2015年

9月

29日

ワシントンDC 2015年9月29日号

 ◇収監受刑者の増加で刑事司法制度を改革


三輪裕範

(伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)


 大統領制の米国では、日本や英国のような議院内閣制の国と異なり、所属議員に対する政党の拘束力があまり強くない。そのため以前は、各議員が所属する政党の見解から離れて、議員独自の考えに基づき投票することが多かった。特に外交や安保問題など、国家の存立に関わるような重要問題については、政党の枠を超えた超党派行動をとることが少なくなかった。

 それが近年は、民主、共和両党間のイデオロギー対立が極めて先鋭化し、2大政党間の非妥協的な対立姿勢が強まっている。今や、かつてのような超党派活動を議員に期待することは、ほぼ不可能な状況になっている。

 しかし最近、あるテーマについて、古き良き時代を彷彿(ほうふつ)とさせる超党派活動が見られるようになった。それは、刑事司法制度に関する改革だ。特に、連邦刑務所で受刑者数が急増したことを大きな社会問題として、超党派で取り組み始めている。

 連邦刑務所に収監されている受刑者数は、1980年以前には約2万4000人だったものが、2013年には約21万6000人と約9倍に増加しているのだ。

 いったい、なぜこれほどまでに連邦刑務所の受刑者数が急増したのだろうか。その要因の一つは、ビル・クリントン大統領が94年に成立させた法律だ。この凶悪犯罪取締法によって、確かに犯罪率は大幅に下がった。だが一方で、麻薬犯罪など比較的軽微な犯罪者まで刑務所に収監するようになったため、受刑者数が急増したのである。

 もちろん、当時は、凶悪犯罪が急増し、より厳しい犯罪取り締まりに対する強い社会的要請があったので、その後の受刑者増大の責任をクリントン一人に負わすことはできない。しかし、この法律が、当初の想定をはるかに超える受刑者数を生み出したこともまた事実だ。今ではクリントン自身が、この法律に行き過ぎがあったと認めている。


 ◇オバマ大統領が後押し


 民主、共和両党の議員は今年に入り、こうした連邦刑務所の受刑者数の急増問題を中心に、刑事司法制度改革への取り組みを、断続的に話し合ってきた。そして最近、この動きがとみに加速してきたのだ。

 そのきっかけとなったのは、7月16日にオバマ大統領が、現職大統領として初めて、オクラホマ州リノにある連邦刑務所を訪れたことである。オバマ大統領は、自分も若いころにマリフアナやコカインに手を出した経験があることを引き合いに出し、「一歩間違えば、自分も大統領としてではなく、受刑者として、この刑務所にいたかもしれない」と述べるなど、この問題の解決を強く訴えた。

 こうしたオバマ大統領の訴えもあってか、共和党のベイナー下院議長も、この取り組みへの支持を表明。また、この問題での法律改正に強く反対してきた共和党のグラスリー上院司法委員会委員長も、関連する超党派の議案を、司法委員会で取り上げる意向を示した。

 このように、近年では珍しく、超党派で問題を解決していこうという機運が高まっている。

 もちろん、銃規制、妊娠中絶、移民、環境規制、社会保障など、数多くの社会問題で民主党と共和党の意見が真っ向から対立している現状では、かつてのような超党派活動が、すぐに戻ることは期待できないだろう。

 しかしながら、議会や政党の機能不全に対する国民の怒りが頂点に達している現在、こうした超党派活動復活への期待は、日増しに高まっている。