2015年

8月

11日

戦後70年:ほころび始めた戦後民主主義 2015年8月11・18日合併号

◇日本の価値観を問い直すとき


白井聡(京都精華大学専任講師)


 日本は戦後70年の節目を「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍晋三政権下で迎えた。だが戦後レジームからの脱却とは名ばかりで、安倍政権の行動はその正反対に映る。冷戦の中で成立し、機能してきた戦後レジームは、冷戦終結から25年を経て崩壊しかけている。それを何が何でも死守しようとするあまり、実質的な改憲を閣議決定によって行おうとするなど、強引な手段に訴えるようになっている。

真の意味で戦後レジームから脱却するために必要なのは、「民主主義革命」であると考える。戦後民主主義は、連合国軍総司令部(GHQ)が先頭に立った外科手術的改革によって成立した。日本の民主主義は敗戦の結果によってもたらされた。だがその戦後民主主義に相当な無理があったことが露呈してきた。

 顕著な例が自民党議員の勉強会「文化芸術懇話会」における、経団連を使って批判的なマスコミを懲らしめるべきとの発言だ。この発言は言論や報道の自由への露骨な抑圧であり、要するに民主主義の破壊である。

 昨年6月に東京都議会で問題になった女性蔑視のやじも同様だ。人権侵害を含む内容であったにもかかわらず、実質的に誰も処分されていない。女性参政権もGHQの改革によって確立したことを思えば、「占領政策の結果なんてものは無効にしてしまえ」という流れの一つであることがわかる。

 民主主義を理解せず、主体性を持ち合わせていないのは経済界も同じだ。経団連に政治的圧力をかければ言いなりになるということを前提にした議員の発言は、財界人にとって侮辱であるはずだ。だが、経団連会長の反応は遅く、世間が問題視したのに押されてようやく発言をしたに過ぎない。

 原発についても、脱原発に進むべきであるという意見が財界の中心部からはまったく出てこない。東芝の粉飾決算は米ウェスチングハウス社の買収が誤りであったことを露呈したはずだが、その指摘が前面に出てくることはない。問題の核心をメディアも暴こうとしない。要するにこの国は、政治も経済もマスメディアも封建制なのだ。

 日本社会は全体がある種の思考停止に陥っている。特に人材面の劣化が著しい。それが如実に現れたのが福島第1原発の事故だった。海水の注入について、原子炉が廃炉になることによる東京電力の損害と、事故収束に失敗して国が壊滅的な状態になることをてんびんにかけて判断できない人間が企業のトップにいることが明らかになった。

 こうした状況を早急に打破しなければ、破滅的な事態が待っていることは間違いない。


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