2015年

9月

01日

格安スマホ競争最前線:通信市場の新規参入は181社

 ◇今やドコモ純増の4割がMVNO


天野 徳明

(調査会社MCA、通信アナリスト)


 格安スマホ(スマートフォン)市場に参入する事業者が急増している。

 このサービスを提供するのは「MVNO(仮想移動体通信事業者)」と呼ばれる企業で、NTTドコモやKDDIなどの携帯電話会社(キャリア)から回線網を借りてサービスを提供している。その数は2015年3月末時点で181社にまで増加している。

 現在のシェアは、1位がNTTコミュニケーションズの「OCNモバイルONE」(20・3%)、2位がインターネットイニシアティブの「IIJmio(アイアイジェイミオ)」(17・1%)と、以前からインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)としての事業を行ってきた通信事業者が名を連ねている(図1)。

 一方、ここ数年では、流通大手のイオン、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、レンタルビデオ店チェーン大手のゲオホールディングスなど、通信事業とは無縁だったプレーヤーによる新規参入も目立つ。14年10月に本格参入した楽天は、1000万契約を目標に掲げる力の入れようだ。

 これまでのMVNO市場は、携帯電話の操作に詳しい人が中心の限定的な利用者層にとどまっていた。しかし、イオンやTSUTAYA、ゲオ、ブックオフなどの店舗でも取り扱いが始まり、家電量販店には専用コーナーが設けられるようになった。こうしたことで、一般消費者が目にする機会が増えており、総務省が4月に公表した利用者アンケートでは、MVNOの認知度は69・5%と前年度比で20ポイントの急増をみせている。

 MVNO事業を行う企業のなかには、自社の専用店舗を家電量販店内などに出店する事業者も現れている。「ユーモバイル」ブランドのU─NEXTや、「mineo(マイネオ)」ブランドで14年5月に参入した関西電力の通信子会社ケイ・オプティコムなどがそうだ。楽天も今年7、8月に相次いで専門店舗を3カ所オープンさせた。

 こうした背景を受けて、市場は今後も伸びるとみられる。携帯電話向けのMVNO契約数は14年度の315万から、15年度には470万、18年度には1000万を超えると予測している(図2)。


 ◇ドコモ契約数を底上げ


 既にキャリアの加入者数には、MVNOの影響が表れ始めている。キャリアはMVNO業者に自社の通信回線網を貸しており、MVNOの契約数がキャリアの契約数に上乗せされる仕組みになっているためだ。

 キャリアは、MVNOに通信回線を貸し出す際に「帯域接続料」と呼ばれる貸出料金を取っている。その帯域接続料が3キャリアのなかで最も安いのがドコモだ。MVNOにとっては仕入れ価格であり、KDDIの回線網を使うケイ・オプティコムなど一部を除くと、大半のMVNOがドコモから通信回線を借りている。

 こうしたことから、MVNO市場の拡大は、ドコモの契約数の底上げに寄与している。14年度、ドコモの契約数は約350万の純増(新規契約から解約を差し引いた数)となったが、そのうち約140万契約はMVNOが獲得したとみられる。つまり、14年度の時点で純増数の約40%がMVNOによってもたらされた計算だ(図3)。

 KDDIとソフトバンクにとって、MVNOに顧客が流出することはドコモに加入者数を奪われるのと同様の影響をもたらすことになる。一方、料金の安さを前面に押し出すMVNOの普及は、キャリア3社にとって本音では歓迎されない事態だ。

 ドコモの加藤薫社長は、7月末に行われた決算発表で、MVNOの契約数について「無視できない数になっている」と端的に語った。また、KDDIの田中孝司社長は14年度の決算発表会で「MVNOの利用者増加は予想以上。あまり増えない方がいいなと思う」と吐露したほどだ。

 しかし、ここまで市場が伸びたことで「他社に流出するぐらいなら自社回線のMVNOに乗り換えてもらった方がまし」(キャリア関係者)と判断、本腰を入れて対応せざるを得ない状況になっている。

 KDDIとソフトバンクの2社は、自社の回線網を用いたMVNOの参入を促進すべく、相次いでMVNOに対する支援サービスを提供する「MVNE(仮想移動体サービス提供者)」事業を開始した。

 KDDIは14年8月に「KDDIバリューイネイブラー(KVE)」、ソフトバンクは15年7月に「SBパートナーズ」を設立。KDDIバリューイネイブラーはMVNOの支援に加え、自ら「UQモバイル」ブランドでMVNO事業も展開し、利用者獲得に躍起だ。

 また、KDDIとソフトバンクは、帯域接続料(回線貸出料金)の値下げも始めた。両社はドコモと比較して見劣りしていたが、14年度に前年度比60%前後の大幅値下げを実施。10メガbps(1秒当たり10メガバイト)当たりの月額で、ドコモの94万円に対し、KDDIが116万円、ソフトバンクが135万円と、13年度に比べると3社間の価格差は大きく解消された(図4)。KDDIもソフトバンクもドコモ並みの水準としたことで、迎撃態勢を整えた形だ。


 ◇総務省が後押し続ける


 キャリア3社がMVNOに本腰を入れて取り組む背景には、総務省がMVNO普及に向けて並々ならぬ取り組みを行っていることが挙げられる。

 総務省は、現在の市場環境を「3キャリアによる協調的寡占状態」ととらえている。キャリアは電気通信事業法によって、