2015年

10月

13日

特集:中国大減速 資源国 アジア危機 2015年10月13日号

◇深刻な資源国・新興国

◇世界不況の予兆か


中川 美帆(編集部)


 中国経済の減速や米国の利上げ観測に端を発し、資源国やアジアを中心とする新興国の景気が悪化している。

 株式市場で、これらを嫌気する動きは顕著だ。9月29日の東京株式市場は、商社や鉄鋼、海運などの資源関連銘柄を中心に売り注文が殺到。日経平均株価の終値は前日比714円27銭安の1万6930円84銭となり、約8カ月半ぶりに1万7000円を割り込んだ。中国経済減速と資源安への警戒感が高まり、投資家のリスク回避姿勢が強まっている。

 株価急落のきっかけは、前日28日にロンドン証券取引所でスイス資源大手グレンコアの株価が30%近く下がったことや、同日発表された中国の工業部門企業利益の落ち込み、神戸製鋼所の業績予想の下方修正などだ。さらに、サウジアラビアの政府系ファンドが最大700億ドル(約8・4兆円)の資金を引き揚げていると海外メディアが報じたことも、投資家心理を悪化させた。

 株式は世界的に売られた。米国株式市場はダウ工業株30種平均の終値が28日に前週末比312ドル78セント安の1万6001ドル89セントと大幅に反落。29日の豪州株式市場では、資源大手のBHPビリトンとリオ・ティントの株価が下落した。


◇歴史的な通貨暴落


 資源国・新興国は今、景気減速と歴史的な通貨安に見舞われている。ブラジルの通貨レアルは年初から対米ドルで40%近く下落。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は9月9日、ブラジルの長期外貨建て債務の格付けを投資対象として「投機的」な水準の「ダブルBプラス」に引き下げ、衝撃が走った。インドネシアは経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」で経済構造が脆弱なことなどから、通貨ルピアは1年間で約15%下落。ブラジルとインドネシアは、景気が悪化するなかで物価が上昇するスタグフレーションに陥っている。 このほかの国でも、「トルコは年内、南アフリカも近いうちに格下げとなるリスクがある」(BNPパリバの藤木智久チーフ債券ストラテジスト)。米有数の資産運用会社プリンシパル・グローバル・インベスターズのジム・マコーガンCEOは「資源に依存するアジアの新興国や南米、豪州、カナダなどの国では、1997年のアジア通貨危機や98年のロシアのデフォルト(債務不履行)のようなリスクに警戒する必要がある」と指摘する。


◇緩和マネーが新興国に流入


 2008年のリーマン・ショックを機に発生した世界金融危機と世界同時不況の対策のため、米国は3次にわたる大胆な量的金融緩和(QE)を実施。これにより「緩和マネー」が膨張し、ドルの借り入れコストが下がった。

 一方、中国は4兆元(当時の為替レートで約57兆円)の財政出動をして経済を支えた。中国経済の成長は加速し、資源国・新興国から中国への輸出が増加。資源価格も上昇した。米国であふれた緩和マネーは、より高い利益を求めて、資源国・新興国に向かった。こうした結果、資源国・新興国はさらに経済成長を遂げ、世界経済を下支えした。

 ただ、この新興国の経済成長は、12年ごろからブレーキがかかり始める。13年5月には、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長(当時)がQE縮小を示唆しただけで、一部の新興国から緩和マネーが流出し、通貨急落や株価下落に陥った。その後、米国がQE縮小を先送りすると、新興国からの緩和マネーの流出は収まり、通貨安・株安も終息した。

 しかし現在、通貨安・株安が再び資源国・新興国を襲っている。米国経済が立ち直り、年内にゼロ金利政策を解除して、利上げする可能性が高まったことで、投資資金が新興国から先進国に逆流し始めたためだ。資金流出懸念が強まれば、経済構造が脆弱な国の通貨は売られやすい。 利上げはドル高をもたらすため、新興国のドル建て債務は増える。みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は「新興国の社債の3~4割程度はドル建てを中心とした外貨建てと見られるため、ドル高が進めば、発行体の債務負担が高まりやすい」という。新興国の社債発行額は、04年の670億ドル程度に対し、14年は約3200億ドルと激増した。一方、「新興国からの資金流出が始まっているなか、15年7~9月期の発行額は激減。リーマン・ショック直後以来の最低水準にまで減少している」(長谷川部長)ため、15年1~9月は約1500億ドルにとどまっている。


