会の報告書は「経営トップらの関与に基づいて、不適切な会計処理が組織的に実行された」と批判。各カンパニーに「チャレンジ」と呼ぶ過剰な収益改善要求を繰り返すなど、歴代3社長の圧力があり、利益の水増しに至ったと指摘している。

 例えば、パソコン事業では製造委託先に通常より高い価格で部品を買わせる「押し込み」販売を実施。元社長の佐々木則夫氏は中間期までの3日間で120億円の営業利益改善を要求するなど、押し込み販売を誘発した。

 企業統治に詳しい早稲田大学の宮島英昭教授は「社内カンパニー制の導入で事業単位の権限を強化した結果、うまくいけば高い評価を得られる一方で、失敗すれば責任をとらされることになった。プロジェクトがうまくいかず、改良の余地があると、操作したい気持ちが出てくる。それを止めるのが内部統制だが、機能していなかった」とみる。新日本監査法人による外部監査も十分に機能しなかった。

 一方で、第三者委が不正の背景を「利益至上主義」や「風土」だけに求めることに懐疑的な見方もある。「風土が原因なら、なぜ07年以前を調査対象にしないのか。ヘルスケアや白物家電など他の事業の追求が不十分であり、本当の背景は究明されていない」と、サークルクロスコーポレーション主席アナリストの若林秀樹氏は語る。

 7月21日に東京都港区の本社で会見した田中久雄氏は、冒頭で「株主をはじめ、全ての皆様にお詫びする」と陳謝したものの、不正について「直接的な指示をしたという認識はない。少なくとも(社長に就任した)13年6月以降は過大な要求をした認識はない」と主張した。

 第三者委も同日、都内で会見を開き、委員長の上田広一元東京高検検事長が「日本を代表する大手の会社が、こんなことを組織的にしていたということに衝撃を受けた」と発言。問題の本質を問われ、 「ガバナンス、内部統制、役職員の意識が原因だと思う」と述べた。

 東芝は取締役16人(社内12人、社外4人)のうち、田中、佐々木の両氏を含む8人と、相談役1人の計9人が7月21日付で辞任。室町正志会長が22日から暫定的に社長を兼務している。新たな経営陣は8月中旬に公表する予定だ。

 1999年に社内カンパニー制を導入した西室泰三元社長(現日本郵政社長)は、7月22日に郵政本社で開いた定例会見で「報告書を入手して読んだ。大きなショックを受けた」と苦痛の表情を浮かべ、「室町会長も責任を感じて辞めようとしたが、私は(東芝の)相談役として『絶対に辞めないでくれ。1人でもリーダーシップを取る人がいないと困る。残る方がつらいかもしれないが、それをあなたに期待する』と説得し、本人も決心してやってくれることになった」と明かした。

 東芝の不正会計では、市場関係者や投資家にも衝撃が走った。同社の株価は、問題を公表した4月3日以前は500円台前半だったが、公表後400円台後半に下落。7月16日の終値で369円と年初来最安値を更新し、問題公表後に約25%下がった。


◇全国の取引先に打撃


 米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズは7月21日、東芝の長期格付けを「格下げ方向」とした。実際に格下げするかどうかの判断は、15年3月期の決算を発表する8月か、9月の臨時株主総会のタイミングが予想される。格下げとなれば、東芝の資金調達などに影響が出かねない。

 今後、東芝は過去の決算の下方修正を迫られるが、財務面への影響以上に深刻なのが、「当社140年の歴史の中で最大とも言えるブランドイメージの毀(き)損(そん)」(田中氏)だ。東芝は連結売上高6兆5000億円超、子会社・関連会社は約800社、グループ従業員は約20万人の大企業で、経団連会長を務めた石坂泰三氏、土光敏夫氏らも輩出。名門のイメージが失墜したことで、家電販売やインフラ受注が落ち込み、長期に収益基盤に悪影響を与える恐れがある。

 東芝がリストラや事業の縮小などを実行すれば、取引先へのダメージも大きい。帝国データバンクの調べによると、東芝と同社の国内主要関係会社29社の取引先は、国内だけで2万2244社に上る。うち7割超が年間売上高10億円未満の中小企業だ。「これらは直接取引する会社。下請けも含めると、関連する企業や従業員の数は膨大になる」(帝国データバンクの内藤修氏)。

 一方、証券取引等監視委員会と金融庁は行政処分を検討する。すでに米国では、不正発覚による株価急落で損失を受けたとして、個人投資家が損害賠償を求め提訴している。

 早稲田大学の上村達男教授は「(1)粉飾決算で刑事責任に発展する可能性、(2)株主から民事訴訟を起こされ民事責任を問われる可能性、(3)有価証券報告書への虚偽記載で課徴金の支払いを求められる可能性、いずれも高い」と指摘する。金融商品取引法は、投資家に誤った情報を提供させないための法で、有価証券報告書など情報開示書類への虚偽記載を禁じている。虚偽記載はそれ自体が違法で、訂正で済むケースもあれば、課徴金の支払いや損害賠償責任を求められるケースもある。

 経営トップにどのような刑事罰を科すかは、これとは別問題だ。また、東証の委託で調査する日本取引所自主規制法人が、東芝を「特設注意市場銘柄」に指定して、投資家に注意喚起する可能性や上場契約違約金の支払いを求める可能性もある。


◇今後の東芝を占うポイント

(1)外国人の訴訟の行方

(2)経営刷新委員会の顔ぶれ

(3)8月末に公表予定の有価証券報告書の内容。繰り延べ税金資産や減損をどうするか

(4)次の社長は誰か。日産のゴーン氏のような外国人を望む声もある

(5)電力と半導体を分社するか

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