2015年

10月

06日

第6回 福島後の未来をつくる:澤昭裕 21世紀政策研究所研究主幹 2015年10月6日号

◇さわ・あきひろ
 1957年大阪府生まれ。81年一橋大学経済学部卒業、通商産業省入省。資源エネルギー庁資源燃料部政策課長などを経て2007年5月から21世紀政策研究所研究主幹。11年4月から国際環境経済研究所所長。

◇原子力の不確実性と官民分担

政府は真正面から議論すべきだ


澤 昭裕

21世紀政策研究所研究主幹


 政府は今年7月、2030年の望ましい「電源構成(ベストミックス案)」を決め、再生可能エネルギーが22~24%、原子力が20~22%、火力発電が56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)と示した。
 この数値のバランスは、エネルギー政策の目標である「自給率」「電力コスト」「温室効果ガス削減」の三つそれぞれについて、設定された数量目標の同時達成に必要な組み合わせとして提示されたものである。


 原子力を減らして再生可能エネルギーを増やすべきだという意見も出た。だがそうすれば、より割高な電源が増え、国民負担が年間2200億円増加するとの試算が公表された。電力コストを引き下げる目標が達成できないために退けられた。

 他にも電源構成案の検討は可能だが、「自給率・コスト・温室効果ガス削減」の三つの政策目標の同時実現を諦めない限り、日本のエネルギー政策の複雑な方程式は解けないと言ってもよい。

 ◇リプレースは棚上げ状態

 政府が30年の電源構成を決めた結果、原子力は当面の日本のエネルギー政策で必須の電源として再認識されたが、話はこれで終わらない。
 今回の電源構成目標は、14年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画について、より具体的かつ数量的に表現したものという位置付けだ。
 しかし、その基本計画では原子力の活用について、中長期的な展望が明確になっていない。
 この基本計画の策定プロセスで与党協議を経るなかで、原子力発電の新設や、原子炉を廃棄して別の新たなものに置き換える「リプレース」の問題が棚上げされたからだ。
 福島第1原子力発電所事故の後に改正された原子炉等規制法(炉規制法)により、原子炉の運転期間は原則40年に制限された。さらなる安全対策を施せば60年までの延長を認めうる制度だが、実際に認められるかは不透明である。
 しかし、30年での原子力20~22%の実現には、相当数の原子炉の運転期間延長が前提となる。そうなったのは、今回のエネルギーミックスの議論で新設・リプレース問題を正面から議論しなかったためである。
 原子力を日本のエネルギー政策の柱の一つとして維持するなら、早晩、原子力の必要性と持続可能性を徹底的に検討する必要がある。
 エネルギー基本計画は、法律によって3年に1度の見直しが義務付けられている。2年後には14年の基本計画を見直す時期が来る。次回の基本計画では、原子炉の新設・リプレース問題を明示的に取り上げ、一定の結論に達しなければならない。
 なぜなら、原子力は、火力発電などその他の電源よりも巨大なシステムであり、基盤となる技術や人材の維持には、長期にわたる巨額の投資が必要になるからだ。その投資に合理性をもたらす事業環境整備が必須になるが、相当の時間がかかることを覚悟しなければならない。

 ◇三つの不確実性

 原子力を巡っては、三つの不確実性が存在する。
  第一は、政治的・社会的支持が得られるかどうか。第二に、政策的な不確実性がある。電力自由化に伴い、巨額の電源投資に関わる長期的なコスト回収システム (供給原価に利益を上乗せして料金を決める総括原価主義)が廃止される。そのため、新設・リプレースする原子力投資の資金調達や、核燃料サイクルなど官民 共同事業で予定通り進んでいない政策の修正が問題になる。つまり電力会社が将来の事業環境をある程度予見できる計画や制度を官が示さないと、民間側も投資 に踏み切れない。
 第三の不確実性は規制の不確実性だ。改正後の炉規制法は、米国で安全規制の原則の一つとされるリスクに関するコストベネフィット(費用対効果)原則などは考慮されていない。運用の仕方次第では、適切な稼働率が確保できず、原子力発電の事業性に大きく影響する懸念がある。
 次期のエネルギー基本計画の策定プロセスではこうした不確実性の解消に向けた徹底的な議論が必要だ。
 まず、原子力の必要性について、政治的・社会的支持を取り付ける必要がある。
  日本の原子力の必要性を議論するうえでは、平和利用を決めた1950年代にさかのぼって再確認することが必要だろう。当時から現在に至るまで政策決定の ベースには、「日本にエネルギー資源がほとんど存在せず、原則輸入に頼らざるを得ない構造的脆弱(ぜいじゃく)性を少しでも緩和する必要がある」との認識 があるのだ。
 もちろんウランも輸入ではあるが、輸入先の政治的安定性、核燃料サイクルの実現による純国産化の可能性などから、化石燃料の脆弱性に比べれば比較にならないほど安定的なエネルギー源だと考えられた。
 しかし、こうした前提条件は今でも当てはまるのか。
  まず、化石燃料の輸入における安定性分析、化石燃料の供給途絶に対する日本の経済社会の耐久性の数量的分析などをより深く検討するべきだ。そのうえで、原 子力をエネルギー源として維持する際の技術開発・人材育成・設備投資コストと比べ、原子力の将来的なオプション価値を算出する必要がある。
 また、再生可能エネルギーでも同様の分析を行い、それらを比較可能な形で提示してはどうか。
「原 子力は日本にとって必要だ」と述べるだけでは足りない。国民の生活や経済活動に必要な量を確保する「エネルギー安全保障」の観点から、原子力が必須だとい う結論に至れば、発電コストが他電源との関係で競争力が低くなっても、安全保障上の価値を評価することで、原子力事業は維持すべきものになる。
  なお、温暖化ガス削減への貢献も原子力の現代的意義だが、日本のエネルギー事情や社会的な関心の文脈からは、エネルギー安全保障における存在意義がより重 要である。温暖化問題への対処は、原子力の必要性を説明するうえで根拠を補強することにはなるが、それだけによって立つことは難しいだろう。

 ◇官民のリスク分担

 電力自由化と関わる原子力事業環境整備や核燃料サイクルについては現在、政策検討が進行中だ。キーワードは官民のリスク分担である。
  原子力はエネルギー安全保障の主軸とされてきた電源であり、発電を担う民間原子力事業者だけが原子力の事業リスクを負うべきではない。発電をはじめとし て、放射性廃棄物の処理や廃炉などのバックエンドに至るまで、事業の性質や内容によって、官民それぞれのリスク分担の程度や方法は多様なものになるだろ う。
 いずれにせよ、政府は電力自由化を見据えた原子力政策において、問題を分かりやすくかつ総括的に説明する必要がある。
 具体的に は、(1)発電とバックエンド全体を含めた原子力政策全体を俯(ふ)瞰(かん)的・整合的に進める方針を提示する、という政策責任の主体を明確にするこ と、(2)自由競争下の原子力事業のリスクに関わる金融的支援やコスト回収システムの整備、(3)海外関係国や国内の関係自治体への対応、(4)原子力関 連基礎技術・安全関係技術の研究開発体制の再編と予算配分の見直し、(5)原子力の安全規制の根本的な考え方やリスクのマネジメント、また、ゼロにならな い事故のリスクへの対応方法──の5点である。
 次期エネルギー基本計画の策定に向けて、原子力関係者は、その内部で相互に責任やリスクを押し付け合っている暇はない。関係各省、規制委員会、事業者は、安全な原子力利用という共通目的の実現にあたり、建設的な議論を積み重ねる最後のチャンスだと認識する必要がある。