2015年

9月

15日

特集:マイナンバーがやって来る! 難しい収集・廃棄 2015年9月15日特大号

◇「本人確認」「利用目的の特定」…

◇工夫しなければコストが発生


松本 祐徳

(社会保険労務士松本力事務所代表)


 マイナンバーは今年10月中旬以降、日本国内に住民票を有するすべての人に対して、住所地の市区町村から「通知カード」が送られる。制度が施行される来年1月1日からの運用に間に合わせるために、従業員や扶養親族などのマイナンバーを事前収集しようとしている企業も少なくない。しかし、マイナンバーの収集・廃棄については、法律で手続きが細かく定められている。全国に出先事業所を抱える大企業にとっては、従業員などのマイナンバーの収集に膨大な負担が予測されるため、効率的な収集の工夫が必要になる。

 マイナンバーは個人情報に該当するため、企業は収集の際、個人情報保護法に基づき、税や社会保障などの分野で特定した利用目的を本人に通知しなければならない。通知方法は口頭では煩雑になるため、利用目的を記した書面によるものが一般的になると想定される。そして、実際に従業員などからマイナンバーの提供を受ける場面では、「本人確認」としてマイナンバーを確認すると同時に、マイナンバーが本当に本人のものなのかどうか、従業員などの身元を確認しなければならない。

 こうした本人確認の方法も簡単ではない。通知カードを受け取った従業員が顔写真やICチップの入った「個人番号カード」を作っていれば、そのカード1枚をもってマイナンバーと身元を同時に確認できるが、来年1月のマイナンバー制度実施前に企業が事前収集しようとしても、個人番号カードは交付が始まっていない。そのため、本人確認には通知カードや住民票に記載されたマイナンバーを確認するほか、運転免許証などで身元を確認する必要がある。


 ◇郵送なら「簡易書留」


 全国に支店のある会社を想定し、マイナンバーの収集を本社が一括で行う場合を考えてみよう。

 会社はまず、マイナンバーの収集対象者を洗い出す必要がある。社内向けにはまず、社員ばかりでなくパート、アルバイト、国内に住民票を持つ外国人従業員も対象になる。社外向けには、個人として事業をしている顧問先の弁護士や税理士、社会保険労務士のほか、外部講師などのマイナンバーが必要だ。自社で株主管理をしている非上場企業なら、個人の株主も対象となる。

 会社がこうした対象者のマイナンバーを収集する方法は、(1)対面、(2)郵送、(3)オンライン──による三つの方法が挙げられる。対面による本人確認が最も安全な方法であるが、勤務地が本社以外の遠隔地である従業員や、「国民年金第3号被保険者」に該当する被扶養配偶者、弁護士など外部取引先の本人確認は、郵送やインターネットに頼らざるを得ないのが実情だろう。

 ここで、郵送による本人確認の場合、担当者以外の目に触れないよう、通知カードと運転免許証それぞれのコピーを封書で送ってもらう必要があるうえ、簡易書留などの追跡可能な移送手段を取る必要があるため、輸送費が膨大になってしまう。例えば、配達状況の追跡が可能な日本郵便の特定封筒郵便物「レターパックライト」(360円)を利用する場合、5000人を対象にマイナンバーを収集すれば、それだけで180万円のコスト負担となる。

 また、オンラインによる本人確認も可能で、遠隔地にいる従業員などが本社まで出向かなくてよいが、通知カードや運転免許証をスキャンしたり写真撮影したうえで画像データとして取り込み、ファイルとして添付したメールを担当者まで送ってもらう必要がある。さらに、情報漏えい事故を回避するため、誤って第三者に送った場合でも画像ファイルを開けないよう、パスワードをかけたりするなど安全対策を講じたシステムを導入する必要も生じる。


 ◇不要な書類は焼却・溶解


 企業のマイナンバー収集作業はこれで終わるわけではない。収集したマイナンバーには、システムにデータ入力するなどの作業が発生する。この場合、企業はマイナンバーを取り扱う場所にパーティション(間仕切り)を設置し、担当者以外の目に触れないような安全管理対策も求められる。また、マイナンバーの事務を取り扱う担当者を決め、担当者以外がマイナンバーを含むシステムファイルを閲覧することのできないよう、アクセス制御するなどの安全管理対策も講じなければならない。

