2015年

9月

08日

株・原油暴落:軒並み下がった商品価格 2015年9月8日号

◇中国失速で需要が急減


新村直弘(マーケット・リスク・アドバイザリー代表取締役)


 ドル高の進行、原油価格の急落、中国の成長鈍化への懸念が強まり、金、鉄・鉄鉱石、非鉄金属などの商品価格の下落が続いている。

 金価格は2010年の欧州債務危機、11年の米国債格下げショック以降、上昇基調を強め、11年9月6日に付けた1オンス当たり1921・17ドルから急落し、15年7月24日に1077・40ドルと10年以来の安値を付けた。その後やや上昇しているものの、1100ドルを挟む展開となっている。

 銅価格は11年2月14日の1トン当たり1万148ドルから、15年8月7日には6年ぶりの安値水準である5135・50ドルと半値に下落し、5000ドル台前半で推移している。鉄鉱石価格も11年2月17日の1トン当たり191・70ドルから15年7月8日には44・59ドルまで4分の1に下落、現在は50ドル台半ばで取引されている。

 現在、ドル高が進行しているのは、米国が他国と比較した際、相対的に経済状態が良く、米欧日では最も早くゼロ金利政策から脱し、早ければ9月に利上げが行われると予想されていることが大きい。

 一般的に、ドル高の進行は生産国のドルベースでの生産コストを押し下げ、採算の改善を通じて供給の増加要因となる。

 一方、消費国にとってドル上昇は、自国通貨ベースの価格の上昇につながり需要の抑制要因となる。実際には、その他の要因も加わるためこれほど単純ではないが、おおむねこの仕組みでドル高は資源価格の下押し要因となる。

 さらに原油価格の下落もドル高と同様に、金属の生産コストを押し下げ、供給が増加することで金属価格を押し下げる要因となっている。

 しかし、これら以上に商品価格にマイナスの影響を与えているのは、これまで商品需要をけん引してきた中国経済だ。

 00年代に入ってからの急成長で、インフラ投資が積極的に行われ、中国の金属消費は大幅に上昇した。その結果、世界の金属消費に占める中国のシェアは、5割に迫るまでになっており、世界の金属市場は中国経済に強く影響されることとなった。

 例えば、景気動向の先行指数とされ、製造業の購買担当者へのアンケート調査である中国製造業PMIと、非鉄金属取引の中心であるロンドン金属取引所(LME)の銅価格推移には高い相関性が認められるように(図)、短期~中期的に中国の景気は金属価格に影響を与えている。

 しかし現在、中国経済の失速が懸念されている。国内総生産(GDP)の成長率は、13年7・7%、14年7・4%と低下し、国際通貨基金(IMF)は、15年6・8%、16年6・3%に鈍化すると予想している。

 中国の商品需要の減少が鉄・鉄鉱石、非鉄など工業金属の価格を広く押し下げている。


 ◇中長期では上昇へ


 鉱山での生産調整は為替の介入のように即時に行うことができず、実際に減産が起きるには時間が掛かるため、現在の供給過剰状態がすぐに解消するわけではない。

 またドル高の進行は生産国の自国通貨ベースの生産コスト低下につながるため、生産調整を遅らせる要因となり、自国通貨の下落は購買力を低下させるため投機的な需要も抑制されることから、秋口にかけて金属価格はじりじりと水準を切り下げる動きになると考えられる。

 しかし、中国政府は15年後半にかけて景気刺激のための公共投資を実施するとの見方が強く、早ければ今年後半から金属価格は上昇に転じるものと見ている。

 公共投資は、橋梁(きょうりょう)の整備、線路の延伸、電力網の整備などが金属需要を直接押し上げる。これにより、工業金属価格は下支えされることになるだろう。

 また、需要増加のバトンが中国からインドやインドネシアといった「新・新興国」に渡り、商品相場は中長期的には上昇に転じるだろう。

 ただ、(1)ここまで積み上がった在庫水準が高いこと、(2)鉱山の生産調整には相応の時間を要すること、(3)ドル高基調はしばらく続くと予想されることから、価格の上昇ペースは緩やかなものにとどまると考えている。


 ◇新興国の資金流出リスク

 また、金については、投機取引の比率が高いため、実需というより為替や株といった金融市場の影響を強く受けやすい。これまでは、中国で宝飾品としての需要増加への期待や、ギリシャ債務危機を背景に安全資産として物色されていたが、ドル高の進行と原油安による期待インフレ率の低下によって、投資対象としての魅力が薄れたうえ、ギリシャ問題がいったん妥結し、安全資産としての需要も減少したことが、価格を大きく押し下げたと考えられる。

 今後のリスクは、中国の景気動向が急激に変動した場合である。インドネシアやインドなどの新興諸国に影響が波及する可能性がある。8月中旬の中国政府による人民元の切り下げによる中国の購買力低下は、中国向けの輸出依存度が高い東南アジアの輸出減少などによる景気の悪化観測を通じて新興国通貨安を進行させるため、この流れが変わらなければ新興国の資金流出は続き、中国を含む新興諸国の財政不安が高まることで、需要の顕在化は期待できないといった懸念が強まる。

 そうなった場合、世界同時不況の可能性を考慮し各国は対策を行うと思われるが、中国の株式市場の混乱に対し、中国政府は株式売買禁止などの場当たり的な対応しかできなかったように、危機発生時に各国政府が適切な対応ができない可能性は以前よりも高いと考えるべきだろう。

 今後は先に述べた通り、緩やかな商品価格の上昇が予想されるが、金融緩和による資金が市場に滞留していることを考慮すると、条件が整えば再び価格が急騰するリスクは十分考えられる。

 下落している今こそ、将来の価格上昇に備える好機と捉えるべきだろう。