2015年

9月

08日

特集:中国ショック 株・原油暴落 2015年9月8日号

 ◇日米中の株安連鎖

 ◇緩和も財政も限界


谷口 健(編集部)


「この株価急落は、さすがに想定外。日経平均株価の下値予想を毎日下方修正せざるを得なかった。激しく乱高下する値動きに、思わずめまいがした」──。国内運用機関のベテランファンドマネジャーをしても、8月18日から25日まで6営業日続いた日経平均の暴落は身にこたえたという。


 ◇株安連鎖

 8月18日に始まった世界的な同時株安は、8月21日にニューヨークダウが2日連続大幅続落したことで歯止めが利かなくなった。週を開けた8月24日に、日本→中国→欧州→米国と株安が連鎖し、8月26日まで株安連鎖が地球を何周も駆け巡った。

 日経平均は8月18日の取引時間中の高値(2万0663円)から26日の安値(1万7714円)まで2948円( 14 ・2%)の下げを記録。ニューヨークダウも8月18日の高値(1万7568㌦)から24日安値(1万5370㌦)まで2198㌦(12・5%)下がった。日経平均の下げは、13年5月のバーナンキ・ショック、1987年のブラックマンデー、71年のニクソン・ショックにも匹敵する下げとなった()。

 為替相場では、リスク回避の流れで円とユーロが買われた。ドル・円相場は8月24日、一時1㌦=116円台へと一気に6円近く円高が進み、ユーロ・ドル相場も8月24日に1ユーロ=1・17㌦までユーロ高が進んだ。

 世界同時株安の震源地は中国だ。中国経済の想定以上の減速と6月中旬から続く上海総合指数の急落が、株安のきっかけとなった。

 いずれも以前から危険視されていたが、米アップルが7月21日に公表した第3四半期決算で、改めて中国市場の負のインパクトの大きさをみせつけた。香港などを含む大中華圏におけるアイフォーンの販売実績が、前年同期比2・1倍に拡大。「ドル箱市場」の中国存在感が大きくなり過ぎて、逆に中国経済の景気失速によって、今後の売り上げの伸びは期待できないとの懸念から同社の株価下落が止まらず、アップル向けに部品を納入するメーカーの株価まで下落する動きが相次いだ。中国が「世界経済のリスク」として米国はじめ世界市場で強く意識された瞬間だった。

 さらに、中国人民銀行(中央銀行)が8月11日から13日まで3日連続で人民元切り下げを実施。「元安誘導で輸出を拡大しなければならないほどに景気が悪いのか」との懸念が広がった。実際、8月21日には製造業PMI(購買担当者指数)の速報値が6年半ぶりの低水準となり、実体経済の悪化が裏付けられると、株安の流れが加速した。

 中国の実体経済の悪化を示す統計の発表が続く。

 成長の牽引役である民間固定資産投資は、15年に入って大きく鈍化。14年は前年比18・1%増だったが、今年1~7月は前年同期比11・3%増まで落ち込んでいる。また、生産者物価指数(PPI)は40カ月連続のマイナスで低調なままだ。


 ◇消えていない中国不安


 自動車市場は、販売数2349万台(14年)と世界一となったものの、雲行きは怪しい。中国汽車工業会は年初、今年の販売予想を前年比7%増としていたが、7月3日に3%増に下方修正。7月の新車販売台数は前年同月比7・1%減の4カ月連続のマイナスとなった。「通年ではマイナスに転じるのではないか」(岡三証券上海駐在員事務所・濱崎義徳所長)という見方も出ている。

「中国の自動車生産能力は今年末には5000万台になり、国内市場の低迷は特に地場系企業への影響が大きい。大手企業を含めすでに安売り競争が始まっている」(同)。そうなれば、勝者なき過当競争の始まりだ。

 こうした中、中国人民銀行は8月25日、政策金利の0・25%引き下げを決めるなど金融緩和に踏み切った。昨年11月から5回目の緩和で、異例の平日の実施である。しかし、中国経済の下支えには不十分という声が聞かれる。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の三浦誠一投資ストラテジストは、「利下げのような金融政策は漢方のようなもので効くまでに時間がかかる。結局、不動産などに多少のムダが出ても数兆元規模の財政を出動させるしかない」と語る。

 日本総研の関辰一副主任研究員も、中央政府の財政出動を中心とした2兆元以上の公共投資が必要とみる。「空港や港湾、道路の整備のみならず、電力開発や水道やガスも含め伸びしろは大きい。すでに計画は十分できているので、中央政府が資本を出すと決めるだけだ」。

 9月は政治イベントが多く控えている。9月4日にはG20の財務大臣・中央銀行総裁会議、9月中に習近平国家主席が訪米する予定だ。10月には経済運営の5カ年計画を討議する「五中全会(党中央委員会第5回全体会議)」も控えている。イベント前に“手土産代わりに”中国からなんらかの刺激策が出てもおかしくない。


 ◇9月利上げは困難に


 世界の金融市場が大荒れとなった背景には、もう一つ理由がある。8月初めまでは9月にも実施されるとみられていた米国の利上げだ。

 9月16~17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、約6年間続いたゼロ金利政策を転換し、いよいよ利上げに踏み切るとみられていた。利上げ予想によって、すでに新興国から資金が米国に逆流し始め、新興国通貨安が進むなど市場は身構えていたのである。そこに中国の想定以上の景気失速懸念が浮上、米国の利上げリスクと共鳴して世界の金融市場を大混乱に陥れた。

 今回の世界同時株安で9月利上げ予想は一気に後退し、12月以降にずれ込む可能性が高まった。16年にずれ込むという予想も出始めた。

 現に、米国ではハト派的(金融引き締めに慎重)な発言が相次いでいる。アトランタ連銀のロックハート総裁は8月24日の講演で、9月利上げに距離を置く姿勢をみせ、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は8月26日、「数週間前よりも(9月利上げの)必然性が低下した」と利上げに対して慎重な姿勢をみせた。

 株式市場などは落ち着きを取り戻したかにみえるが、真相は世界に不安材料をさらけ出したといったほうがいい。米国と並び牽引役とみられていた中国経済は想定以上に悪く、頼みの綱は中央銀行による金融緩和だけであることが明らかとなったからだ。

 日欧中が金融緩和を続け、米国でさえ利上げに踏み切れない──緩和政策からの出口リスク、つまり市中にばらまいたおカネを回収する道筋がまるでみえなくなった。

 国内外のマーケットに詳しい豊島逸夫氏はこう語る。「金融緩和の弊害が増えると分かっていても、このまま株安を放置することはできない。それほどに今回は切迫している。これで来年以降のバブル懸念が高まるが、緩和を続けるしかない」。

 中国が大型の景気刺激策をするとしても、過剰設備やバブルの火種をさらに大きくする危険性をはらむ。日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は、そのリスクを指摘する。「リーマン・ショック後の4兆元の財政出動によって、過剰設備と過剰在庫の調整が必要な状況は変わっていない。今は過剰な設備の廃棄や新しい産業への構造転換期にある。ここで新たな財政出動をすると、構造調整とは逆の動きとなり、中国経済にとってより大きな将来のリスクになる」。

 目先の安定には、金融緩和の継続と中国の財政出動が必要だが、それは長期的なより大きなリスクを膨らませる──。世界経済は大きなジレンマに陥っている。

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