2015年

9月

15日

特集:マイナンバーがやって来る! 所得、資産は丸はだか? 2015年9月15日特大号

◇預金口座と個人番号ひも付け

◇申告漏れの捕捉・徴税強化


村田顕吉朗/高山弥生

(村田顕吉朗税理士事務所税理士)


 ◇申告漏れの捕捉・徴税強化


 確定申告など税務の手続きで、マイナンバーの利用が2016年1月から始まる。また、預金口座にマイナンバーをひも付けるマイナンバー法改正によって、18年からは銀行から任意でも預金口座にマイナンバーの記入を求められ、銀行には預金口座の情報をマイナンバーで管理する義務も課される。預金口座へのマイナンバー記入は義務化される日も遠くなさそうで、税務当局による納税者の「所得」「資産」の把握の強化が進む。今後、税務調査などはどう変わるのかを考えてみた。


 ◇副業はバレやすくなる?


 就業規則で副業を禁止している会社は多いが、残業代もカットされるこのご時世、アルバイトなど、会社に内緒で副業を持っている人もいるだろう。マイナンバー制度が導入されれば、会社に副業はバレやすくなってしまうのだろうか。結論から言えば、マイナンバーが導入される前でも、副業が会社にバレる可能性はすでにある。ただ、マイナンバーが導入されれば、バレる可能性はいっそう高まると言えるだろう。

 副業が会社にバレるきっかけは、毎年5月ごろに市区町村から会社に通知される住民税の「特別徴収額」にある。住民税は前年の所得額から計算され、毎月の給与から天引き(特別徴収)されている。この特別徴収額は給与明細にも記載してあるので確認するといい。この特別徴収額が、会社が支給する給与から考えられる税額よりも多額になっている場合、経理担当者や税理士から副業を疑われる可能性がある。

 このような事態を避けるには、確定申告の際に副業の所得に関して、住民税の納付方法で「普通徴収」を選択する必要がある。普通徴収とは納税者が直接、金融機関などから納付することで、納付書は会社ではなく納税者の自宅に直接送られるようになる。税務署にとってみれば、副業が会社にバレるかどうかにはさしたる関心はなく、きちんと申告・納税さえされていれば何の問題もない。

 ただし、この方法が通用するのは、副業が給与所得以外の所得(不動産所得、一時所得、雑所得など)の場合に限る。受け取っている収入が雇用契約に基づかない「報酬」であれば雑所得として申告可能だが、アルバイトなど雇用契約による「給料」であれば、「給与所得」として住民税はすべて合算され、主たる勤務先の給与から住民税が天引きされる。副業先からどのような名目で収入を得ているかがポイントだ。


 ◇無申告、偽名もバレる?


 マイナンバー導入によって影響が大きいと考えられるのは、副業も含め「給料」として受け取っている所得の無申告だろう。また、ホステスの報酬や原稿料、講演料などは、いくら「給料」でなくとも、支払い元の事業者が税務署に「支払調書」を提出しなければならない。こうした支払調書には16年1月以降に支払われる報酬から、支払い先の個人のマイナンバー記載が義務となる。給料や報酬が支払われているにもかかわらず所得の申告のない個人は、マイナンバーの導入によってあぶりだされやすくなる。

 また、素性を知られたくなかったり、入社時の年齢制限に合致させるため、名前や年齢を偽っている場合もあるだろう。しかし、16年1月以降は給料や報酬の支払い元がマイナンバーを支払調書に記載するため、マイナンバーの通知カードと運転免許証などによって番号確認と身元確認をしなければならなくなる。例えば水商売などの場合では素性を明かしたくないという理由でやめる女性も出てくるかもしれない。また、偽名を使って所得の申告を免れていた人も、今後は無申告を続けることは難しくなるだろう。

 無申告を税務署から指摘された場合、本来の納税額に加え、50万円までは15%、50万円を超える部分には20%の無申告加算税が課せられる。また、刑事罰も「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」、故意に税を免れる意思があった場合には「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科」が科せられる。税務署が個人の所得を捕捉する動きは強まっており、無申告には今後、特に厳しい姿勢で臨んでくるだろう。

 それでは、支払い元の事業者に支払調書の提出義務がない収入の場合はどうだろうか。例えば、ブログへのアフィリエイト(成功報酬型)広告や、動画サイトでのチャンネル運営による広告収入といった事業所得のケースだ。この場合、広告料を支払う事業者には支払調書の提出義務はなく、マイナンバー導入後もただちに収入が捕捉されることはない。しかし、税務当局がインターネット取引などに目を光らせている現在では、事業者への税務調査によって無申告がバレる可能性が高い。

 うっかりしやすいのが「非上場株式の少額配当」だ。定められた額以下の少額配当は、確定申告不要制度を使えば、源泉徴収のみで済ませることができる。しかし、源泉徴収されるのは所得税(20%)のみで、住民税は別途申告が必要だ。マイナンバー導入後は配当の支払調書にもマイナンバーが記載(当初3年間は記載が猶予)されるため、その情報が市区町村まで提供されるとなれば、住民税の申告をしないでいると配当所得を捕捉した市区町村から「お尋ね」が来る可能性がある。配当には農業協同組合や信用金庫への出資の配当も含まれることに注意したい。

 また今後、預貯金口座にマイナンバーがひも付くと、無申告の所得を管理している隠し口座の情報を、税務署が何らかのきっかけで把握する可能性が高まる。申告されている所得以外に多額の入金が続くような口座があれば、税務署は無申告を疑って調査対象としてくるだろう。


 ◇金の売却益、馬券の配当は?


