2015年

9月

08日

第2回 福島後の未来をつくる:橘川武郎 東京理科大学大学院教授 2015年9月8日号

◇最新鋭の原子炉導入と再エネ比率30%への拡大を


橘川武郎(東京理科大学大学院教授)


 東京電力福島第1原子力発電所事故を機に浮かび上がった日本のエネルギー問題を解決するためには、「S+3E」を進めて乗り切るしかない。政府は2014年4月、「Safety」(安全性)、「Economic Efficiency」(経済効率性)、「Environment」(環境適合性)、「Energy Security」(安定供給)をバランスよく実現するとした「エネルギー基本計画」を閣議決定しているが、その政策をさらに進化させるべきである。



 ◇きっかわ・たけお

 1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた

 ◇無責任な運転期間延長

 安全性については、危険をはらむ原発をどう扱うかが最大の焦点となる。現在の原発立地状況の中でいかに安全を確保するかを考えた場合、今すぐ廃炉にできない以上は、危険を最小化するために最大限の努力をしなければならない。それが「最新鋭の設備」であることは多言を要しない。


今後も原発を使うのであれば、同一敷地内で古い原子炉の廃棄と並行して、最新鋭の原子炉に置き換える「リプレース」が最低限の前提となる。 

 日本には現在、福島第1原発を除いて43基の原発がある。そのうち福島と同型の沸騰水型軽水炉(BWR)22基のうち最新鋭のABWRは、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機など4基しか存在しない。

 21基の加圧水型軽水炉(PWR)に至っては、安全性の高い改良型のAPWRや東芝子会社の米ウェスチングハウスが開発した「AP1000」は皆無である。中国ですら、AP1000が間もなく稼働すると言われているにもかかわらず、である。

 改良型は、設備を簡素化することで安全性を確保する設計で、ポンプなどの動力設備を極力減らし、静的安全性(外部からの操作なしに危険回避する動作を行うシステム設計)を高めている。原子力規制委員会が震災後に定めた新基準で対策を義務付けられた放射性物質が漏れ出す「過酷事故」のリスクを最小限に抑えられる施設だ。

 しかし政府は、世論の反発を恐れてリプレースに関する議論から逃げ、12年の原子炉等規制法改正で定められた「原則40年」を破った小手先の運転期間延長で、原発への回帰を進めようとしている。このようなやり方は、無責任だと言わざるをえない。

 もちろん、リプレースを強調するだけでは、「原発依存度を可能な限り低減する」という安倍晋三首相の公約や、世論の期待と平仄(ひょうそく)が合わない。電源構成に占める原発比率は減らしながら、安全を考える発想に転換せよ、ということだ。

 使用済み核燃料は今、国内に1万7000トンある。全ての原発を止めたままでも、日本は過酷事故のリスクと隣り合わせにあるということだ。この使用済み核燃料の最終処理施設は国内に存在せず、各原発の燃料プールに保管されたままだ。青森県むつ市の乾式中間貯蔵施設と同様の設備を全国の原発に作り、電力消費地から保管料を徴収する制度に改めるべきだろう。そして、機能していない核燃料サイクルの高速増殖原型炉「もんじゅ」を、核のごみ減容炉に変更していくのだ。

 再生可能エネルギー比率を高めることで、30年の原発依存度を政府決定の20~22%から大きく下回る15%程度にまで抑制すべきである。可能な限り低い依存度で、使用済み核燃料を減らす取り組みを同時に行ってリスクを最小化することが、唯一の責任ある道だと言える。


 ◇LNGを安く買う


 日本のエネルギーの経済効率性を考えるうえでは、火力発電用化石燃料の調達コスト削減が重要な意味を持つ。

 政府は「電源構成における原子力比率を高めれば高めるほど、再エネ比率を低めれば低めるほど、電力コストは下がる」と強く主張しているが、それは大きくポイントを外している。