 また、データ入力後は、本人確認のために収集した書類やデータを処分する手間も生じる。郵便によって本人確認書類を返送する場合には再度、追跡可能な移送手段を利用する必要がある。書類を廃棄する場合でも、当然にそのままゴミ箱に捨てるわけにはいかず、焼却・溶解したり、復元不可能な程度に細断可能なシュレッダーを使わなければならない。

 さらに、オンラインでマイナンバーを収集した場合には、専用のデータ削除ソフトウエアを利用したり、データの入ったハードを物理的に破壊するなど、復元不可能な手段を採用する。当然、マイナンバーのデータを廃棄または削除した場合には、その履歴を記録する。外部に委託して焼却・廃棄することも選択肢として考えうるが、新たなコストの発生とともに、その委託業者から「廃棄証明書」を取得する必要がある。

 この収集作業が、自社で完結する企業ならまだいい。アルバイトなど大勢の非正規労働者を雇用する人材派遣業や学校法人、顧客から大量のマイナンバーを収集する金融機関などの場合、マイナンバーの収集作業は外部に委託するケースが想定されるが、収集にかかる料金は1人当たり1500~2000円とも言われている。収集対象者が1万人なら、収集作業のみで1500万~2000万円のコスト負担となる。

 結局、全国に支店があるような企業では、マイナンバーの収集を本社一括で実施するのはコストばかりがかかり、現実的な方法であるとは言えない。他にとるべき手段としてお勧めしたいのは、出先事業所の責任者などをマイナンバーの「事務取扱担当者」に選任し、事業所内の収集業務を委託する方法である。この方法なら、従業員はすべて対面で本人確認できるため、最も安全で低コストになる。収集したマイナンバーは、まとめて簡易書留で郵送したり、事務取扱担当者が直接システムに入力すればよい。


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 ◇扶養親族の収集方法 「本人確認」を従業員に


 税や社会保険の手続きでは、従業員ばかりでなく配偶者など扶養親族のマイナンバーを取得する必要もある。このうち、「扶養控除等(異動)申告書」や「健康保険被扶養者(異動)届」などの書類では、従業員自身が民間事業所と同様にマイナンバーを収集する「個人番号関係事務実施者」に該当するため、企業は扶養親族などの本人確認を従業員に行わせることで足りる。問題となるのは、従業員の配偶者が新たに扶養親族となる「国民年金第3号被保険者関係届」の場合だ。配偶者本人が事業者に届け出る手続きのため、事業者が配偶者を直接、本人確認する必要が生じる。

 ただし、事業者が配偶者に関する本人確認を従業員に行わせる方法はある。それは、従業員を代理人にする方法と、従業員に本人確認を委託する方法である。代理人にする方法の場合、(1)従業員の代理権を証明する書類(委任状)、(2)代理人の本人確認、(3)配偶者のマイナンバー──の3点が必要となる。一方、従業員に委託する方法なら、事業者が従業員と委託についての合意書類を残したうえで、事業者は従業員に配偶者に対する本人確認を委託することになる。この方法が最も現実的だ。

 従業員などがマイナンバーの提供を拒否した場合は、どのように対処すればいいだろうか。従業員がマイナンバーを提供拒否しても罰則はないが、事業者は従業員にマイナンバーの提供は義務であることを伝え、提供を受けられなかった経緯を記録しておく必要がある。また、マイナンバーの提供を受けられなかった書類を行政機関に提出した際、行政機関は企業からの申し出によって、自治体が共同で運営する「地方公共団体情報システム機構」からマイナンバーを含む本人確認情報の提供を受け、提供を拒否した本人のマイナンバーと身元確認を同時に行うことができる仕組みになっている。

(松本祐徳)



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編集:エコノミスト編集部

発売日:2015年10月17日

配信日:2015年10月17日

ISBN:978-4-620-32343-5

定価:本体800円(税別)

判型:新書サイズ

頁数:144頁

 

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