2015年

10月

06日

ワシントンDC 2015年10月6日号 

フラナガン容疑者が自殺した現場に駆けつけた警官ら(UPI=共同)
フラナガン容疑者が自殺した現場に駆けつけた警官ら(UPI=共同)

 

 ◇生中継中の2人を射殺

 銃規制の強化は難しい


及川 正也(毎日新聞北米総局長)


 また痛ましい銃犯罪が起きた。8月下旬の早朝、米南部バージニア州モネータのショッピングセンターで、地元テレビ局WDBJの生中継中に女性リポーターのアリソン・パーカーさん(24)と男性カメラマンのアダム・ウォードさん(27)が、元同局員のべスター・フラナガン容疑者(41)に射殺された。容疑者は車で逃走中に銃で自殺。米メディアによると、同局から解雇されたことへの「逆恨み」が動機とみられている。銃撃現場が生中継されたことで全米が騒然とした。

 米合衆国憲法修正第2条は、「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であり、人民が武器を保有し、携帯する権利を侵してはならない」として、米国民が銃を所持することを認めている。

 新たな国作りを一から始めた米国は、自分の身は自分で守るのが当たり前だった。安全をくまなく提供する連邦や州の警察組織が整わない時代には、自衛団による「民兵」が大きな役割を果たしていた。修正第2条の制定から200年余たつが、その名残はパトカーが頻繁に市内を巡回する今に受け継がれ、銃犯罪社会を生み出している。

 米国では、1999年のコロンバイン高校乱射事件(コロラド州)をはじめ、2007年のバージニア工科大学乱射事件(バージニア州)、12年のサンディフック小学校乱射事件(コネティカット州)など、全米を揺るがす事件が起きるたびに銃規制が叫ばれた。

 銃を使用した殺人事件の数は、年によって増減があり、全体的な傾向としては減少している。米司法省や連邦捜査局(FBI)によると、93年に1万8253件だったのが、13年は8454件まで減った。だが、銃規制は大きくは進展していない。

 13年にはオバマ大統領の求めに応じて、銃の購入審査(バックグラウンド・チェック)の対象をインターネット売買に拡大する規制強化法案が連邦議会に提出されたが、上院が否決した。一方、13年の購入審査件数は2000万件を超え、過去最高水準に達している。銃による殺人事件が減りながらも、万が一の「護身用」として銃購入に走る現実が、銃規制を遠ざける一因になっている。


◇精神不安定でも銃購入


 今回の事件では、フラナガン容疑者が携帯電話で自身の犯行の映像を撮影し、事件後、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に流したり、米ABCテレビに、今年6月のサウスカロライナ州での黒人教会乱射事件に触発されたことを示唆する「告白文」を送付したりするなど、特異な行動をしたことが分かっている。

 怒りを制御できない「アンガー・プロブレム」との関連も指摘された。WDBJや米メディアによると、フラナガン容疑者が解雇されたのは、職場での「攻撃的な行動」が問題視されたからだった。黒人の同性愛者だったという同容疑者は、職場で偏見があったと米雇用均等委員会に訴えたが、同局は否定している。米国では、怒りから職場環境の悪化や暴力事件を避けるための「アンガー・マネジメント」も広く行われており、同容疑者はカウンセリングを勧められていたという。

 同容疑者は必要な銃購入審査に合格し、7月に銃2丁を正規のルートで購入していた。射殺されたパーカーさんの父アンディ・パーカーさんは「彼は精神が不安定だったのに、購入審査をパスしていた。今回こそ違う行動をしてほしい」と銃規制強化の法制定への取り組みを求めているが、残念ながら議員らにその気配はない。(了)