2015年

9月

21日

第4回 福島後の未来をつくる:田中伸男・笹川平和財団理事長 2015年9月22日特大号

 ◇たなか・のぶお

 1950年生まれ。東京大学経済学部卒。73年通商産業省入省。経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て、2007年9月~11年8月、国際エネルギー機関(IEA)事務局長を務める。

◇核のゴミ処理のための統合型高速炉

◇全電源喪失でも停止すると実証済み

田中 伸男(笹川平和財団理事長)

 

現在、日本の原子力はさまざまな問題を抱えている。3・11後の大きな課題として、福島第1原発の原子炉に溶け落ちた燃料を取り出し、それを処理しなくてはならないが、その処理方法も、処理する場所も全くメドが立っていない。

 そもそも日本の原子力政策は、原発から出る使用済み燃料を再処理して残ったウランを回収し、さらに原子炉内でウラン燃料から生成されたプルトニウムを抽出し、それらをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工して高速増殖炉で使うという道筋を描いていた。

 高速増殖炉は投入した以上のプルトニウムを生成することができる夢の原子炉とされたが、二つ目の炉である「もんじゅ」で事故や隠蔽(いんぺい)行為が発覚し、いまも稼働のメドが立っていない。そのため、やむなくMOX燃料を全国各地の原発で再利用する軽水炉サイクル(プルサーマル)へと転じた。

 


しかし、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す青森県六ケ所村の再処理工場はたびたび完成時期が延期されているうえに、この再処理設備で生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決まっていない。

 つまり高速増殖炉とプルサーマルという核燃料サイクルは、実現の見通しが立っていないのである。この核燃サイクルが成立しないと、核兵器への転用が可能なプルトニウムの行き場がなくなり、国際公約である核不拡散に反することにもなる。

 原発事故が起きて改めて国民の最大の懸念となっている原子炉の安全性については、万が一の事故が起こっても、メルトダウン(炉心溶融)を起こさず安全に止めるという「受動的安全性」を確立しない限り、国民の多くが再稼働に納得することはないだろう。しかし、その課題を解決したとしても、核のゴミやプルトニウムの問題は残されている。この問題は原発ゼロにしたとしても解決できない。

 これらの問題に対し、一応の答えを出せる方法が「統合型高速炉」(IFR、Integral Fast Reactor)だと私は考える。

 ◇福島第2に実験施設を


 統合型高速炉とは、金属燃料を用い、高速中性子で核分裂させる高速炉と、使用済み燃料の電気分解型乾式再処理施設を組み合わせたもので、米イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所が開発した。米アイダホ州の5万キロワットの実験炉で、乾式再処理により作った燃料を使う実験も行っていた。

 この統合型高速炉では、現在の再処理のように、使用済み燃料からプルトニウムだけを取り出すのではなく、マイナーアクチノイド(放射性毒性が強いさまざまな元素)も一緒に取り出し、加工した金属燃料を高速炉で使用する。そのため、残った廃棄物の放射能レベルが天然ウラン並みになるまでは300年と、使用済み核燃料の10万年より格段に短い。

 さらに、六ケ所村の再処理施設で出る高レベル放射性廃棄物や使用済みMOX燃料も再処理できれば、現在の核燃サイクルに足りない部分を補完する。

 再処理で取り出すプルトニウムは純粋なものではなく、マイナーアクチノイドと混ざっているため、核兵器の原料になりにくい。さらに、再処理施設と原子炉がつながっているため、プルトニウムが施設外に持ち出されることがなく、テロ対応の面でも核不拡散性が高い。


 安全性については、1986年に実験炉で全電源喪失を起こす実証が行われ、安全に停止した。この模様は映画「パンドラの約束」(2014年公開)に収められている。技術的な説明ではなかなか人々が安心しないなか、実証で安心は増すだろう。

 統合型高速炉のプロジェクトは米民主党のクリントン政権下で1990年代に中止され、実験炉も閉鎖された。2大政党の政治闘争の影響だ。民主党は他国に核兵器を持たせたくないという意見が強く、統合型高速炉はプルトニウムを取り出して使うものだからと反対した。

 米エネルギー省は、この統合型高速炉では純粋なプルトニウムが取り出されるわけではないと反論したが、議会の理解を得られなかった。米国はシェールガスやシェールオイル、それに石炭資源が豊富で電力源に切迫しているわけでもないため、使用済み核燃料はそのまま乾式貯蔵で保管し、いずれ技術が開発できたら再処理して燃料にするという時間稼ぎ戦略で済むが、資源がなく、かつ福島第1原発を抱える日本にその余裕はない。


