2015年

9月

08日

株・原油暴落:イラン制裁解除のインパクト 2015年9月8日号

◇シェア奪還目指し価格競争へ

 

増野伊登(石油天然ガス・金属鉱物資源機構研究員)


 イランの石油の確認埋蔵量は1578億バレルで、ベネズエラ、サウジアラビア、カナダに次ぐ世界第4位の規模を誇る(BP統計)。生産量は2012年初めまで日量300万バレル以上、輸出量は日量200万バレル以上で推移していた(図1、2)。
 しかし12年の米国と欧州連合(EU)による原油の禁輸措置を受けて、生産量と輸出量は大幅に減少。活動停止に追い込まれた油田もある。輸出は、その大半が中国とインドをはじめとするアジア向けになった。
 天然ガスも、確認埋蔵量が34兆立方メートルと、世界1位にもかかわらず、思うように生産できていない。生産量のほとんどは国内消費に充てられ、輸出は少ない。イランのガス輸出量は、ロシアやカタールに大きく差をつけられているのが現状だ。 

 そうしたなか、15年7月14日、イランとP5+1(国連安全保障理事会常任理事国の米英仏中露+独)が核問題を巡る最終合意に達したことで、イランの石油・天然ガスの増産に向けた道筋が開けた。

◇来年初めにも制裁解除

 この合意では、ウラン濃縮活動の制限や遠心分離機の削減、国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れなどをイランが全て履行し、その順守をIAEAが確認後、米国、EU、国連が核関連制裁を解除することを取り決めた。制裁解除に向け、複数のプロセスを経る必要があるうえ、軍事施設の査察を巡り米・イラン間の対立が表面化して、事態が硬直化する可能性もある。イランの合意内容の履行には4~12カ月かかるかもしれない。
 これらを考慮すると、制裁が解除されるのは、16年後半以降になる可能性もあるが、最短シナリオならば16年初めだ。
 制裁が解除されると、イランの原油生産と輸出は、どれだけ増えるだろうか。15年7月の生産量は日量287万バレルだった。国際エネルギー機関(IEA)は、制裁解除から数カ月のうちに、生産量を日量340万~360万バレルに増やせると予測する。
 ただし、陸上の主要油田の多くは生産開始から数十年たち、油層内の圧力低下による生産量の減退に直面している。石油関連施設も、ほとんどが建設から40年以上たって、更新の必要に迫られているため、外資企業の資金力と技術力が必要だ。
 輸出量は現在、日量100万バレル程度。イランは制裁前の水準である200万バレルに回復させるため、日量100万バレルの輸出増加を目標としている。これが実現するのは早ければ1年後、外資企業の参入状況いかんで17~18年になる可能性がある。
 一方、天然ガスは、世界最大級の「サウスパース・ガス田」の開発が進展すれば、輸出量が拡大していくと予想される。このガス田は、制裁で外資企業が撤退して以降、開発スケジュールは当初の計画よりも大幅に遅れている。
 イランの14年のガス生産量は1726億立方メートル(図3)。IEAは20年までの伸びを年250億立方メートルと予測するが、イランは年間生産量を約4700億立方メートル(年600億立方メートル増)に拡大したいとしている。

◇国境周辺の開発を優先

 石油・天然ガスを増産するため、イランは、過去に外資企業との開発契約を多数締結したザンギャネ石油大臣の下、外資企業の受け入れに向け態勢作りを進めている。
 とりわけ注目されるのが、対外開放の対象となる石油・天然ガスの上流(開発・生産)案件の選定状況だ。公式発表はまだだが、探鉱・生産段階を含む約50の油・ガス田が対象候補として挙がっている(図4)。老朽油田の原油回収率の向上や、隣国との国境にまたがる油・ガス田の開発などを特に優先するようだ。
 イランの「アザデガン油田」や「ヤダバラン油田」と地質的に連続した構造を持つ、イラクの「マジュヌーン油田」や、前述の「サウスパース・ガス田」と連続しているカタールの「ノースフィールド・ガス田」では、着々と開発が進んでいる。このためイランは、自国の取り分が減ってしまうとの危機感を募らせており、外資企業の協力を得て、いち早く増産させたい意向だ。
 イランが力を入れてきた石油化学分野については、中東地域で最大規模の石化複合施設を南部に建設する計画がある。液化天然ガス(LNG)の案件が本格始動するのは数年先になるだろうが、かつて英石油大手BPが参画していた「イランLNG」案件は、液化設備を除く部分の工事が進んでおり、今後の進捗(しんちょく)が期待されている。


◇売り先には苦労も

 イランの資源開発・生産は、世界最大規模の資源ポテンシャルを持つため、有望な投資対象となる可能性を秘めている。イランは、治安面でイラク、コスト面で西アフリカやブラジルよりも好条件だ。欧州を中心に外資企業も強い関心を抱いている。現在、イランは石油探鉱開発の契約内容を改定中で、この内容がどれだけ外資企業の期待に応えられるかが、参入を促すカギとなる。
 制裁が解除されても、イランの合意不履行が発覚すれば、制裁が再発動される恐れもある。イラン参入を目指す企業は、情報の収集と人脈の構築・強化に努める一方で、リスク評価に相応の時間をかけることになるだろう。外資企業のイラン参入が進めば原油・ガス生産は拡大する。
 ただし、イランが売り先を確保するのは容易ではない。イラン産原油の減少で空いた穴は、すでに中南米や西アフリカ、イラクなどの産油国が埋めているうえ、市場は供給過多の状態にあるからだ。市場シェアを回復するために、イランは価格競争に身を投じる必要がある。そうなれば原油価格を押し下げる要因となり、市場に大きなインパクトを与えることになる。