2015年

10月

13日

難民:難民流入に引き裂かれるEU 2015年10月13日号

 ◇排外主義の脅威と「ドイツ問題」


渡邊啓貴

(東京外国語大学国際関係研究所所長)


 EU(欧州連合)が難民受け入れをめぐって分裂の危機に瀕(ひん)している。9月14日の閣僚理事会では激しい論争の末に合意しなかったため、決裂の懸念があったが、9月23日の首脳会議では、閣僚理事会の合意を受けて、ギリシャ、イタリア、ハンガリーに滞在する12万人の難民受け入れを決定。表向き分裂は回避され、とりあえずEUは面目を保った格好となった。
 しかし今回の決定は事態の解決ではなく、むしろ「始まり」にすぎない。12万人のうちギリシャ、イタリアの6万6000人の受け入れは決まったが、難民の強制割り当てに強硬に反対するハンガリー滞在の5万4000人の処遇は未決定である。
 また合意は全会一致ではなく、多数決制で行われた。ハンガリー、スロバキア、チェコ、ルーマニアは反対票を投じ、極右と協力するフィンランド政府は棄権した。EUは当面の難民受け入れの決定を優先させ、加盟国間の「しこり」を覚悟して多数決投票にかけたのである。したがって難民受け入れ総数では合意したが、難民の各国への割り当てや受け入れ体制については未定である。今後さらなる受け入れ反対派と賛成派との角逐は必至だ。

難民問題の新たな展開

 今回のヨーロッパへの難民流入は、2011年にリビアなど地中海南岸からイタリア、ギリシャなど南欧諸国への大量の密航者が発生したことを端緒とする。シェンゲン協定(域内移動の自由を保障する協定)加盟国間ではいったん入国を許可された第三国人はその移動の自由が認められている。11年にはイタリアから入国した中東・アフリカ諸国の難民がフランスへ大量に流れたことから、フランスが一時的にシェンゲン協定を停止する事態にまで至った。
 しかしその後も難民流入はとまらず、今年春にはアフリカから地中海ルートで海路ギリシャやイタリアに密入国する、すし詰めの船舶が転覆する事故が相次いだ。EUもようやく密航船の取り締まりに本腰を上げ、4月には行動計画を採択、救助活動や国境警備の強化、密航船の捕獲・破壊を決めた。………