2015年

8月

11日

ワシントンDC 2015年8月11・18日号

◇米国とブラジルが歩み寄り

◇貿易促進や気候変動対応で連携


須内 康史

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)


 一時期波風が立った米国とブラジルの関係が元に戻りつつある。6月末には首脳会談がホワイトハウスで行われ、会談後の共同記者会見で、ブラジルのルセフ大統領は「オバマ大統領を信じる」と語り、オバマ米大統領も「ルセフ大統領を全面的に信頼している」と応じた。

 ルセフ大統領の米国公式訪問、そして記者会見での前述の両首脳の発言には、格別の経緯がある。もともとルセフ大統領は、2013年10月に米国を公式訪問する予定だった。しかし、米国家安全保障局(NSA)によるルセフ大統領の電話の傍受疑惑が浮上。憤慨したルセフ大統領は訪米を延期し、両首脳間の信頼関係は大きく損なわれていた。

 その後、米国側は、ルセフ大統領の第2期の就任式の機会等にバイデン副大統領がルセフ大統領と面会するなど、関係修復の地ならしに努めた。そして今年4月の米州サミットで両大統領が会談し、今回の公式訪問が発表された。

◇ブラジル経済低迷で接近


 ルセフ大統領が米国との関係修復に歩み寄りを見せた背景の一つに、ブラジル経済の低迷があると見られる。ブラジルにとり米国は第2位の輸出先国で、航空機関連機器など、付加価値の高い製品の輸出先となっている。ルセフ大統領としては、米国との貿易、投資を拡大し、国内経済の回復につなげたいところだ。

 今回の訪米でルセフ大統領は、首脳会談を行ったワシントンDCのほか、ニューヨークで米国の投資家向けに、ブラジル国内のインフラ整備計画を説明。さらにシリコンバレーで、グーグルやフェイスブックなどIT企業の経営者と面会している。

 首脳会談では、貿易促進やIT技術支援、防衛面の協力促進などで合意した。とりわけ注目されたのが気候変動への取り組みだ。両首脳は、気候変動への取り組みに関する共同声明を発表し、両国の連携を強化すると表明。オバマ大統領は、気候変動への取り組みを自身のレガシー・イシュー(残した課題)の一つと位置付けており、ブラジルの協力姿勢を引き出した格好だ。

 米国とブラジルの関係から見ると、ルセフ大統領の公式訪問、首脳会談が実現したこと自体に価値があると言える。『ワシントン・ポスト』紙が見出しで「通信傍受騒動から2年後、米国とブラジルは(両国の関係の)新しいページをめくることを志向した」と報じたように、今回の公式訪問は、両国の関係を正常化させ、将来の関係を強化する環境を整えることにつながった。

 国際社会で政治・経済的に新興国が台頭するなか、米国にとって外交政策でも経済関係の上でもBRICS(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ)をはじめとする新興主要国の重要性が高まっている。

 BRICSのうちロシアとは、ウクライナ情勢を巡り、関係が冷え込んでいる。中国との間では、経済面や気候変動対応などで協力関係を深める一方で、南シナ海をはじめとした安全保障面での懸念を抱える。

 一方、ブラジルは、米国との関係が強まっているインドと同様に、民主主義の価値観・体制を共有する国で、しかも同じ西半球の大国だ。そのため、ブラジルとの関係を改善、強化することは、米国の外交政策の上でも優先度が高い。

 共同記者会見でオバマ大統領は、ブラジルを「グローバル・パワー」であり、「国際的課題に取り組む上で不可欠なパートナー」だと述べた。存在感を高めつつあるブラジルとの関係を修復し、両首脳間で将来へ向けたパートナーシップを確認できたことは、オバマ外交の失地回復の成果になったと言える。