2015年

9月

22日

世界がおびえる中国と利上げ:習近平政権の「非常事態」2015年9月22日特大号

 ◇天津爆発で混沌とする次期政権構想


金子秀敏

(毎日新聞客員編集委員)


 中国経済が「新常態」と呼ぶ低成長時代に入り、政治も不安定さが増した。特に8月12日、天津で危険物倉庫の大爆発という非常事態が起きて社会不安も高まった。

 大爆発は「北戴河会議」の最中に起きた。北戴河会議は河北省の避暑地、北戴河に党や軍の高官、長老が集まって開く権力者の談合だ。今年秋の「5中全会」(党中央委員会第5回総会)では2017年の党大会で選出する次の政治局メンバーの候補者を絞り込むがその前に、長老たちの承認がいる。


 ◇「首切りリスト」


 大爆発当日は習近平政権発足1000日の記念日で、『人民日報』は祝賀記事を掲載した。その深夜、天津の経済開発区「浜海新区」の危険物倉庫からキノコ雲が上がり、違法集積された700トンの青酸化合物が飛び散った。天津は高速鉄道で北戴河から1時間なのに、党政治局常務委員(常務委員)で現場に姿を見せたのは李克強首相だけ。しかも4日後だった。

 天津市の黄興国市長が会見に姿を見せたのは、なんと1週間も後。天津の党委書記は欠員で、中央委員の黄市長が書記代理だった。黄市長は習総書記が浙江省党委書記時代の腹心で、習近平派のホープ。しかし記者会見に出ると「逃れられない責任がある」と謝罪し、失脚の可能性を認めた。

 ネット上では爆発の夜、習主席ら常務委員7人は天津市内で秘密会議を開いていた、それを狙った政治テロだという臆測が流れている。根拠のない流言飛語と言い切れない。7月発行の香港の情報誌『動向』に、「今年は北戴河で会議が開けず、一部の秘密会議だけ天津の浜海新区で開く」と書かれていた。会議場は爆発現場からさほど離れていない。

 8月5日『人民日報』のコラムが「待っても無駄。北戴河で会議はない」と書いた。習総書記は、5中全会の議題について北戴河で長老の承諾を得られないと判断して現役常務委員だけを天津に集めて極秘会議を開いたが、その情報が漏れていたとすると習近平政権は極めて不安定な状況にある。

 人民日報コラムは、婉曲(えんきょく)に秘密会議開催を漏らしたことになる。爆発事件後、「人民網」の正副会長が党中央紀律検査委員会(紀律委)に連行された。女性の副会長が人民日報社長の愛人のひとりだという情報もあるが、紀律委の真の狙いは、人民日報と党中央宣伝部(宣伝部)を握っている江沢民派の常務委員、劉雲山・中央書記処常務書記(常務書記)であるという。宣伝部系統の情報漏えいと疑っている。

 習総書記が天津に移動して会議を開いたとすれば、原因は6月末の党中央政治局会議で決めた「能上能下(昇進と降格)に関する新規定」だ。現職の常務委員、政治局委員でも政治局が無能、不適任と判断した者は解任できるという、人事独裁の規定だ。

 しかも新規定には、極秘の降格候補者リストがついていたという情報が流れている。そのリストには、政治局委員の劉奇葆・宣伝部長のほか、「複数の常務委員」の名前が並び、その1人は張高麗・筆頭副首相、もう1人は劉雲山・常務委員だといわれている。2人とも江沢民派の大物だ。

 首切りリストを本当に作ったのか。北戴河会議に劉雲山直系の劉奇葆宣伝部長が健康を理由に欠席したことは事実らしい。「能上能下」によって、習総書記派と江沢民派が対立状態になったのは間違いない。


 ◇内部抗争が激化


 いま「能上能下」にかかわる最重要人事は、空席の天津市党委書記の補充人事だ。昨年、令計画・党中央統一戦線部長(統戦部長)をトラ狩り運動で打倒した習総書記は、政治局委員の孫春蘭・天津市党委書記を統戦部長に異動させた。中央直轄市である天津市の党委書記は政治局委員のポストで、中央委員の黄興国天津市長が書記代理となったまま空位になっている。

 黄市長は、習総書記の浙江省時代に仕えた部下だ。習総書記は旧友や、福建省長時代、浙江省と上海の党委書記時代の部下を抜てきして「習近平軍団」作りを急いできた。黄市長はその1人。

 黄市長が、政治局委員ポストの天津市党委書記になり、残り2年の任期をこなせば、次の党大会では2段跳びで常務委員に昇進することが可能。そうなれば習総書記が引退する5年後の党大会で習総書記の後継総書記になる道が開けるのだ。習総書記も直系の後継者を決めることで、院政の道が開けることになる。