2015年

9月

08日

株・原油暴落:米シェール企業とサウジの消耗戦 2015年9月8日号

◇サウジの石油戦略

 

岩間 剛一(和光大学経済経営学部教授)

 

 原油価格の下落に伴う、石油輸出国機構(OPEC)の盟主・サウジアラビアと米国のシェールオイル企業の戦いは、果てしない消耗戦の様相を呈している。

 そもそも原油暴落は、14年11月27日のOPEC総会で、サウジが想定外の原油生産量の据え置きを決定し、スイング・プロデューサー(生産調整役)を放棄したことに始まる。

 サウジは従来、日量200万バレル超の原油生産余力を増減させて、原油価格を下支えしてきた。だが14年6月以降の価格下落局面では、逆に生産量を増やした。

 これは、非OPEC加盟国である米国の原油生産量が、シェールオイルを中心に、この3年間で日量350万バレル以上も増えたことが脅威なためだ。サウジは、生産シェアの維持と価格競争による米シェールオイル生産企業潰しを狙い、チキンレースを開始した。

 サウジと米国が日量1000万バレルを超える原油生産競争を続けたため、世界全体で日量約200万バレルの供給過剰となり、原油価格は暴落した。

 サウジの原油生産コストは、米国産標準油種(WTI)で1バレル=4〜10㌦と極めて安価であるのに対し、米シェールオイルの生産コストは、条件が良い「スイート・スポット」で1バレル=25〜45㌦程度、条件の悪い油田では1バレル=80㌦を超えると推定される。

 米国では、原油価格の下落とともに、生産コストが高い新規油田の開発が停滞。米国の新規油田を開発するための掘削装置であるリグの稼働数は、14年12月5日の1575基から、15年6月26日には628基と急速に減少した。将来の米シェールオイル生産量の減少が見込まれ、投機資金による原油先物売りが収まった。この結果、価格は15年4月から短期的に1バレル=60㌦前後で安定。1回戦はサウジの石油戦略の勝利となった。

 

◇しぶといシェール


  だが米シェールオイル生産企業は、サウジの予想を超えた、しぶとい底力がある。米シェールオイルの代表的な油田は、ノースダコタ州の「バッケン」、テキサス州の「イーグルフォード」と「パーミアン」で、「ビッグ・スリー」と呼ばれる。米国エネルギー情報局によると、15年に入ってからのノースダコタ州、テキサス州の原油生産量は増えている(図)。

 価格下落にもかかわらず、シェールオイルの生産量が増えている理由は、主に二つある。一つは、生産コストの高い新規油田の開発は先送りしているものの、生産性が向上していること。新規油田の1井戸当たりの生産量は、14年の日量約400バレルから、15年は日量約700バレルへと大きく増加。米国エネルギー情報局は15年9月の生産性を日量692バレルと見込んでいる。もう一つの理由は、掘削技術が進歩して、シェールオイル油田の掘削日数が従来の5カ月から2カ月ほど短縮され、掘削コストが低下していることだ。

 岩盤に高圧の水をぶつけて割れ目を作る水圧破砕(フラクチャリング)の技術をはじめ、シェールオイル開発関連の技術は日進月歩。生産コストは、日々低下している。そのため4月以降のように、

価格が1バレル=60㌦前後で安定すると、新規油田開発のためのリグ稼働数が増加するのだ。

 15年6月5日のOPEC総会は、原油価格が下落した後に一度沈静化し、米国のリグ稼働数が減少した時期だった。そのためサウジは、引き続き原油生産量を据え置き、米シェールオイル生産企業の動向を様子見する姿勢を見せた。だが、その後のギリシャ危機の深刻化、中国経済低迷の長期化、米国の利上げ観測などから、原油価格は再び下がり始め、WTIは1バレル=40㌦を割った。

 この状況でも、サウジは高水準の原油生産を続け、米シェールオイル生産企業を潰す姿勢を崩さない。サウジは、原油価格が高止まりしていた時期に蓄えた準備金を取り崩せば、3年間程度は財政赤字を補ほてん填できる。

 シェールオイルの生産性が向上するなか、米国のシェールオイルとサウジの原油の戦いは、これからが本番だ。シェールオイルの攻勢に対し、一度引き金を引いたサウジは、サルマン新国王に代わっても、「価格安定よりも原油生産量の維持」という石油政策を変えるとは考えにくい。

 WTIが1バレル=30㌦台であっても、サウジは15年中は、石油生産シェアの維持を優先するだろう。米シェールオイルの生産コストの見極めと、生産企業潰しを目的とした、限りない消耗戦を展開する可能性が強いのである。