2015年

10月

20日

特集:日本郵政株 大解剖 ゆうちょ銀行の収益力 2015年10月20日特大号

◇アベノミクスに左右される現状

◇新ビジネスモデル構築が不可欠


野崎浩成

(京都文教大学教授)



 企業にとって新規株式公開(IPO)といえば、夢も希望もある船出であり、成長を世に示す貴重な機会である。しかし、上場承認時に発表されたゆうちょ銀行の2015年度業績の見通しは、当期純利益が前年実績比13%の減益予想となっている。

 業績見通しばかりではない。政府がバックアップする機関投資家向け行動原則「スチュワードシップ・コード」や、企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」が市場からも発行企業からも重く捉えられている中にあって、ROE(株主資本利益率)への意識が高まっている。そんな中にあって、ゆうちょ銀のROEは3%台と8~10%を目指す企業が増える状況下で、その半分に満たない低空飛行が続いている。収益成長も期待できず、4%にも満たないROEの会社の株を「買え」というのは無理だという機関投資家がいても不思議ではない。

 一方で、日本郵政グループは親方日の丸だから安心だという個人投資家の声も報じられている。

 しかし、現状の収益水準やそのトレンドのみを捉えて投資判断をするのも適切ではないし、政府の後ろ盾があるから安心であるという指摘も的を外している。

 ゆうちょ銀の将来的な業績見通しを語るには、▽現状の収益環境の背景▽環境変化による業績への影響▽新規業務による収益多様化や政府の関与──の3点から整理する必要がある。


 ◇いびつな収益構造


 ゆうちょ銀の収益構成は、かなりいびつである。業務特性は地方銀行に似ていると言われるが、地銀の収益特性は金利に依存した収益である「資金利益」への集中という意味では、ゆうちょ銀は地銀以上に資金利益への依存度が高い。国内の有価証券利息配当金を中心とする資金利益に集中しており、国債など円建ての安全資産で運用された果実が本業収益を示す業務粗利益の大部分を占めている。

 メガバンクとの収益構造の差を理解するために、銀行の経費控除前の業務粗利益の構成を比較した(図1)。明らかに、ゆうちょ銀は資金利益にほとんどの収益源があることを確認できる。

 しかし、個人ローンは貯金担保融資以外はできないため、スルガ銀行の商品を媒介販売している住宅ローンに限定されるほか、企業向け貸し出し業務もシンジケートローン(協調融資)への参加などごく一部に限定されており、収益源を有価証券運用に求めざるを得ない状況は同情の余地がある。特に07年の郵政民営化後は、民営化前から引き継いだ政府保証対象貯金見合いの運用が法令上安全資産での運用が義務付けられてきたことも、現在に至る国債に偏った資産構成の背景となっている。

 このような資産構造ならびに収益構造は、国内金利の情勢に大きく影響を受けることが避けられない。このため、低金利環境はゆうちょ銀の収益性を奪う。図2は、ゆうちょ銀発足後の利益水準の推移をメガバンクと比較したものである。銀行の収益を示すコア業務粗利益は、債券売却益などの一過性の強い収益を排除するため、業務粗利益から特定取引利益(トレーディング収益)ならびに、その他業務利益(債券売却損益など)を控除している。

 日本の長期金利は、ほぼ一貫して低下していたため、受取利息配当金は減少する一方、調達コストは減少余地が少ないため、資金利益は圧迫を受けてきた。このため資金利益に依存したゆうちょ銀の利益水準は、メガバンクの後塵を拝している。

 収益構造のいびつさと国内金利動向への感受性の高さは、経営陣の問題意識と重なる部分であろう。事実、ここ1年間で運用資産の内容は様変わりしている。14年3月末における日本国債残高は総資産の63%に当たる126兆円であったが、昨年12月末には53%の109兆円と短期間で1割以上の残高減少となった。一方、外国証券等は11%の22兆円から14%の30兆円へ4割近く増やした。

 しかし、円預金でのファンディング(調達)が主である以上は、為替リスクを取らない外貨資産運用は限界が見えている。ドルなどの外貨預金を取り扱っているものの、ごくわずかである。このため、外債などの外貨建て資産で資金を運用する場合、外貨の確保が必要になる。

 もちろん、預金で調達した円をドルなど外貨に交換すれば外貨建て資産は取得できる。だが、満期には投資した果実が外貨で戻ってくる。これを円に再び交換して預金者に戻さなければならない。満期までは為替リスクが発生してしまうため、為替予約などのリスクヘッジが必要になるが、そのコストを考えると、結局同程度のリスクの円の資産に投資するのと収益率は変わらない。

 ただ、アベノミクスが成功を見た場合は、収益が大化けする可能性がある。アベノミクスの下、消費者物価指数上昇率2%を目標に大胆な金融政策を展開しているが、このターゲットをクリアし、デフレ脱却が明らかとなれば、日本版量的緩和縮小(テーパリング)が見えてくる。短期金利に先駆けて長期金利が上昇するだろう。ゆうちょ銀の新規投資国債の利回りは上昇し、運用収益が着実に増加する。仮に短期金利が1%上昇し、貯金金利感応度が従前同様に4割程度とすれば、貯金スプレッド(運用利回り-貯金金利)が0・6%拡大する。10兆円の貯金増加で、税引前収益が600億円増加するほどのインパクトである。

 したがって、アベノミクス成功を予想する場合、ゆうちょ銀は恩恵を受けるわかりやすい銘柄として注目を集める可能性は大きい。


 ◇郵便局網で新事業展開


 冒頭、ゆうちょ銀が「親方日の丸だから安心だ」という考え方は当を得ていないと指摘した。確かに、IPO前は政府の日本郵政を介した間接持ち分は100%であった。しかし、今回のIPOの眼目は、改正郵政民営化法の規定に基づき、将来的に議決権のすべてを政府の間接関与から外すための第一のステップであることを忘れてはいけない。

 また、将来における「夢」を語る上では、ゆうちょ銀の新規業務進出の「絵」は不可欠である。同法によれば、政府の間接関与割合が50%を割ると、新規業務が認可から届け出事項に変わる。すなわち、「親方日の丸」と新規業務は明らかなトレードオフの関係にある。

 昨年来、住宅ローンなど新規業務の認可申請を行っているゆうちょ銀であるが、リスク管理態勢など、認可に向けたハードルは決して低くない。現状の金利環境で収益源の多様化を目指すには、日本郵政が保有するゆうちょ銀株の売却を更に進める必要性があるように感じる。

 ただ、仮に新規業務への参入が可能となったとしても、課題はある。前述のように、ゆうちょ銀の収益源は資金利益に偏っており、手数料収益が極めて脆弱(ぜいじゃく)である。近年は地銀でさえ投資信託や年金保険などの個人向け金融商品の販売に忙しく、手数料収益を伸ばし始めている。

 一方で、ゆうちょ銀は投資信託等の販売が可能であるにもかかわらず、手数料収益には厚みが出ていない。仮に住宅ローンや中小企業貸し出しなどの新規業務が緩和されても、こうした新規事業で実績を伸ばせるか、疑問が残る。

 やはり鍵を握るのは、ゆうちょ銀のわずか234の直営店だけではなく、2万余の郵便局ネットワークで新たな事業を展開できるかである。

 金利が上がれば収益は改善する。しかし、環境変化に頼らず成長を目指すには、人材育成と多様な金融商品を多彩なチャネルを通じて届けるためのビジネスモデル構築が課題であることは間違いない。


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この記事の掲載号

2015年10月20日特大号

 

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