 政府が策定した30年の電源構成では、原子力と再エネの合計は44%にとどまり、残りの56%は火力が占める。さらに1次エネルギーで見ると、原子力と再エネは24%に過ぎず、化石燃料が76%に達する。経済効率性を左右するのは、化石燃料の調達コストであるのは明らかだ。

 原発依存度を減らし、再エネ比率を増やしても、常に化石燃料コストの急上昇という経済的なリスクにさらされる。現在、化石燃料として、数量、金額ともに最大のウエートを占めるのはLNG(液化天然ガス)である。今必要なのは、原発事故後に拡大した貿易赤字の元凶となったLNG調達コストを引き下げる取り組みである。具体的には以下の五つが考えられる。

(1)原発と石炭火力の選択肢を放棄しない。化石燃料を海外から購入する際の価格交渉で相手に足元を見られることになるからだ。

(2)海外で「日の丸ガス田」の開発を推進する。国際石油開発帝石(INPEX)が豪州で開発・生産に携わる「イクシス・プロジェクト」は、「日の丸ガス田」の最初の本格的な事例である。

(3)北米でシェールガスをまとめ買いする。東京電力と中部電力の間で、世界最大級となる年間4000万トンのLNGを調達する協定が成立したが、ここに東京ガス、大阪ガス、関西電力が加われば7000万トンとなり、さらに有利に購入交渉に臨むことができる。

(4)世界最大のLNG輸入国である日本と、第2位の韓国が連携して、購買交渉力を強化する。日韓両国の購入量の合計は、全世界の約半分に及ぶ。世界のLNG取引は、需給で価格が決まる取引市場として、北米のヘンリーハブと欧州のナショナル・バランシング・ポイントが中心だが、日韓両国が手を組めば、東アジアに世界で3番目の市場ができる。米欧と並び東アジアにも需給で価格が決まる市場ができれば、欧州並みの水準でLNGを調達することも夢ではない。

(5)LNG取引の約7割を占める長期契約の条件を買い手側に有利に改定する。通常、電力ガス会社のLNG取引は5~20年の長期の契約を交わされるが、15~17年にはその契約更改交渉が集中すると言われている。そこで上記四つを合わせ、▽原油価格の変動の影響を緩和する価格設定方式の再構築▽購入価格の上昇につながる仕向け地条項=荷揚げ場所を固定し、第三者への転売を禁止する不利益条項=の撤廃──などが不可欠だ。

 LNGの安価な調達が実現すれば、一定量の電力を安定供給できる「ベースロード電源」としてLNG火力を位置づけることができ、同じベースロードの原発比率を大幅に引き下げることが可能になるのである。


 ◇石炭火力が切り札


 環境適合性の面で重要なのは、地球温暖化防止に向け、温室効果ガスを日本国内でいくら削減しても、世界全体から見ると大きな効果が見込めないということである。

 国際的に見ると、世界の電源は石炭火力発電への依存度が圧倒的に高い。12年の電源構成で、中国は76%、インドは71%が石炭火力だ。そこで鍵を握るのが、環境負荷が低くエネルギー変換効率が高い日本の石炭火力技術である。石炭火力のエネルギー変換効率で、日本は世界トップクラスの42%の実績を上げている。アメリカは37%、中国とインドに至っては32%程度しかない。日本での最も効率的な発電技術が世界に普及すれば、それだけで、世界のCO2排出量は大幅に減少する。

 資源エネルギー庁の試算によれば、米国・中国・インドの3国で日本の石炭火力技術を活用すると、CO2排出量は年間15億2300万トン削減される。これは、日本の排出総量14億800万トン(13年度)を上回る。日本の石炭火力発電技術は、地球温暖化防止の「切り札」となるというのは、決して過言ではないだろう。

 そのためには「2国間オフセット・クレジット制度」を拡大する必要がある。この制度では、先進国が新興国に発電や製鉄、運輸などの分野で省エネや、CO2排出量削減技術を提供する代わりに、削減された排出量の一部を排出枠(クレジット)として受け取り、国内の温室効果ガスの排出量と相殺できる。

