2015年

10月

27日

ワシントンDC 2015年10月27日号

 ◇移民問題が大統領選の争点に

 ◇成長の源泉か悪化させる存在か


安井 真紀

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)


 来年の米大統領選に向けた各候補者の政策討議で、移民政策が争点の一つになっている。米国に不法に滞在する移民は1100万人とも言われる。不法移民が米国で出産した場合、合衆国憲法修正第14条により、子供には市民権が与えられるが、その親は国外退去が求められる。そのためオバマ大統領は、不法移民に永住権や市民権取得の道を広げることを柱とした大掛かりな移民政策を実現しようとした。だが、共和党が多数を握る議会の強い反対もあり、実現には至っていない。2014年11月には、米国内に5年以上滞在し、犯罪歴がないなどの一定条件を満たす不法移民を対象に、3年間にわたり強制退去の対象としないという行政権限を発動したが、これも連邦裁判所の差し止め判決により施行に至っていない。

 今年6月に発表されたピュー研究所の世論調査によると、「移民が米国経済を支えてきたか」という問いに対し、「移民の労働と技能が米国の成長につながった」という回答が51%、「米国の雇用悪化、社会保障の負担増になった」という回答が41%で、世論は二分されている。特に否定的な見方は共和党の支持者に多い。共和党支持者の63%が米国経済を悪化させたと回答し、肯定派は27%にとどまる。これが民主党支持者では逆転し、肯定派が62%、否定派が32%となる。共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏は、オバマ大統領の移民政策を強く批判し、「不法移民をただちに強制退去させるべきだ」と主張する。同氏は、不法移民が米国で産んだ子供に対し、自動的に市民権を付与するべきではなく、不法移民の親も含め国外退去させるべきだと強調。「妊娠9カ月の女性が国境をまたいで、米国で出産し、我々米国民が、その子供の面倒を85年間みなければならないのはおかしい」と9月16日の共和党大統領候補者の討論会で発言した。トランプ氏は6月にも不法移民について、「麻薬密売やレイプなどの犯罪に手を染める人たちで、良い人はほんの一握りだ」と述べている。

 トランプ氏は、ワシントンDC市内の旧郵便局跡地にホテル建設を計画中で、そこに有名シェフで移民でもあるホセ・アンドレ氏の人気レストランが入る予定だった。だが7月初め、アンドレ氏がトランプ氏の不適切発言を受けて、出店契約を白紙に戻す事態となった。


◇白人は半分以下になる


 移民強硬派は、不法移民や、米国で産まれた不法移民の子供が、公立学校に入ったり社会保障サービスに加入したりするのを禁止すべきだとも主張する。米政府の財政悪化に歯止めがかからないなか、このような主張を支持する人が増えている。

 一方、移民容認派は、「移民は製造業や農業、その他米国人が進んでやろうとしない危険な仕事を引き受けて、社会保障税や所得税等を進んで払っている」と指摘する。

 ピュー研究所が9月に発表した調査結果によると、現在約4500万人の米国の移民は、今後50年間で7800万人に増え、人口に占める比率は過去最高の18%になるとみられている。また、人種の構成は15年現在、白人が62%、続いてヒスパニック18%、黒人12

%、アジア6%となっているが、今後はアジアからの流入が増え、55年には白人が人口の過半を割ることが予想されている。

 移民を経済成長と国力の源泉と考えるか、社会保障費等の負担増と捉えるか。はたまた、より良い生活と収入を求める移民に、米国が選択される国であり続けるのか。米国の将来を左右する課題の一つとして、今後も移民政策の行方に注目したい。