 金の価格が高騰した00年代後半、多額の売却益が無申告となっていたことが分かり、大きな問題となった。これを受け、12年から新たな法定調書制度がスタートし、専門の取引業者が200万円超の金地金を買い取った場合、業者側には氏名、住所など購入先についての調書を税務署に提出する義務が課せられた。この調書制度の効果はてきめんで、税務署が金の譲渡所得を捕捉しやすくなったことで、申告漏れの指摘の件数は増加の一途をたどっている。

 ただ、金の売却益は原則として、年間50万円以下であれば税負担は発生しない。そうすると、50万円超~200万円以下の売却益が無申告でも、いまだ十分に捕捉されていない可能性が高い。また、現時点では金地金の買い取りに伴う法定調書へのマイナンバー記載義務は猶予されており、マイナンバー導入後も無申告が十分に捕捉されていない状況がすぐに変わるとは考えにくい。

 しかし、マイナンバーの導入目的の一つは税負担の公平化にあり、その利用範囲は拡大していく方向だ。そのため、金の売買時に金額にかかわらずマイナンバー提示が求められ、それが法定調書として税務署に提出されるよう制度が変われば、金の売却益はすべて税務署に捕捉されてしまうことになる。

 馬券の配当も同様だ。馬券の配当は基本的に一時所得に該当し、利益が年間50万円以上になると申告が必要になってくる。ただ、現在は馬券配当の支払い時に誰に支払ったかを税務署に通知する調書制度は存在せず、税務署側にとっても馬券配当の捕捉は困難だったといえる。そのため、金の売買時と同様に今後、馬券の高額配当の支払い時にマイナンバーの活用が検討されてもおかしくない。高額配当の一時所得の把握がこうして可能となるのであれば、パチンコ・パチスロなども同じように考えることができるだろう。


 ◇相続税申告はどうなる?


 相続税の申告でも16年1月以降に開始した相続から、相続人のマイナンバーを申告書に記載することが必要になる。相続税の税務調査では、申告書に被相続人(亡くなった人)の財産がすべて計上されているかを確認する手法は、実はかなり手間がかかり、税務調査官の力量に負うところが大きかった。税務署が最も相続税の申告漏れを警戒するのは現預金だが、隠し口座がないかどうか被相続人や相続人の自宅近くの銀行支店に網羅的に照会をかけたり、自宅の調査で申告書に載っていない金融機関のカレンダーやメモ帳がないかを探していた。

 ただ、最近ではインターネット銀行を利用する人が増え、自宅近くの銀行支店の照会ばかりでは必ずしも隠し口座を捕捉することが難しくなっている。ネット銀行はカレンダーなども配布しないため、自宅に手がかりも残りにくい。さらに、自宅から遠く離れた銀行支店に口座があるような場合も、税務署がその存在を把握しきれないことがたびたび指摘される。しかし今後、マイナンバーが預金口座にひも付くと、全国の金融機関にマイナンバーで照会をかければ、容易に口座情報が得られるようになる。

 一方、相続税の申告の際、被相続人が生前、どれほどの財産を持っていたのか、相続人ですら把握しきれないこともままある。しかし、マイナンバーは本人以外は利用できないため、相続人であっても税務当局のように被相続人のマイナンバーを使って金融機関に照会することができない。相続人が持ちうる情報を使ってきちんと申告したつもりでも、マイナンバーを使って調査ができる税務署から申告漏れを指摘される可能性がある。

 財産を残す側としては、エンディングノートや遺言書を残すなどして、生前に自らの財産を把握・整理しておくことが欠かせない。

 贈与税の申告はどうだろうか。贈与税は本来、年間110万円を超えて財産を受け取った場合に課税されるが、税務署にとっては贈与税の申告がない限り、その捕捉は極めて困難だった。また、子や孫の教育のためのお金をその都度渡していたり、扶養義務の範囲で生活費を渡すことも贈与税の課税対象には当たらないため、贈与税を課税するのが簡単ではないという事情もある。過去の贈与が問題となるのは相続税の申告時であり、税務署は過去に贈与税の申告がなかったことを理由に、名義上は相続人の財産であっても実質的に被相続人の財産である(名義預金)などとして、相続税の申告漏れを指摘する形で徴税してきた。

 ただ今後、マイナンバーが預金口座にひも付けば、被相続人だけでなく家族全体の預金口座の把握も容易となり、口座間の資金移動も調査しやすくなることが予想される。何らかのきっかけで親族間の多額の資金移動を捕捉されれば、贈与税の無申告を疑う税務署から、事情を問う「お尋ね」文書が届く日が来るかもしれない。


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編集:エコノミスト編集部

発売日:2015年10月17日

配信日:2015年10月17日

ISBN:978-4-620-32343-5

定価:本体800円(税別)

判型:新書サイズ

頁数:144頁


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