 今、この技術に関心を抱いているのが韓国だ。アルゴンヌ研究所と共同で使用済み核燃料の再処理メカニズムについての研究を2020年にかけて行っている。韓国はポスト軽水炉の輸出産業とするつもりだ。ここに日本も加わり、日米韓が一緒に統合型高速炉の研究を行い、核不拡散の新しいアジアモデルを作って実行してはどうだろうか。

 そして、福島第2原発の敷地に、統合型高速炉の実験施設を建設してはどうか。福島第2は福島第1に近く、溶け落ちた燃料を運んで処理するうえで合理的だ。東日本大震災の地震津波にも耐え、ある意味で日本で最も安全性が確認されている。実際に福島第2に施設を作るためのコストはどの程度か、足りない技術は何か、当財団で研究するつもりだ。

 福島の人からは「どうしてこういう技術があると教えてくれなかったのか」と言われた。私自身も経済産業省にいながら全く知らずに来た。福島の事故後に知って勉強し、本当にできるなら、日本の原子力が抱える問題の答えになると思った。


 ◇夢ではなく現実的選択

「高速炉」というと、日本では高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)のイメージが強く、反発があるだろう。これまで「高速増殖炉は夢の技術で世界一安全、資源がない日本には必要」と説明してきたが、事故が続き信用されなくなった。この統合型高速炉は核のゴミ処理が目的だと説明すべきだ。副産物として電気ができる。“夢”ではなく、既に生じた問題に対する現実的な選択として示す。

 高速炉と高速増殖炉が共通するのは、核分裂に高速中性子を用い、ナトリウムで冷却する点だ。ただ、高速増殖炉では核分裂によりプルトニウムが増殖するよう燃料を配置するが、高速炉はその配置はせず、プルトニウムが増えることはない。それに、もんじゅの冷却方式は経済性を重視したループ式だが、高速炉はナトリウムのタンクに原子炉で発生する熱を取り出す1次系が沈んでいる形のため、冷やしやすい。


 ◇10万年か、300年か

 現在の軽水炉を軸とした技術体系からパラダイムを変えるのは大変だ。人材、技術の面からもそうだし、規制のあり方も知見がない。ただ、米国で実験炉が20年にわたって稼働していた。日本からも当時、電力中央研究所と東芝の研究者が米アルゴンヌ研究所に派遣されていた。知見を持った人たちが年をとってきており、今、技術開発に取り組まなければ技術が失われかねない。

 現在ある軽水炉の運転年数は40年で、60年に延ばすとしても、廃炉になっていくのはそれほど先のことではない。その時、何で置き換えるのか。

 二酸化炭素を出さず、かつ輸入に頼らない国産のベースロード電源として太陽光や風力はコスト高だし、変動をならすための電力貯蔵技術もまだ間に合わない可能性が高い。

 原子力技術では高温ガス炉は安全性が高く、熱源としても使えるが、使用済み燃料の処理はできない。ゼロから原子力を導入する国には向いているが、日本は既に原子力を使ってきている。

 もう一つの問題として、米国による技術協力と規制を定めた日米原子力協定が2018年に期限切れとなる。その後、自動延長にはなるが、いつ米国の意向で破棄されるか分からず、不安定だ。長期的に原子力開発を行えるよう協定を改定するためには、核不拡散とゴミ処理を進めるプランを示す必要がある。

 高レベル廃棄物の処分地がなかなか決まらない現状で、この統合型高速炉により使用済み核燃料の処理を分散型で行うというのも一つの考え方だ。新潟や福井など各原発や六ケ所村の再処理施設の隣にそれぞれ統合型高速炉を設置する。廃棄物が放射能レベルが十分下がるまでに300年となった状態で置いておく。

 

日本の原子力関係者は福島第1の事故で自信喪失した。時間がたてば国民の原子力に対する信頼は回復すると期待しているが、安全への心配から一向に反対論は消えない。政府は経済性や環境対策、国際情勢で石油・ガスの輸入が止まった場合のエネルギー安全保障の面でもやっぱり原子力は必要だと言ってきたが、同じ説明を繰り返しても国民の意見は変わらない。今、どういう問題があるのか。それに対してどのような選択肢を取りうるかを示すべきだ。

 これまで、日本は軽水炉と六ケ所村の再処理施設ともんじゅの核燃サイクルとで原子力を進め、違う選択肢を捨ててきた。だから今、原子力かゼロかという議論になってしまっている。そうではなく、核のゴミを10万年置いておくのか、300年にするのかを選択する。安全性、ゴミ処理、核不拡散という原子力の持続可能性の三つの条件を満たすのが統合型高速炉だと私は考える。