 2国間オフセット・クレジット制度が多国間に拡充された形で確立され、日本の石炭火力発電技術が海外で普及すれば、たとえ日本国内で石炭火力発電所が新増設され、CO2排出量が増えたとしても、地球全体で見れば、CO2排出削減が進む。

 国内の火力発電用化石燃料コストの削減と、地球規模での温暖化防止が両立するのである。環境適合性にとって本当に取り組むべき課題が、「高効率な石炭火力発電技術の海外移転」をいかに実現するかにあることは、誰の目にも明らかであろう。


 ◇送電網整備で再エネ拡大


 エネルギーの安定供給の点では、自給率を高めることが重要になる。そのためには、30年の電源構成における再生可能エネルギーの比率を、政府決定の22~24%から30%まで引き上げる必要がある。

 ここで考えておかなければならないのは、電力会社に一定額での再エネ買い取りを義務付ける固定価格買い取り制度(FIT)は、普及のきっかけとしては重要な意味を持つものの、それ自体が拡大の王道ではないということである。FITはあくまで弾みをつける役目で、最終的には市場で勝負できる電源にならない限り、再エネは持続可能な形で定着しない。再エネ拡大の根本原則は、市場での普及にあることを忘れてはならない。

 再エネはコストが高いイメージが定着しているが、30年には太陽光の発電単価は石炭火力より安くなる。海外では既に、1キロワット時当たり9円まで下がっている例もある。経済産業省の試算では、原子力の30年の発電単価は「10・1円以上」だ。再エネを使わない手はない。市場ベースで本格的に普及させるうえで鍵を握るのは、再エネを受け入れやすい送電システムを整備することである。

 まず、「不足している」と言われている送電線網のチェックだ。ここでは、今後廃炉となる原発で使っていた送変電設備の活用が焦点となる。「原則40年」に基づけば、現在ある43基の原子炉のうち25基は、30年12月末までに運転を停止することになる。再エネの本格的な拡大に不可欠な送電線問題は、原発廃炉によって「余剰」となる設備の徹底的な活用で解決できる。

 第二に、送電線を作る仕組みを構築することである。

「送電線はもうからないから誰も作りたがらない」という見方がある。しかし、分散型電源の普及や、広域な系統連系、つまり再生エネルギーや電力会社以外の民間の発電所などから電力会社への送電系統への接続が求められるこれからの日本にとって、送電線は欠かせない設備となる。投資対象としての送電線事業の利益率は低いかもしれないが、安定的な事業であることは間違いない。(1)金融市場が的確に評価する、(2)送電線投資に対して国が政策的に支援する──などの仕組みを構築し、送電網の拡大を後押しすることが極めて大切である。

 電力会社には、既存の送電設備の性能を向上させることで、送電規模を大きくする方法もあることを忘れないでほしい。

 第三は、そもそも送電線を必要としない方式を導入することである。全国各地でスマートコミュニティー(電力・熱・水などインフラの効率的な管理・最適制御を実現した社会)を拡大し、電力の「地産地消」ウエートを高めて、送電にかかる負荷を減らす。再エネの発電設備や、それと系統連系する変電設備で蓄電能力を高める。再エネ発電の現場で、余剰分の電力を使って水の電気分解を行い、水素の形で「電気」を消費地に運ぶ。これらはそれほど大規模な送電線敷設を行わなくても可能だ。

 ここで言及した解決策のなかには、時間が必要なものがある一方、すぐに進められるものもある。着実に送電システム問題を克服し、市場での普及を目指すことが、再エネを本格的に拡大する道なのである。

「S+3E」の進化は、大変壮大な計画である。関係する省庁や自治体も多く、新たな政策や、国際社会での取り組み、国家間の交渉力も必要だ。しかし、エネルギー小国として、原発事故を起こした今、国民の安全を確保しながら、エネルギー政策を再度、組み直していくには、こうした大胆な構想力と行動力が必要ではないか。