2015年

10月

20日

エコノミストリポート:広がる手術ロボット 2015年10月20日特大号

◇ロボット化が進む医師の「神の手」

◇米国のダビンチが新市場を牽引


日諸恵利

(みずほ情報総研コンサルタント)


 医療用手術ロボットの市場創出と拡大の動きが続いている。

 その草分け的存在なのが、ナスダック上場のインテュイティブ・サージカル(本社・米カリフォルニア州)が1999年に発売した「ダビンチ」である。この手術ロボットは、前立腺がんや肺に穴が開く自然気胸など、各種疾病に対する胸腔(くう)・腹腔内手術のために開発された世界初の手術ロボットである。価格は1台当たり1億7000万~3億円程度と非常に高額な製品でありながら、すでに全世界で約3100台が導入され、200万人の手術実績を持つ。

 このロボットの仕組みは、内視鏡で撮影した疾患部の画像を拡大して画面に3次元で表示し、医師(術者)がその画像をみながら、レバーで手元操作を行うことにより、人の手首や指の動きがロボットアームに反映されるようになっている。

 さらに、手ぶれ補正や関節の360度回転など、人間の手では難しいような精緻な動きを安定して行うことができる。これにより、従来は胸腔・腹腔内手術が難しかった部位(消化管手術、前立腺がん手術などで必要な尿道とぼうこうの吻合(ふんごう)手術など)の手術にも対応できるようになった。

 また、20~40センチの傷痕が残る開腹手術に比べ、1~2センチの小さな穴を複数開けることで実施するため、身体にダメージを与えるリスク(侵襲性)を低く抑えられるという特徴を持つ。傷口が小さいことから、出血量が少なく、術後の早期回復による入院期間の短縮化といったメリットもある。さらに感染症予防や、器官の機能温存可能性の向上なども期待できる。

 日本では2009年に、厚生労働省所管の薬事審査機関「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」から製造販売承認を受けて、10年から販売を開始。すでに計188台が導入されている(14年9月末現在)。また、インテュイティブ・サージカルは日本で「ダビンチ」を使用できる医師をさらに増やすべく、米国外では最大となるトレーニングセンターを東京都に設置した。初年度は、約400人の外科医を対象としたトレーニングコースを実施予定だ。


 ◇日本のベンチャーも参入


 手術ロボット分野では、「ダビンチ」以外にも、ロボドック(本社・米カリフォルニア州)の「ロボドック」も有名だ。ロボドックは、人工関節置換手術に用いられ、コンピューター制御のカッターで骨盤などに正確に人工関節用の穴を開けることができる。着々と症例数を増やしている。

 手術ロボット分野では米国が進んでおり、日本はやや後れを取っている。ただし、全く動きがないわけではない。日立製作所は02年に内視鏡を保持する装置「Naviot(ナビオット)」を発売している。最近では、リバーフィールド(東京都新宿区)という大学発ベンチャー(東京工業大学と東京医科歯科大学が14年5月に設立)が、空気圧で駆動する内視鏡ホルダーロボット「EMARO」を15年8月に販売開始した。

 EMAROは、術者が頭部に装着したセンサーによって、頭の動きを検知し、足元のスイッチと合わせて術者自らが内視鏡を空気圧で動かすことができるロボットである。一般的に手術の際は、術者に「スコピスト」と呼ばれる内視鏡で患部を映す助手が付き、スコピストが術者の指示に従って内視鏡を操作する。しかし、コミュニケーション面の負荷が生じたり、手ぶれが発生するといった課題がある。

 EMAROはこのような課題が解決できるほか、医師不足で優秀なスコピストの確保が難しい病院でも内視鏡手術が行えるようになる。今後は、ビジネスとしてどう市場化させていくのかが期待される。

 世界の手術用ロボット市場は成長が見込まれている。米ウィンターグリーン・リサーチは、14年時点に32億ドル(3840億円)に達し、21年には200億ドル(2・4兆円)の規模へと成長すると予測している。


 ◇「神の手」を機械化


 手術ロボットの登場に意味があるのは、従来「神の手」と呼ばれてきたような一握りの医師にしかできなかった緻密な手術を、多くの医師が行えるようになったことがある。...