2015年

9月

29日

経営者:編集長インタビュー 森田耕太郎 サカタインクス社長 2015年9月29日号

 

 ◇機能を「塗る」無色透明インキの開発に取り組む



 新聞印刷向けインキ会社として1896(明治29)年に創業。2015年3月期の売上高は1465億円、経常利益は93億円で、インキ売上高では国内3位につける。新聞印刷のほか、雑誌やカタログなどのオフセット、商品包装フィルム用のグラビア、そして段ボールなどに印刷するフレキソの4分野の印刷インキを手がける。

── 売り上げの半分を海外で稼いでいます。

森田 北米、欧州、アジアなど16カ国で展開しています。海外で最も売り上げが大きいのは北米で、当社の売り上げの26%を占めます。北米は景気回復にあわせてインキ需要が拡大中です。ウィスコンシン州の工場がフル稼働状態のため、今年2月に第2工場を新設しました。

 

 海外では日本国内で扱っていないアルミ缶用のインキも生産しています。米国で9割以上、世界でも6割前後のシェアです。もともとは買収した米国の会社が持っていた技術です。ニッチな市場のため撤退するメーカーが多いのですが、缶飲料が普及していない国では伸びしろがあります。

── 売上高で世界4位です。拡大の転機は何でしたか。

森田 1970年代に東南アジア、88年に米国へと進出したことに尽きると思います。米国では当時、4番手、5番手だった企業を買収しましたが、買収後の経営は容易ではありませんでした。買収先は主たる企業だけでも3社。各社とも企業文化が異なるので、最初の10年間は大変でした。


 ◇アジアでは新聞向けが拡大


── アジアでの展開は。

森田 インドネシア、インド、ベトナム、マレーシア、中国、フィリピン、タイ、台湾の八つの国と地域で、輸出から始めて、現在は各地に工場を持っています。売り上げ規模が大

きいのは70年代に進出したインドネシア、伸びが大きいのはインドやベトナムです。

── 好調な分野は何ですか。

森田 先進国では減少傾向にある出版・広告向けインキがアジアでは伸びています。新聞印刷用インキ市場の年間消費量は、07年は日本約6万㌧、インドは3万㌧でしたが、14年には日本は約4万8000㌧に落ち込み、インドは8万㌧超に拡大しました。

 フィルム・パッケージ用のグラビアインキの需要も拡大しています。新興国では生活レベルの向上にあわせて商品パッケージがよりカラフルになるなど、国の成長に比例してインキ市場も広がっていると感じています。

── 日本のメーカーが世界トップ10社のうち5社を占めるなど、インキは日本が強い産業です。

森田 もともと日本やドイツで印刷機メーカーが発展し、付随する形でインキ産業も発達してきました。薄さ1?の薄膜で印刷物を仕上げるので、細かな仕事を得意とする日本の技術が生かされる分野です。

 印刷用のインキはグーテンベルクが活版印刷機を発明した15世紀からありますが、現在も新しいインキの開発が続いています。印刷機械のスピードが上がり、高速できれいに印刷できるインキが求められるようになってきました。

 より薄い紙に印刷する技術の開発も進んでいます。色を濃く、きれいに、それでいて裏側に透ける「裏抜け」がないように、また紙を重ねた時に触れる面に転写しないインキを追究しています。


 ◇機能性材料に着目


── 昨年3月、滋賀県米原市に新工場を新設しました。

森田 11年の東日本大震災をきっかけに事業継続計画(BCP)を意識して、西日本の生産体制の強化を図ろうと工場を新設しました。

 新工場では、将来当社の柱の一つにしたいと考えている機能性材料事業に取り組みます。産業用インクジェットプリンター用インキの生産などです。産業用インクジェットは、液晶テレビの画面用顔料のほか、百貨店の垂れ幕やラッピングバスなど大型構造物、衣料品や壁紙などあらゆる分野で利用されています。高級ブランドのネクタイもインクジェットが使われることもあるんですよ。

── これからの課題は。

森田 世界のインキ市場は160億㌦規模で、今後5年で200億㌦になるとも言われています。ただ、先進国では紙媒体の印刷需要は減少しています。レコード針やカメラ用フィルムと同様に、将来的には社会からなくなるのではないかという危機感があり、新たな事業分野の育成に取り組む必要性を感じています。

 現在取り組む新領域の一つが、顔料をナノサイズに分散する技術です。すでに実用化されているものでは、食品包装において、ミクロンサイズのフィルムにコーティング剤を塗ることで酸素の透過性を低くして中の食品の酸化を抑えたりするのに利用されています。光の透過性を高めたり、反対にUV(紫外線)をカットする材料もあります。

 いわば、色ではなく機能をつける無色透明のインキです。新しい事業分野を育てるには最低10年はかかります。地道に育てていかなければなりません。


(Interviewer 金山隆一・本誌編集長構成=花谷美枝・編集部)


 ◇横 顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米シカゴの買収先企業に赴任しました。当時一緒に仕事をした現地企業の担当者たちは今、現地法人の経営幹部になっています。同世代の彼らは戦友のような存在です。

Q 最近買ったもの

A エスプレッソマシンを買いました。コーヒーが好きなので。

Q 休日の過ごし方

A 本を読んだり、家族サービスとして食べ歩きをすることもあります。


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■人物略歴


 ◇もりた こうたろう

1955年、京都府生まれ。京都教育大学付属高校卒業。京都工芸繊維大卒業後、79年阪田商会(現サカタインクス)入社。研究開発本部第一研究部長を経て、09年6月THE INX GROUP LIMITED 取締役社長(現)、13年6月から現職。59歳。