2015年

9月

15日

ワシントンDC 2015年9月15日特大号

◇クリントン氏の私用メール問題

◇大統領選に急浮上のバイデン氏


今村 卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)


 来年の大統領選に向けた民主党の指名争いの様相が変わり始めた。本命候補と目されてきたヒラリー・クリントン前国務長官の人気に陰りが出て、ジョー・バイデン副大統領が真剣に出馬を検討し始めた。

 クリントン氏は、7月半ばまで60%前後の党内支持率で独走していた。しかし、その後は支持率が低下し、8月下旬の調査では45%に沈んだ。ニューハンプシャー州では、サンダース上院議員に首位を奪われた。

 クリントン氏の人気低下の主因は、今年3月に発覚した、国務長官在任中に私用メールアドレスを公務に使っていた問題である。クリントン氏は、送受信したメールに国家機

密情報は含まれていなかったと説明してきた。だが、米連邦捜査局(FBI)が調査を始め、一部メディアが「機密を含むメールがあった」と報道し、共和党が追及姿勢を強めている。クリントン氏自身は、司法省の情報保全に協力し、この問題について10月下旬の議会証言に応じるなど、疑惑を晴らすことに自信を示している。しかし5カ月近くもこの問題の報道と共和党の追及が続いたため、クリントン氏の好感度は低下し続けている。大統領選本選での一騎打ちを想定した世論調査でも、最近はクリントン氏とジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、マルコ・ルビオ上院議員が接戦になっている。


◇悩み深い民主党


 クリントン氏が思わぬ苦戦となるなか、民主党内で同氏以外に有力候補がいない情勢に懸念が生じている。早期にメール問題の幕引きができなかったクリントン陣営の対応に

党内で不満が募り、「同氏が窮地に陥りかねない」との声が出てきた。

 かといって、党内支持率が2位で人気上昇中のサンダース氏も、とても本命候補にはなり得ない。自称「社会主義者」の同氏は、党内左派への支持拡大が限界であり、同氏を支持する人種も白人に偏る。非白人の支持は、クリントン氏に集中している。

 こうした情勢のなか、民主党の一部では、バイデン副大統領の擁立論が浮上。8月下旬の世論調査では、バイデン氏の支持率が2割近くに上昇した。同氏自身も、民主党関係者と出馬を検討中であり、9月中に決断する意向を示した。

 だが、バイデン氏が出馬を断念する可能性は十分あるし、出馬してもクリントン氏が指名争いから降りなければ勝算は低い。バイデン氏は、5月に長男のボー・バイデン氏を脳腫瘍で亡くしている。長男は父の出馬を望んでいたと言われるが、バイデン氏は「今は心も魂も傷ついている」と述べ、決断の遅れに理解を求めている。過去に出馬経験があり、選挙戦の過酷さを知るバイデン氏は、「出馬には全身全霊をささげる必要がある」とも述べているため、出馬を断念する可能性は十分にある。

 仮にバイデン氏が出馬を決断しても、指名争いを勝ち抜くために必要な選挙資金と組織の準備では、クリントン氏が圧倒的にリードしている。民主党の初回のテレビ討論会が10月に迫るなか、選挙準備をほとんどしていないバイデン氏が今から出馬しても勝ち目はないと断言する有識者も少なくない。バイデン氏自身もよく分かっているだろう。

 ここまで時間をかけて出馬を検討しているバイデン氏が、勝算もないまま、出馬に踏み切るとは考えにくい。出馬するのなら、クリントン氏の私用メール問題が深刻であり、選挙戦の継続に耐えられないとバイデン氏が判断する時だろう。その意味では、民主党にとって来年の大統領選は、バイデン氏が出馬しても断念しても、本命候補がクリントン氏しかいない現状とあまり変わらない苦しいものになると思われる。