◇中国向け輸出が急減


 このような状況下で、中国経済の減速が明白になってきた。今年1~8月の中国の民間固定資産投資は、鉄鋼業が前年同期比12・9%減、石炭採掘業が同12・0%減、鉄鉱石採掘業が同19・5%減に落ち込んだ。これらの結果、関連産業の生産販売活動も大きく縮小。主な建設機械メーカーの油圧ショベルの販売台数は、15年に入り前年比約40%減で推移し、鉄道貨物輸送量や電力消費量の伸びも急速に縮小している。

 中国経済の減速は、資源需要の急減ももたらした。中国の輸入の3割近くは資源・貴金属類で、中国は世界の原油需要の約1割を占める。このため中国の資源需要の鈍化が国際商品価格を押し下げている。9月30日のニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物相場は、代表的指標の米国産標準油種(WTI)の価格が1バレル=45・09ドルで取引を終えた。昨年7月末の100ドル台の半値以下で推移している。鉄鉱石の価格は、11年2月17日の1㌧=191・70ドルに対し、今年9月30日は56・32ドルと約4分の1に暴落している。 加えて、中国が人民元を切り下げると、中国の対外購買力の減少(=資源国の中国向け輸出の減少)を招く。資源国・新興国が輸出代金の減少を通貨安で対応しようとすれば、ますます通貨安になる。

 通貨安の国では、輸入物価の上昇を通じたインフレが進みやすい。だが、インフレを抑える金融引き締めは、国内景気の足を引っ張る。財政政策への比重を高めようにも、財政赤字や債務残高が多いと、政策の自由度が限られ、景気を下支えできない恐れがある。

 通貨安になれば、自国通貨換算による現地法人の利益も減る。SMBC日興証券によると、現地法人の連結純利益に与える影響は「新興国へのエクスポージャー(価格変動リスクのある資産)×通貨下落率」で、連結純利益に占める新興国のシェアは、米国企業で31・9%、日本企業で12・4%。仮に中国経済が1%減速し、新興国通貨が10%減価した場合、連結純利益は米国企業で3・84%減少、日本企業で1・49%減少するという。 こんな厳しい見方もある。「中国の減速はアジア新興国に対し、リーマン・ショックを上回る打撃を与える可能性がある」と見るのは、UBS証券の青木大樹シニアエコノミスト。同社の推計によると、中国が深刻なリセッション(景気後退)に入れば、日本だけでなく香港やシンガポール、韓国、台湾がマイナス成長となる。中国が金融危機となれば、これらの国に加え、マレーシア、タイもマイナス成長に陥るという。


◇日本企業に大打撃


 資源国・新興国の危機は、日本にも輸出減少や海外現地法人の業績悪化などで影を落とす。日本から東南アジア諸国連合(ASEAN)への14年の直接投資は2兆円超で、中国への直接投資の約3倍に達している。

 資源安により、三菱商事や三井物産が出資するチリの銅鉱山製錬事業なども影響を受けている。また、自動車や半導体などの産業にも悪影響は及ぶ。インドネシアでは、経済減速により、1~8月の新車販売台数は67万1641台で前年同期比19・1%減少した。同国の自動車生産・販売の9割超は日本メーカーが占める。ジェトロの助川成也海外地域戦略主幹(ASEAN)は「インドネシアでは在庫調整が進まず、トヨタ自動車など日本の大手自動車メーカーは前年比で軒並み3割程度減産を余儀なくされている模様。この結果、ほとんどの企業が同国で減収減益になっている」と話す。

 自動車生産は、部品の輸入などで通貨安の影響も受ける。今年4~6月期の自動車メーカーの営業利益に与えた為替の影響は、日産自動車の場合、タイ・バーツ安で82億円減、ロシア・ルーブル安で69億円減などとなった。


◇世界に危機が飛び火


 現在は資源国・新興国の危機だが、この危機はさまざまな経路を通じて先進国にも波及しかねない。その経路の一つになりそうなのが、資源国のエネルギー会社などが発行した社債だ。例えば、資源安でエネルギー会社がデフォルトとなり、それに米国の投資家が投資していると、そこから欧米などにリスクが飛び火する恐れがある。

 中国経済の立て直しについては、10月の党中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、国営企業の改革方針といった景気浮揚策を示すことを市場は期待している。しかし、中国の財政政策は依然として不透明感が強い。日本総合研究所の関辰一副主任研究員は「今後、中国は過剰債務で金融緩和の効果が出ず、民間固定資産投資が大きく下ブレするリスクもある」と見る。

 こうしたなかで年内に米国が利上げすれば、資源国・新興国の経済減速にさらに拍車がかかり、ひいては世界不況に発展しかねないリスクをはらむ。