2015年

10月

20日

第2特集:韓国の限界 韓国企業を襲う複合ショック 2015年10月20日特大号

Bloomberg
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◇中国減速、ウォン高、資源安…


桐山友一

(編集部)


 世界5位のメーカーとなった韓国・現代自動車グループ。傘下の起亜自動車を含め、昨年の世界販売台数は約800万台にのぼる。しかし今、現代自動車の成長を支えてきた中国市場で、大きな試練に直面している。

「状況は困難だが、正面突破しよう」──。韓国紙によれば、現代自動車グループの鄭夢九(チョンモング)会長は7月、社内にこう発破をかけたという。欧州市場なども停滞する中、現代自動車の中国での販売台数は今年8月、前年同月比16・6%減の7万100台と5カ月連続の前年割れ。6月には30・8%減を記録した。中国市場の落ち込みは業績全体に波及し、現代自動車の今年1~6月期の売上高は前年同期比1・4%減の43兆7640億ウォン(約4兆5000億円)、営業利益も同17・1%減の3兆3390億ウォンと、急ブレーキがかかっている。


 ◇現代自の“過剰投資”


 現代自動車の中国での販売台数は昨年、前年比8・6%増の111万5000台と右肩上がりで増加を続け、同社販売台数の2割強を占める最大市場に成長していた。ところが、今年に入って状況が一変。景気減速や株価下落による消費者心理の落ち込みで、自動車販売そのものが停滞する。中国汽車工業協会によると、中国の8月の自動車販売は前年同月比3・0%減と5カ月連続のマイナスになり、今年は年間の新車販売も前年割れが危惧されるほど。長安汽車や長城汽車といった中国地場メーカーが力を付け、安値攻勢によって各社との競争が熾烈(しれつ)化している。

 また、中国での積極的姿勢が今後、経営の重荷となる恐れも高まっている。販売台数が伸び続けていた昨年12月、現代自動車は中国に第4工場(河北省滄州市)、第5工場(重慶市)の建設を表明。第4工場は今年4月、第5工場は6月に着工した。この2工場が18年にも稼働すれば、生産能力は現在の年間121万台から年間181万台へと拡大する。また、現代自動車傘下の起亜自動車も、江蘇省塩城市の第3工場で能力拡張を進めている。日本総合研究所の向山英彦上席主任研究員は「中国の自動車市場が鈍化する中で、将来に過剰設備となるリスクがある」と指摘する。

 追い打ちをかけるように、韓国内の現代自動車工場では9月23日から3日間、労働組合が通常賃金の引き上げなどを求め、4年連続となるストライキを決行。陰暦8月15日にあたる秋夕(チュソク)の連休(26~29日)をはさんでストは終結したが、韓国紙によれば1日で730億ウォン相当の生産台数への影響が出たという。


 ◇軒並み赤字の造船


 業績の急降下は、自動車産業にとどまらない。

 現代重工業、大宇(デウ)造船海洋、サムスン重工業の韓国造船大手3社は今年4~6月期、軒並み営業赤字を計上。3社合計の営業赤字は4兆7500億ウォン(約4900億円)を超え、人員削減などのリストラを余儀なくされている。中国経済減速の影響で造船市況が軟調となり、対円でのウォン高によって競争力が低下。韓国の造船関係者は「思うように新規受注が取れない」と嘆く。さらに今回の決算では、原油安などを受けた海洋プラント事業の損失計上が、赤字幅を大きくした特徴がある。

 受注量で03年、日本を抜いて世界トップとなった韓国造船業。ウォン安などによる高いコスト競争力を武器に、世界各地で受注を伸ばしてきた。しかし、中国の造船業界が急速に追い上げ、12~14年は中国にトップの座を明け渡した。昨年半ばまで1バレル=100ドル前後の原油高が続いた時期、韓国造船大手が取り組んだのが、原油など資源を掘削する海洋プラントの受注。ところが、昨年半ば以降は急速に原油安が進行し、現在も1バレル=50ドルを割り込む状況に、海洋プラントの受注が急減した。中でも、大宇造船海洋は工事の遅延なども重なり、4~6月期は営業損失3兆318億ウォンを計上した。

 ウォン高も輸出競争力をそいでいる。韓国銀行は今、政策金利を史上最低の1・5%とし、米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和が終了から利上げへと向かったため、ウォン・ドル相場は昨年6~7月を底にウォン安に転じた。しかし、対円では日銀の金融緩和の影響で、12年夏からほぼ一貫してウォン高が進行する(図1)。対ユーロでも欧州中央銀行(ECB)が大規模な金融緩和に乗り出しており、通貨の相対的な実力を示すウォンの実質実効レート(10年=100)は今年7月、114と依然として大幅なウォン高水準にある。


 韓国鉄鋼最大手のポスコは今年4~6月期、中国の鉄鋼過剰生産のあおりなどで、営業利益が前年同期比で18・2%減。海運大手の韓進(ハンジン)海運は営業利益が同2・4倍になったものの、荷動きは低調で利益水準は高くはない(図2)。韓国経済を牽引(けんいん)してきた大手企業を今、中国経済の減速やウォン高、資源安といった複合ショックが次々に襲っている。


 ◇高い輸出依存度


 1人当たり国内総生産(GDP)で3万ドル(購買力平価ベース)を超え、人口も約5000万人と世界でも有数の経済大国となった韓国。その経済構造の特徴について、伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員は「『輸出依存度』(総需要に対する輸出の比率)の高さにある」と指摘する。韓国の輸出依存度は14年、36・8%と日本(17・7%)やドイツ(32・9%)を上回り、それだけ輸出が経済に与えるインパクトも大きい。最近までの韓国の実質GDP成長率の推移をみても、輸出の動向が大きく左右している(図3)。

 そうした輸出のドライバーとなったのが、近接する人口大国の中国だった。しかし、今年1~8月の韓国の輸出は前年同期比6・3%減。中国や中国経済の影響を受けるASEAN(東南アジア諸国連合)向けが前年割れに落ち込む(図4)。韓国LGグループのシンクタンク、LG経済研究院は今年の韓国経済の実質GDP成長率を、昨年(3・3%)を下回る2・6%と予測。16年も2・7%を見込み、3%超えの復活は見えない。危機感を抱く韓国政府は10月6日、チェギョンファン・経済副首相兼企画財政相が国会で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の大筋合意を念頭に「メガ自由貿易協定(FTA)には参加の方向で検討する」と述べた。

 日韓の経済関係は、ライバルだけでなく取引相手ともなる重層性を帯びている。名古屋市内のホテルで今年7月、日韓国交正常化50周年を記念して開かれた「愛知(日本)・韓国経済交流会議」(愛知県、韓国産業通商資源省など主催)。日韓の自動車部品メーカーなどが参加した商談会に、現代自動車もブースを構えたことが注目を集めた。現代自動車はすでに日系部品メーカーからも調達しているが、日本で開かれる商談会への参加は初めて。関係者によれば、インドで進める現代自動車の第3工場計画で、日系部品メーカーからの調達を検討しているという。

 日本から韓国への輸出額は11年、600億ドルを超えていたが、14年は538億ドルへと減少した。日韓の貿易関係は基本的に、韓国の輸出が伸びれば、日本から中間部品などの輸出も伸びていく構造で、韓国の世界への輸出低迷が日本からの輸出に影を落とす。韓国がショックを抜け出せなければ、日本経済にも打撃となって返ってくる。