2015年

9月

29日

第5回 福島後の未来をつくる:高村ゆかり 名古屋大学教授 2015年9月29日号

 ◇たかむら・ゆかり

 1964年島根県安来市生まれ。京都大学法学部卒。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。龍谷大学教授などを経て2011年から現職。専門は国際法、環境法。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

 ◇原発稼働と無関係に必要な再生エネ

 ◇変動性の大きさは欠点ではなく特質


高村ゆかり

(名古屋大学教授)


 原子力発電所の稼働について、「原則40年」と定めた原子炉等規制法のルールを順守すれば、建設中の原発3基を除く既存の原発43基は2050年には全て運転を終えることとなる。

 原発の稼働には、新規制基準に基づく原子力規制委員会の厳しい審査をパスし、地元の同意を得る必要もある。そのために必要な費用を考えると、電力会社の経営判断として、この40年を待たずに原発の稼働を止めることだってあり得る。



 福島事故後の経験からも分かるように、国内のエネルギーを原発に大きく依存することは、何かトラブルが生じた時などには深刻な問題を生じかねない。化石燃料をたき増しして対応すれば、エネルギー自給率も下がり、燃料費負担の上昇とそれに伴う電力料金の上昇、温室効果ガス排出量の増加につながる。

 将来にわたって原発をどうすべきかは、国論も二分しており、十分な国民的議論が必要だ。しかし、原発をゼロにするにせよ、使い続けるにせよ、原発に代わり得る「国産」の電源を確実に確保する施策を今、着実に進めておかなければならない。


 ◇なお拡大の余地


 福島事故後に浮き彫りになった日本の電力・エネルギー体制の課題の一つが、地域縦割り・地域独占を基礎にしたこれまでの電力供給システムの脆弱(ぜいじゃく)さである。この課題を克服するうえで重要な取り組みが、電力小売りや発電の自由化など電力システム改革とともに、地域分散型のエネルギーシステムへの転換だ。そしてこの地域分散型エネルギーシステムには再生可能エネルギーが不可欠だ。再生エネは、比較的小規模で、消費地に近いところで発電したり、住民の参加や創意工夫によって地域内で自立的に電力の需給を管理したりできるためである。

 なかでも太陽光は、立地制約がなく、日本のどこででも、住民・需要家の身近に導入できる強みがある。災害など緊急時には地域で必要なエネルギーを供給できるため、地域の災害に対する抵抗力や回復力などのレジリエンス(強じん性)強化にも貢献する。これからのまちづくりの要となる温室効果ガス排出ゼロのゼロエミッション型の建築物(ZEB)や住宅(ZEH)を担うエネルギーでもある。

 政府は30年時点の望ましい電源構成(エネルギーミックス)において、太陽光のシェアが7%との見通しを示した。しかし、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で今まで認定された設備が全て稼働すればすでにこれを上回る。風力の見込みも1・7%にとどまるが、風力発電協会は8%超の見込みを示している。太陽光、風力とも、政府見込みを上回る積み増しが可能だし、積み増す必要があるだろう。

 政府の太陽光や風力の導入見通しは、FITを通じた再生エネ電力の買い取り総額について30年度に約4兆円と想定したうえで、バイオマスや地熱など他の再生エネ導入に必要な買い取り額を差し引いた残りの買い取り額を基に導入量を見込んでいる。また、発電コストが国際価格の水準まで下がらないことが想定されており、その分、導入支援のための買い取り額が割高に見積もられている面がある。そのため、このコストを低減できれば、太陽光や風力の導入量はもっと増やすことができる。

 で示したように、住宅用太陽光はすでに発電コストが電力料金の水準に近づきつつある。早晩、豪州などのように、FITがなくても普及が進む状況になっていくだろう。

 発電コストが電力料金を下回ると、電力会社から電力を買うよりも、発電した電力を自身で使ったほうが経済的ということになる。それまでの間は、例えば一定規模以上の建物に太陽光の設置を義務付けるなど、自家消費を奨励し、自立的な普及期へうまく導く支援戦略が必要だ。

 ここで、FITを巡る重要な論点の一つが賦課金負担だ。賦課金は、電力会社による再生エネの買い取り費用の一部を家庭や企業が使用した電力量に応じて電気料金の一部として支払うものである。15 年度の負担総額は1兆3000億円前後に上るとされ、「高すぎる」との批判もある。

 この負担を下げる努力はもちろん不可欠だ。ただし、30年を超える時間軸で考える必要がある。賦課金の負担の大半を占めるのがFIT導入当初に認定された太陽光の賦課金である。これらの太陽光の買い取り期間が終わる32年ごろを超えると、再生エネの賦課金負担は大きく低減する見込みだ。そして、買い取り期間が終了した後の発電設備は、設備投資の回収が終わって安価な電気を供給してくれる純国産電源となる。その意味では将来世代のための貯金と言うこともできる。

 日本ではかつて石炭から石油、石油から原子力へと、将来を見越して「あるべき」エネルギーシステム転換のために政府主導で大きな投資を行ってきた。賦課金の負担も、将来のあるべき電力システム=社会インフラを構築するために必要な「投資」として捉えるべきではないか。

 太陽光や風力の普及を進める上で課題として指摘されるのは、天候などの自然条件によって発電量が左右される「自然変動性」だ。欧米も、中国やインドなど新興国も、太陽光や風力の自然変動性を「欠点」ではなく、「特質」と捉え、むしろそのポテンシャルの大きさを生かす技術開発や対応策に注力している。日本もその特質を踏まえてどう伸ばすかを考えるべきだ。


 ◇変動性は広域的にカバー


 こうした特質を持つ再生エネの導入をさらに拡大するには、拡大する発電量を受け入れられるようにするために送配電網の増強が必要だ。そしてそれ以上に、現在十分活用されているとは言いがたい地域間の連系を一層活用し、全国の系統(電力ネットワーク)を広域的に運用する必要がある。

 また、再生エネの変動を火力で調整するだけでなく、揚水発電や水力、バイオマスなど再生エネやコージェネレーション(熱電併給)による調整も検討すべきだ。

 同時に、日本は、再生エネを、急速に拡大する世界市場にアプローチするための産業政策として位置づけるべきだと考える。国際エネルギー機関(IEA)などによると、世界的なエネルギー需要の伸びや温暖化対策としての要請などを背景に、世界の再生エネに対する投資額は14年に前年比15・7%増の3100億㌦(約37兆円)に達した。今後も14?35年の20年間で計9兆㌦(約1000兆円)の投資が見込まれる。

 世界知的所有権機関(WIPO)によれば、太陽光や風力、太陽熱、バイオ燃料の再生エネ関連技術の特許保有件数世界上位20社のうち、パナソニックや三菱重工業など日本企業が実に12社を占めている。日本企業にとって、こうした強みを生かさない手はない。企業の技術力や国際競争力を高めるうえでも国内市場の育成は必要だ。再生エネ政策に産業政策としての視点をもっと入れ込むべきだろう。